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柿本人麻呂 淡路の野島の先の
柿本朝臣人麻呂の羇旅の歌から
淡路の 野島の先の 浜風に 妹が結びし 紐吹き返す
(巻3-251)
淡路の野島の先の浜風が、家で妻が結んでくれた旅衣の紐を、吹き流している。
旅立ちの時に、男の装束の結び紐を、妻が旅の安泰を祈って結ぶのが、この時代の風習だった。
つまり、旅衣の結び紐は、妻の思いの籠ったものであり、旅をする男にとっては、自分を待ち続ける、自分も早く戻って顔を見たいと思う、妻を偲ぶ対象となる。
浜風にたなびく衣の紐は、吹かれるがまま。
紐が揺れるたびに、妻のことを思い出す。
ただ、異郷の地。
紐が自然にほどけてしまった場合は、不吉とされた。
普通に読んでいくと、さわやかさを感じる海の歌で、家で待つ妻を偲ぶ歌。
ただ、その風が強くなり、紐がほどけるようになれば、それは不吉の兆し。
旅路の緊張感も、深く詠みこまれている歌と思う。