柿本人麻呂 石の中の死人に哀しむ(2)
反歌二首
妻もあらば 摘みて食げまし 沙弥の山 野の上のうわぎ 過ぎにけらずや
(巻2-221)
沖つ波 来寄る荒磯を しきたへの 枕とまきて 寝せる君かも
(巻2-222)
あなたが妻と一緒であったなら、お二人で摘んで食べたでしょうけれど、沙弥(狭岑)の山の野の上のうはぎ(嫁菜)は、盛りも過ぎてしまいましたね。
沖からの波が押し寄せ、叩きつけて来る荒磯を、枕にして あなたは眠っておられるのです。
いずれも、妻に看取られることがなく、孤独に死を迎えた死者を哀しむ歌。
あなたは、もう、愛する妻と一緒に、うはぎ(嫁菜)を摘んで食べること(時期)も、過ぎてしまいましたね(そんなことが出来なくなってしまいましたね)。
こんなゴツゴツとした荒磯を枕にして眠っている(死んでいる)あなたに聞こえるのは、沖から押し寄せ、たたきつける波の音だけ(あなたの愛する、あなたを愛する妻の声ではない)。
誰にも看取られず、誰からも放置されたままの、行き倒れの死体。
いろんな想いを抱えて、死んでいっただろう。
せめて、言葉をかけてあげよう、語り掛けてあげよう。
それを、この哀しい死者の、死出の旅への手向けとしよう。
人麻呂の哀悼は深い。