柿本人麻呂 泣血哀働歌(2)
短歌二首
秋山の 黄葉をしげみ 迷ひぬる 妹を求めむ 山道知らずも
(巻2-208)
黄葉の 散り行くなへに 玉梓の 使ひを見れば 逢ひし思ほゆ
(巻2-209)
短歌二首
秋の山の黄葉が盛り どこかに迷い込んでしまった妻を探そう 山の道もわからないけれど
黄葉が散る頃 妻の死を告げる手紙を運んできた使いを見ると 妻と逢っていた日のことを思いだす。
※玉梓の:使いにかかる枕詞
山の中に埋葬した妻は、(本当は死んでいない)、秋の山の黄葉が繁茂してしまって、迷い込んでしまったに過ぎない、しかし、その妻に逢いに行く道がわからないと嘆く。
そう歌いながら、落葉の時期に、死を告げに来た使いの者を見ると、逢っていた日のことを思い出すと歌う。
もうすでに、この使いの者は、妻からの手紙は、持っては来ない、それを思うと、ますます、逢っていた日のことを思い出し、寂しさに沈んでしまう。
妻の死を認めず、落葉激しい山の中に、道も知らないで入って、妻を探そうという激情。
それでも、妻の死を告げに来た使いの者を見かけると、もう決して妻からの手紙は持ってくることはないことを、ハッと気づく。
そうなると、愛の手紙をやり取りした日、何度も逢って愛を確かめあった幸せな日々を思い出す。
そして、帰り来ぬ愛を嘆き、また悲哀に沈む。
人麻呂の哀惜は、尽きることがない。




