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万葉恋歌  作者: 舞夢
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久米禅師の石川朗女を娉ひし時の歌五首

久米禅師(くめのぜんじ)石川朗女(いしかわのいらつめ)(よばひ)し時の歌五首


みこも刈る 信濃の真弓 わが引かば うま人さびて 否と言はむかも (禅師)

                                (巻2-96)

みこも刈る 信濃の真弓 引かずして 弦作るわざを 知るといはなくに(郎女)

                                (巻2-97)

梓弓 引かばまにまに 寄らめども 後の心 知りかてぬかも     (郎女)

                                (巻2-98)

梓弓 弦緒(つる)を取り()け 引く人は のちの心を 知る人そ引く    (禅師)

                                (巻2-99)

東人の 荷先の箱の 荷の緒にも 妹は心に 乗りにけるかも     (禅師)

                               (巻2-100)


久米禅師が、石川郎女に求婚した時の歌五首。

※両者とも、伝未詳。

※みこも刈る:信濃の枕詞。みこもは水辺に生えるイネ科の草。

※真弓:(まゆみ)で作った弓。弓は信濃の特産品。



信濃の真弓を引くように 私があなたの心を引いたのなら あなたはお高くとまって、お断りになるのでしょうか                  (禅師)


信濃の真弓を引いたこともないのに 弦をつけるやり方を 知っているなど普通はおっしゃりません                         (郎女)


梓弓を引いたのなら そのまま私はあなた様に寄り添ってしまうのでしょうけれど その後のお気持ちが 不安なのです                (郎女)


梓弓に弦を取り付けて引く人は 心変わりなどしない 後々までの心を知っている人だから 引くのですよ                      (禅師)


東人の朝廷に納める荷前の箱の緒のように、あなたは私の心に しっかりと乗ってしまったのです                          (禅師)



五首全体で、歌物語の構成を持っている。

一首目の「引く」は、「共寝」を誘い、「貴人さびて」は、ほぼ戯れなのか「お高くとまって」と、かなり直接的な求婚の意思を示す。


二首目の郎女の返事は、弓は射る前に弦を張るもの、第三句の「引かずして」は弦を張るために、弓をたわめることもしないでの意味と思われる。

つまり、「あなたは、きっと口先ばかり、あてにはなりません」と、お断りの意思。ただ、恋の駆け引きと思う。


三首目は、弓を引かれてしまうと、弓末がたわみ寄り、私の心が、あなたに寄せられてしまう、しかも、その後のあなたの心変わりがあるかもしれないのに、と不安を歌う。


四首目で、禅師が、心変わりなどありません、そんなことは将来に誓ってありませんと、禅師が、強い意志を示す。


五首目では、「荷前」(毎年諸国から朝廷に貢納する調の初荷)の箱のように、あなたは、しっかりと私の心に乗ってしまったと歌う、おそらく、この時点で結婚は成立している。



後代の伊勢物語や源氏物語の原型ともいえるような、歌による男女の恋の駆け引きの物語。


男に求婚され、女は一度は拒否の態度、それでも好きになってしまい心変わりを不安に思う。

男は、そんなことはない、気持ちは本物、ずっと変わらないと誓う。

そして、めでたく結婚。


第五首目の 荷前の緒のしっかりさ、重さは、「尻にひかれてしまった」の意を込めたのかもしれない。

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