籠もよ み籠持ち ふくしもよ みぶくしもち この岡に
泊瀬朝倉宮に 宇御めたまひし天皇の代 大泊瀬稚武天皇
(はつせあさくらのみやに あめのしたをさめたまひし すめらみことのみよ
おおはつせわかたけるのすめらみこと)
籠もよ み籠持ち ふくしもよ みぶくし持ち この岡に 菜摘ます児
家告らな 名告のらさね そらみつ 大和の国は おしなべて 我こそ居れ
しきなべて 我こそいませ 我こそば 告のらめ 家をも名をも
万葉集 1-1
かごも よいかごを持ち へらも よいへらを持ち
この岡で 若菜摘みをしている娘さん
お家を教えて欲しい
お名前を教えて欲しい
この大和の国は 全て 私が治めている
全て 私が支配している
私こそ 名乗りましょう
私の家も 名前も
この大らかで、力強い明るさに満ちた早春の歌は、全万葉集の冒頭 雄略天皇の御製と伝承されている、求婚の歌である。
当時、女性に家や名前を聞くことは、求婚の意思の表明。
文字資料として残る、日本最古の歌集万葉集に、古代日本の代表的な帝王と伝承されてきた雄略天皇御製として、早春の求婚歌を乗せたことは、大変おめでたくもあり、この言霊の国を、将来にわたって、言寿ぐことにもつながり、実にふさわしいことだと思う。
※籠:若菜を入れるかご
※ふくし:根菜を掘るためのヘラ。
※若菜摘み:早春に女性たちが、食用の野菜を摘み取ること。
※この歌は相聞歌には属しませんが、万葉集の冒頭の歌として、選び、訳を試みました。
※次回以降、万葉集における相聞歌を中心にして、訳をしていきます。