鹿島悟の体外離脱
俺は鹿島 悟。体外離脱者だ。
体外離脱者とは、特殊な能力を持った人間が、鍛錬の末あみ出せる特別な技であり、職業でもある。
依頼人から金を受け取り、依頼人の夢を叶える。
例えば、体外離脱を行い、異性に憑依して体を乗っ取り、依頼人とデートしたり、ご飯を食べに行ったりする。
俺は今、体外離脱をして、端正な顔立ちをした女優の三島 洋子に意識を残して憑依していた。
三島 洋子は俺の依頼人だ。
彼女は極度のあがり症で、仕事などで慣れている人物は大丈夫だが、それ以外の人物を前にすると貧血を起こして倒れてしまう。特に好きな男性の前では。
そこで俺の噂を聞いた彼女が、依頼しにやって来た。
一目惚れした男に、自分の体で何度か会って、デートを重ねて告白をしてもらいたいという依頼だった。
一目惚れした男は、精悍な顔立ちをした二十代の人物。名は横澤 大輔と言い、都内の会社で働いているサラリーマンだ。
俺は、飲食店街のカフェで、横澤とお茶をしていた。
「まさか女優の三島さんが声をかけてくれるなんて驚きです」
「初対面なのに街中で急にごめんなさいね」
「いいですよ。僕は三島さんのファンでしたし」
「そうなんですね」
俺はテーブルの上のアイスコーヒーを口に含んだ。
「横澤さんは好きな女性のタイプは何ですか?」
「優しくて面白い子ですね。なんでそんなこと聞くんです?」
「ちょっと参考にと思って」
「もしかして、僕に……?」
「ええ。実は一目惚れしてしまいまして」
「そ、そうなんですね。でも、すみません。僕には妻子がいるので」
ガーン!
俺はショックを受けた。
「そう……ですか」
だが、こうなることも想定していた。
同業の雪子に、合図を送る。
すると、横澤の妻に憑依した雪子がやってくる。
「ちょっと、その女誰?」
「え?」
振り返る横澤。
「と、陶子!?」
「あんた、私に隠れて不倫?」
「え? あ、いや、違う!」
「もういい! 別れる!」
雪子が横澤に離婚届を叩きつけた。
「それ、書いて提出しておいてちょうだい」
そう言い残し、立ち去る雪子。
「待ってくれ、陶子!」
「うるさい!」
雪子が横澤をぶん殴った。
やりすぎじゃね?
「やったな!?」
逆上した横澤が、雪子に襲いかかる。
「やべ!」
俺は横澤の体に飛び込んだ。
「え?」
力なく倒れる横澤。
「ふう、危ない」
俺は起き上がった。
「鹿島さんね?」
と、雪子。
そこへ三島が駆け寄ってくる。
「鹿島さん……ですか?」
「はい」
俺は立ち上がった。
手元には離婚届が。
「俺、離婚届出してくる」
「え、でも……」
「それじゃあ、記憶を置換して本人に行かせよう」
「体外離脱者ってそんなこともできるんですか?」
「まあね」
俺は横澤の記憶を弄り、その体から飛び出した。
横澤は離婚届を役所へ提出しに行く。
その後、婚姻届にサインし、三島と共に提出した。
後日、三島が俺の事務所に訪れ、報酬を渡してきた。
当初の依頼内容とは違ったけれど、三島が横澤と結ばれることができたからよしとしよう。