創られた
私は、見覚えのない場所に立っていた。
どこからともなく突風が吹き荒れる。空が濁っている。空気が痛い。
欠片だ。
欠片を集めろ。
私の、大切な欠片。これがなければ私の大切な、真に大切なものを手に入れることができない。
なぜ大切なのかは覚えていない。宝物だった気もするし、友達だったような気もする。
とにかくそれがバラバラになった。私はそれを集めなければならない。
この世界には全ての欠片が揃っているはずなのだ。
あの子とはそこで出会った。
私より歳の離れた小さな女の子。彼女が私の探す欠片を持っていた。
曰く、彼女は風を操る。私が無くしてしまった欠片、綺麗な欠片を、風を使って興味本意で集めていたという。
欠片集めに協力するよう頼んだ。
彼女は快く了承してくれた。
結果から言うと、欠片は全て集まった。
全部で10個の欠片。
礼を言うと、別にいいと笑ってくれた。
なんの邪心もない純粋な笑顔だった。
そうして集まった欠片は綺麗な水晶へと形を変える。
そこで、私は思い出した。
この水晶は、現実だ。
これを所持していることで、私は現実へ帰れる___
待て。
私は覚えていなかった。
私が帰るべき場所は現実だ。ならば___
ここは何なんだ?
創られた世界だと彼女は応えた。
曰く、私と私の水晶以外は全て作り物なんだと。
風も、空も、大地も、少女ですらも。
帰り方は、分かっていた。
大きな階段を見つけた。有刺鉄線で阻まれた、石レンガ製の上へ続く階段。
その有刺鉄線が取り除かれていた。
ここから帰れる。私はそんな確信をした。
それから私は階段を登り始めた。
階段は恐ろしいほど長く、終わりが見えない。
否、終わりが見えないんじゃない。私が進んでいない。
パッと後ろを振り返ると、すぐ先程の階段のスタートが見えた。数分ほど駆け足で登ったつもりの階段は、ほとんど上に上がれていなかった。
それから私は、ずっと階段を登り続けた。
私が目指すべき上から、溢れんばかりの光が降り注ぐ。私は、そこへ帰らなければならない。
そして数時間、下手すると一日経ったかもしれない。
私は、遂に階段を登りきった。
階段の咲きには、大きな鉄扉。それを開ければ、私は間違いなく現実へ帰れる。
そして鉄扉へと手を掛けようと
そこで、手を止めた。
その扉を、開けてはならない気がした。
確かにこの先には、現実が待っている。この創られた世界とは違う、私が生きるべき世界だ。
しかし、あの少女はどうなる?
少女は創られた存在だから、ここから出られないと言っていた。だが彼女が見せた無垢な笑顔が、私は忘れられなかった。
あの子を連れ出して、外へ出たい。そう考えてしまったのだ。
頭の中では、無理だと分かっていた。
水槽から出された金魚は息ができず死んでしまう。
だが私は戻った。ここでずっと過ごすより、少女を置いて外へ出たほうが後悔する気がしたのだ。
教会に、少女はいた。
何故こんな場所に教会があるのかは分からない。
だが少女は一人で、そこに佇んでいた。
寂しそうな視線を外へ向けている。彼女はずっとそうしてきたのだろう。
一人でいる間、何もせず、ずっと遠くを見つめ
私は声をかける。
驚いたように振り返り、声を上げる。
その表情は困惑に溢れていた。
それと、ほんの僅かな希望。
私は、少女に言う。
そして私は___
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半端な終わり。
あの時の少女の澄んだ笑顔。
虚像?
記録。