偽物
100階建てのビルの中にいた。
屋上には行けない。行こうとも思わない。
私は、一番上の階にいた。
だが用があるのは一階なのだ。エレベーターを使って下へ降りる。
エレベーターの造りが非常に粗末だ。
一度1階まで降りだすと、凄まじい速度で落下していく。手すりを持っていなければ、体が宙に浮きそうになる。
エレベーターを使用する度、冷汗が頬を伝った。
着地のとき、体は耐えられるのか分からない。
尤も、今回は大丈夫だったので良しとしよう。
そして私は、一階で皆と合流した。
1階では、立食パーティーが行われていた。
私の知っている沢山の人々が、思い思いに食事を楽しんでいる。
私は腹も空いていないし、誰かと話したくもない。
あぁ、だから私は最上階にいたのだ。
私は再び、エレベーターに乗る。
そして100階のボタンを押す。気付いた。階のボタンは『1と10の倍数』しかなかった。
つまり1、10、20、30···100。
100階に行くまではやはり粗末だった。
私の体に凄まじい重力がかかるのだ。手すりに捕まっていなければ、体が潰されてしまう。
99階も離れているというのに、1階の声が聞こえてくる。
どれだけ騒がしいんだと思いつつ、私は会食が終わるのを待った。
どれくらい経っただろう。
気がつくと、1階からの声は消えていた。
突然止んだので不思議に思う。だが最上階に居続ける理由もないため下へ降りる。
また、あのエレベーターに乗るのか。。そう思った。
だがその時は違った。先程のように粗末には降りていないのだ。
だが、降下する速度は先程と変わっていない。
違和感を覚えつつ、私は1階へ降りる。
1階には、まだ皆がいた。
皆がいたのだが、それは皆ではなかった。
全てが偽物なのだ。
ドッペルゲンガー、ホムンクルス、分身。何の類かは分からない。
だが私には分かった。ここにいる者は、全て偽物だと。
同時に、背筋が凍りつくような感覚に襲われる。
このままだと、私も彼らのようにされてしまう。
私は急いでエレベーターへ戻り、ボタンを連打する。すぐに扉は閉まり、先程の粗末な上昇を始めた。
だが、着いた場所こそが災厄の始点だった。
それを目の当たりにした時、私の世界は終わった。
記憶……