二人の少女
そこは、ある会場だった。
私は、そこを知らなかった。だが、記憶には残っているように思えた。
知っていなければならない場所に思えた。
「ねえ、######?」
横から声がする。この声も知らないものだったが、聞き覚えがあるように思えた。
知っていなければならない声だった。
「今日、ずっとあの子と話してたけど···」
そう言って、少し先の少女を指差す。話したことは無かったが、記憶には残っているように感じる。
無意識に、違う、と首を振る。
「そっか。···ねえ、######?」
彼女が、私の顔を覗き込む。
だが、
「···や、やっぱ何でもない。ごめんね?」
そう言って、出口から帰ってしまう。
私も同じように、出口から外へ出る。
そして、何気なく手元の携帯電話を見た。
彼女からのメッセージに目を通し、
そこで、やっと思い出した。
彼女はもう、この世に存在しない。
哀しかった。
彼女のことは、既に記憶に無かった。だが、哀しくて仕方なかった。
涙が溢れそうになり、手で目元を拭う。
そして、思い出した。
この世界は、虚像だということ。
この記憶も、虚像だということ。
私と私を取り囲む全ての存在が、虚像だということ。
目を醒ます時間だった。
さっきまで現実だと信じ込んでいた世界が、音を立てて崩れる。私の記憶も、同じように。
だが、私は敢えて手を伸ばす。
記憶の断片を何とか掴み取る。
この虚像を、一行でも長く綴るために。
目が醒めた時、私は涙を流していた。
もっと、もっと。