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蜘蛛
蜘蛛がいた。
丸い、亀虫のような姿をした蜘蛛だった。それは見た目こそ亀虫そのものだったが、確かに足は八本あり、天井から糸で釣り下がっていた。
私の母はそれに気付くと、糸をつまんで部屋から出そうとした。
だが彼らの糸は伸縮性こそあったものの脆く、三秒ほどかけて床へと落ちていった。落ちた蜘蛛を探そうとした時、私は驚いた。
同じような蜘蛛が、あと四匹ほど床を歩いていた。彼らは速く、そういった意味でも正に蜘蛛だった。
私は慌てて母から捕獲用具を受け取った。用具と言っても、綿棒が入っているような、あの透明な筒だ。私は蜘蛛をその捕獲用具で捕まえると、外へ出すため玄関へと歩いていった。
その時だろうか。
私ですら気付かない間に、虚構が崩れ去ったのは。
人は、記憶の中にある理想郷に縋る