家
恐怖と怒り。当時の心境は、この二つの感情抜きには話せないだろう。
私は家にいたと思う。思うというのは、実際それが本当に私の家だったかは確証が持てないからだ。一度も見たことがないはずの場所だったが、しかし、私はその間取りをしっかりと覚えていた。どこがリビングでどこが寝室なのか。どこが玄関で、その扉を開けるとどんな光景が広がっているのか。ここにはどんな人が住んでいるのか。周りに住むのは、生息する動物は……その全てが、まるで当たり前かのように頭の中にあった。
そんな私の家に、大男が何人か押し掛けてきた。
私は隠れるように部屋を移動し、代わりに私の親が玄関から出た。今思えば、はたしてそれが本当に私の親だったのかは分からない。そもそも私に親など存在しないのだから、ここにいた親は偽物なのだろう。しかし当時の私は、これが本物だと信じて疑わなかった。
しばらく隠れていると、親と男の怒声が家中に響き渡った。それが私に関する話題なのか、そうではなかったのかは覚えていない。ただその内容に、酷く腹が立ったことだけは覚えている。
やがて騒ぎを聞き付けた住民、そして警察までもが家に集まりだした。耳を澄ましていると、どうやら大男達は私たちに文句を言っているらしい。ハッキリとしたことは覚えていないが、支離滅裂な内容だったのは覚えている。
それからしばらく経つと、大男達が帰っていくのが見えた。見えたというより聞こえたのだろうか。なぜ部屋に閉じこもって玄関を見ていなかったのに、大男達が帰っていくのが確認できたのかは分からない。ただ、その時の私は確信していた。
まったく、態度だけ大きな小心者が。心の中でそう悪態をつくと、私も部屋の隅から影へと微睡んだ。