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来訪者
家の前に一人、私の友人がいた。
いや、友人であったか。私にとっては友人だったが、相手はどう思っていたか分からない。
家の庭を通り、私の友人はその辺に腰を下ろした。私も、友人の隣に座ることにした。
調子はどうだ? 私が訊いても、友人は聞く素振りを見せなかった。そして、私にとってそれは当然だった。返事を得るために訊いたのではなく、私の自己満足から聞いたからだ。
何分経っただろう。友人は寝そべり、私は友人を眺めていた。
こんな穏やかな時間は何年ぶりだろう。長い研究を続けてきた私にとって、そもそも何かと共に時間を過ごすこと自体が久方ぶりだった。
私が立ち上がろうとした時、横で友人が鳴いた気がした。
ふと、私は横に目を向けた。長い尻尾の友人は、もうそこに居なかった。
虚構を見ること自体が久方ぶりである