第8話「Loneliness makes me weaker」
馬鹿みたいだよな。そもそも不可能だったんだ。俺は自分の運命を呪うべきだ。そして、彼女に謝るべきだ。そのためには生きていなければならない。
撃たれた腕が痛む。少女は上手く逃げ切ってくれただろうか。丸腰の俺が銃を持った相手に敵うわけがない。絶望的だ。
いっそ潔く諦めてしまおうか。バカ野郎、さっき生きなければと思ってたはずなのに。こうなったら、しぶとく生き続けてやる。自分の足が動かなくなるまで。ネガティブな思考はきっと命取りだ。気を取り直せ。
銃口がこちらを向いてるのが見えた。すぐ曲がりくねった路地に逃げ込めたから今のところ最初に受けてからは被弾していない。再び角を曲がる。後ろで銃声。
全く生きた心地がしない。けれど皮肉なことにそう思うのは生きているからだ、だなんて思ってしまった。少女が逃げた方とは逆方向へ。ただそれだけを意識して闇雲に逃げた。
しばらく逃げ回った。気付くと銃声は止んでいた。腕の傷は幸い酷いものではなかった。今はもう血は治まっている。
街は既に眠りについた時間、真っ暗闇の中で一人。息を殺し路地裏で少し休んでいた。
気付くと夜が明けていた。あのまま家の壁に背を預けて寝てしまっていたようだ。あれから追手は俺を見つけることもせず諦めたのか。
……ふと彼女の事が気になった。ちゃんと逃げ切れただろうか?そもそも追手は一人だけだったか?新たな追手が来ていないか?
彼女との連絡手段はない。彼女を見つけなくては。最悪の事態を考えた。彼女が既に追手に手を掛けられている可能性。
いや、もしかしたら生かしたままにしておいて、俺を捕らえるための餌にするかもしれない。
無事に会いたい。せめて、警察に保護されていてほしい。ふと、思った。それが彼女にとっては最善なのではないかと。
彼女が居たのは雇われ暗殺者の俺でも簡単に入れるふざけた牢屋だったが、今回の件でもう少しマシな場所で守られることになるだろう。
俺は一年分の金という甘い誘惑に乗ってしまった駄目な男だ。そんな男と一緒にあての無い旅、危険な逃避行をするよりかはきっとずっと安全だ。
孤独が余計に自分を弱気にさせる。彼女と別れる前、あんなに豪語していた自分はどこへいってしまったのか。
「……アホらし」
固まった血のついた服を見てとりあえず着替えようと立ち上がった。適当な店に入り、派手に転んでしまって、なんて苦しい嘘をつきながら少女のことを考えていた。
とりあえず昨日逃げた道を戻ってみることにした。と言っても大体しか覚えておらず、彼女と別れた場所に着いた頃には日が暮れていた。
そこから自分が逃げた方とは逆へ進む。それしか方法も手がかりもなかった。
「参ったな」
どうにかして彼女を見つけなくては。警察に保護されたというニュースでもいい。そういえば、今日は追っ手に出遭わなかったな。どうか、無事でいてほしい。
もう一度、彼女に会いたい。もう一度、一緒に逃げたい。