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獄中少女と雇われ暗殺者  作者: 零+α
6/10

第6夜「The sun illuminates us」


 馬鹿みたいだ。殺すはずの少女を牢屋の中から連れ出して、自分も追われている。

 ザル警備が悪かったのか。仕事を放棄した自分が悪いのか。いや、全てはこの腐りきった社会が悪いんだ。そう思うしか自分を保つことができなかった。


 自動車は使えない。お金も沢山あるわけではない。カードと通帳は持ったが、使えば足が付くだろう。

 どうやって逃げるんだ。どこまで逃げるんだ。この少女を連れて、一体どうしようと思ったのだろう。きっと頭で考えた訳でなく、身体が勝手に動いたはずだった。


 少女の手を掴んでいる右手はほんのり温かい。その温かさが弱音を吐かせてくれない。俺が、頑張るしかない。


「疲れてないか?」


「……大丈夫」


 確実性の無い未来が精神を削ってくる。それでも、俺には逃げることしかできない。追手から、社会から、現実から。

 なんとか途中でタクシーを拾った。俺と少女は酷く息を切らして束の間の休息を取った。運転手が「駆け落ちかい?」だなんて聞いてくる。「どうだろうね」と俺は答えて料金を支払った。


 また、俺たちは走り出す。もうまわりは俺が知らない風景で、どこか遠くに来てしまった感覚を覚えた。だけど距離にしてたった十数キロメートルの隣町だということを思い出して憂鬱な気分になった。


 毎日毎日会社に勤め、日々腐った社会の中で生きてきた。そのうちにきっと忘れてしまったのだ。町の景色や懐かしさといったものたちを。

 そして、またタクシーに乗り込んだ。今度の運転手は必要最低限の会話しかしなかった。すっかり真夜中の静寂が辺りを覆っていて、道路はすいている。


「何か食べたいなぁ」


 明るいコンビニの前を通ったとき、少女がそう言った。俺も確かにお腹が空いていた。


「次、コンビニあったら停めてください。買い物してる間待っていて欲しい」


 運転手が「わかりました」というと、新たなコンビニが見えてきた。コンビニで多少の食料を買い、ATMでお金を引き出した。


「なあ、どこまで逃げるん? タクシー代もバカにならんで」


「どこまでも逃げるんだよ、誰も来ないところまで」


「そんなん、無人島しかあらへんやんか」


少女はふふ、と笑った。


「もう腹は決めている。信じろ」


 彼女の前ではどこか格好つけてしまうようだ。本当は不安で一杯でどうしようもないのに。タクシーに再び乗る。暫く乗っていると僅かに東の空が明るくなってきた。

 料金メーターが1万5000円を超えたところでタクシーから降り、ゆっくりと歩き出した。


「朝日だ」


ふっと口からこぼれ出た。夜は明けたのだ。


「これからどうするん?」


「また、逃げ続けるんだ。それしかないだろ」


「そやね」


 先は見えない。だけど、太陽は俺たちを照らしてくれている。まだ、きっと、俺たちは天から見放されてはいない。


なあ、そうだろう?






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