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獄中少女と雇われ暗殺者  作者: 零+α
5/10

第5夜「I want to…」


 私を殺しに来たはずの暗殺者に手を引かれて暗い路地を走っている。何でこんなことになっているのだろう。全ては父の会社の経営悪化から始まった。両親が殺され、私も狙われている。

 だから刑務所に入れられて、守られていた。だが、こんな男の侵入を許す程度に警備はガバガバ。あれもこれも全部腐りきったこの社会の所為だ。


 男の手は冷たかった。昔聞いた、「手が冷たい人は心があたたかい」という言葉を信じたいぐらいに。私の手を優しく、でも、しっかりと握って。だからこそ、その手が震えているのがわかった。

 会社をクビにされたというこの男はまだ若いのだろう。ほんの数十年前なら、また新しい仕事に就くことも造作なかったような年なのだろう。

 悲運と悲運が手を繋ぎあって、現実から逃げようとしている。


「あの」


「なんだ」


「何で、うちを殺さへんかったん」


「……俺も人だから?」


「うちを殺せば少なくともあんたが死ぬことはなかった」


「あのなあ、今から死ぬのは確定だなんて思うな」


「強がり」


「ああ」


 何故だか不安はなかった。どこからか自信が湧き出てくるようだった。でも、それは長くは続かなかった。


「へい、兄ちゃん。その子はもしかして暗殺対象の娘ではないのかな?」


 狭い路地を塞ぐようにおじいさんが立っていた。男はポケットに手を伸ばし、10万円を投げつけた。


「じいさん、悪いな。これは返す。だから関わらないでくれ」


私と男は枝道に逸れた。あのおじいさんが追ってくる気配はない。


「マズいな。あいつに見られてしまった。追われるのも時間の問題だ。何か足を探そう。確か、この先にバス停があったはずだ」


大通りに出ると丁度バスがこちらへ向かって来た。


「バスに乗ったら、どのくらいお金を持っているのか教えてくれ」


「乗れへん。お金持ってないもん」


「げ、さっきの10万円……」


バスの扉はすでに開いていて、運転手が乗らないのか、と尋ねてきた。


「走るぞ」


男はぐっと私の手を引いた。バスの進行方向と逆に走っていく。


「一度俺の家に寄る。カードを取ってくる。銀行で持てるだけ引き出して、また逃げよう。車もある」


 男の家はそんなに遠くなかった。5階建てのアパートの4階まで階段を駆け上った。部屋は大変きれいで整理整頓がなされていた。男はすぐにカードやら鍵やらを鞄に詰め込んで逃げる準備を終えた。家にいたのは1分かそこらだった。


「あの、駐車場に怪しい人がおるで」


ベランダから様子をうかがっていた私は黒いスーツを着たいかにもな人物を見つけた。


「車はマズいな。やっぱり公共機関で逃げるしかないのか。まだ走れるか?」


 正直色々と辛かった。追われているという恐怖が確実に自分の精神を削る。走っているので勿論体力も減る。でも、捕まりたくない。


「大丈夫」


 この男の存在が大きかった。彼が私を殺しに来て良かった。他の人だったら今頃私は死んでいたかもしれない。そうなっていればそれはそれで構わなかったかもしれないけれど、今は違う。


 もっと生きたい。遠くへ行きたい。幸せに逝きたい。この人となら。


「いこう」


そしてまた、私たちは走り出した。


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