第2夜「Hired assassin」
職を無くした。別に失敗したとか、上司に失礼働いたとかそんなことはしていない。普通に仕事して、普通に生活していた。
「お前はクビだ」
会社はブラックではなかったと思う。だが、社長のその一言で俺の雇用契約が消える程度には歪んでいた。この社会が。
俺の何がいけなかったのか。俺のどこを直していれば会社に居続けることができたのか。考えても、もう無駄なことでしかない。もう仕方のないことである。それよりも、新しい職を見つけることが先である。
「ヘロワに行くか……」
一人呟いてショートカットしようと裏道に入ったときだった。
「へい、兄ちゃん。仕事にお困り?ワシがいい仕事を提供してやるよ。たった今出てきた案件だよ。これやるだけで今年一年は安泰な給金ですぜ、へっへっへっへっへ……」
「はっ、はぁ」
声を掛けてきた男性はどうみてもいかにも怪しい雰囲気のじいさんで仕事もどうせろくなもんではないということがすぐに分かった。いや、誰が分からないものか。
しかし職を失ったばかりの俺にとっては興味ひかれることだった。少しばかりは警戒することにしたが。
「その仕事というのは何だ? 聞いたあとにするかしないか決められるのか?」
「一回で一年分だぞ。考えろ」
「そうか」
まずヤバイ仕事には間違いなかった。だが、手放す気にはなれなかった。まず第一にこの世界でまっとうに働くことで食べていけるような職を見つけることは難しい。今紹介されそうな怪しい仕事か、働けども働けども金が貯まらないような仕事ばっかりだ。
ついさっきまで働いていた会社は珍しい部類に入る。入社が決まった時は親にも喜ばれた。まだ俺は若いと思う。だが、新卒でも職にありつけない世界だ。
「……一年」
「そうだ、一年だ。一年楽して暮らせる」
「この仕事っきり関わることがないのなら、やる」
「構わんぞ、それで。いいだろう。よく聞け、一回しか言わんぞ」
じいさんはあっさりと、少女を殺してこい、と言った。
「前金だ」
俺の手に10万円とナイフが渡される。鉄の重みがずっしりと伝わってくる。ああ、俺、殺人犯になっちまうんだな。じいさんの詳しい説明を聞きながら俺は思った。
最後に逃げたら俺を殺すという旨を伝えてじいさんは消えていった。教えられた場所へ足を運ぶ。
全く、今日は何て災難な日なんだろう。