第1夜 「A Girl who is in Prison」
父の会社が潰れた。学校帰りに通る電気屋のテレビに映るアナウンサーがそう言っている。私はぽかんと口を開けて入り口前に佇んでいた。
「うそやん」
急いで家に帰らなければいけない気がして終わりそうにないニュースを見るのを止めて走り出した。周りと比べて少しだけ豪華な自分の家。会社は軌道に乗り安定した収入をあげられている、と父は一ヶ月前に言っていたばかりだった。
「ただいま……」
玄関はやけに静かだった。奥の方から何やら良くない気配がした。その通りだった。リビングへのドアを開けた瞬間飛び込んできたものは倒れている父と母の姿だった。
自分が叫んだのかどうかはわからない。どうやら私はそのまま気を失ったらしく、目覚めるとベッドの上だった。灰色の天井、狭い部屋。出口はない。鉄格子。
「ここは……?」
重い身体を起こす。看守が気づいたらしく、こちらを見た。
「おはようさん」
「一体何なんですか?父は?母は?!」
私は鉄格子に手を掛けて看守に食いつくように聞いた。
「まあ、落ち着いてくれや。
あんたの父さん母さんは自殺しはったのや」
「そんなはずあらへん!あれはどうみても……」
何者かに殺された。あれは殺人現場だった。明らかに他殺だ。自殺ではない。調査がずさんだ。ちゃんと調べてや。何で自殺なんや。何で私はこんなところにいるんや。
一気にそれだけ叫んでへなりと座り込んだ。泣きたい気持ちをどうにか押し止めて顔を歪ませた。看守が顔を私の顔に近づけて小さな声で話した。
「ここだけの話なんやけど」
「え?」
思わず顔をあげる。
「お前さんの言う通り、死因は自殺やない。れっきとした殺人や」
「じゃ、じゃあ……なぜ」
「お前さんの命も狙われとる」
「どういうこと?」
父と母の死因は毒入りの飲料を飲んだことによる中毒症状であり、殺人犯は私の命も狙っていてそれを阻止するため私を牢に入れたこと。表向きには両親は自殺、私はそれを教唆したため逮捕されたことになっているということ。自殺理由は会社経営の悪化。もちろんその理由は殺人犯によって陥れられたためである,看守はお気の毒やな、と呟いた。
「とりあえずしばらくはここでよろしくっちゅう訳や」
「いや、意味分からへん」
「わしらはお前さんを助けたいんや。ここなら外で一人で生きるより安全や。堪忍してな。しばらくの辛抱や」
「いつ出られるんや」
「お前さんの命が狙われんくなったら」
「いつやねん!」
「なるべくはよする。待っててくれや」
看守は申し訳なさそうな顔をして廊下の奥へ消えていった。1人残された私は言われたこと、起きたことを整理する他することがなかった。
「別に牢なんかに入れんでも……」
全く、今日は何て災難な日なんだろう。