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異世界酔いどれ道中記  作者: 境内
第一章 酔いどれるまで
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第八話 なりゆきで手伝う話

「ツバサ君はどうして行き倒れなんてしていたの?」

「その、おっさんたちに追い出されて、芋虫に追いかけられて、体力が無くてバッタリと」

「うーん。言ってる事が何一つ分からないなあ」

「もう俺にも何がなんだか……」


このケモ耳の少女はシャンタと名乗った。拾ってくれたことに礼と自己紹介。優しい人がいてよかった。

久しぶりに名前で呼ばれたな。あのおっさんらは意地でも呼ばなかった。だからこっちもむきになって名前を聞かなかった。

……ヒゲさんの言うように似たもの同士なのかもしれない。


「というかここはどこなんだ? 誰かの家ってように見えないけど」

「ここは私たちの劇団の待機室だよ」

「劇団?」

「そそ。『世界のへそ・タカハシティ』の名物劇団“ディアノイア”! この人気劇団に入れるなんてラッキーだねツバサ君!」


ディアノイア?

昔、どこかで聞いたような。これってもしかすると。


「……変なこと聞くみたいだけど、君の周りにイシュバルト=ゴーシムハ って人いる?」

「なに、おじいちゃんの知り合いさん? そうなら先に言ってよー」

「……まあね」


やっぱりなあ。ミュトス、ディアノイアときたらそうなるか。ってそれよりも……。


「おじいちゃん?」

「そうそう。私のお母さんのお父さん」

「いや、言葉の意味は知ってるけどさ」

「わかってるって嘘、嘘。本当はこの劇団を立ち上げた人の一人だよ」

「…… うわ、すごい偶然だなあ」

「なんで棒読みなの?」


倒れたのを助けてくれたのが探していた人の身内とか、運がよかったしか言いようがない。

ただ素直に喜べないのは何故、と思っているとテントが開いた。


「おい、シャンタ何をやってる! そろそろ舞台作るぞ! 早く動け!」


虎のような耳の男が怒鳴りながら入ってきた。ああ、男にもケモ耳あるのか。なんかがっかりしてしまう。俺にも先入観ってあったんだな。


「あ、団長。行き倒れさんの目が覚めましたよ。ウチのおじいちゃんを探してたみたいです」

「ああ!? クソじじぃの知り合いか!? ふーむ、若いな、身体はちとひょろいが……まあいい 。おい、シャンタ! こいつを連れて裏に行け!」

「団長? ツバサ君にも手伝わせるんですか? 幾ら人手不足っていっても、いきなりは辛いんじゃないかと……」

「うるせェっ! たった今サィボーリの奴が逃げ出した! 奴を探すのに出払ってて、本格的に人が足りねェんだよ! このままじゃ今夜の公演に間に合わねェ! 組み立ては誰でもいいんだ、バカでも出来る力仕事だ! ツバサといったか? 助けてやった礼をここで返してもらうぞ! クソじじぃに合わせるのはその後だ!」

「そんな…… 。ってツバサ君を助けたのは私ですよ!」


団長と呼ばれた男が髪を掻き毟りながら吼え、有無を言わさずに頷かされる。状況は読めた。これは修羅場だ。

昔、ムックの締め切り前に雇われライターと連絡を取れないことがあった。そのとき編集長から直電で代筆を頼まれ、泣きながら記事を書いたことがある。編集長はデスクに篭り、山岡さんはそのライダーを恨みながら斯く方面に電話しまくってた。その時は悲惨だった。

自分に何か出来るとは思えないが力に慣れるなら手伝いぐらいはいいだろう。


「で、出来ることならやりますが」

「よし! いいか、移動は常に走る! 音を立てるな! 役者は神様だ! 邪魔をするな! これだけは遵守しろ!!」

「は、はい!」

「よし!! 移動!! ……糞っ、サィボーリの野郎見つけたら齧り殺した後、舞台に縛り付けてやる…… 」


一方的に怒鳴り散らして嵐のように去っていく。

こ、怖! なにあれまんま虎じゃん! 頷くしかできなかった自分が情けない。


「あぁ、またサィボーリさん逃げちゃったのか…… 。なんで逃げちゃうのかなあ、どうせすぐ捕まるのになあ…… 」


シャンティさんの言葉が怖い。なに、どうせって。恐ろしい予感しかしないんだけど。

団長の怒り顔を思い出して震えが止まらなくなってきた。ここ、もしかしてやばい所か。


「じゃあツバサ君、悪いんだけど手伝ってもらえるかな? どうせ舞台準備だしそこまでしっかりやんなくても大丈夫だと思うけど、どうする?」

「い、いいよ。助けてもらったのはありがたいし、役に立てるならこき使ってやってよ」

「あはは、ありがとう! これなら開演まで間に合うかな、本当にありがとう!」

「さっきも言ってたけど開演? この後やるの?」

「もちろん! よかったあ。日が暮れるまで組み立てなきゃダメなんだけど、これなら余裕が出来るかも!」


嬉しそうに笑うシャンタさん。というか俺の面倒を見ていたから準備に遅れが出たのかもしれない。

これはちゃんと手伝わなければいけない。


「ツバサ君、なんかごめんね。おじいちゃんに合うのは準備の後だね」

「いや、そこまで急ぐようでもない。……あと手伝わなければ団長さんに殺されそうだし」

「あはは。まさかぁ。そこまで怖い人じゃないんだよ。……怒ったときちょっと齧られるだけだし」

「十分怖いよ!」

「さあ行こうか。駆け足駆け足!」

「うええええええええ」

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