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異世界酔いどれ道中記  作者: 境内
第一章 酔いどれるまで
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第五話 芋虫を食べていると友達が出来た話

「いやあ、おいしいですね! うまいですね!」

『(フン!フンっ!)』

「うわあ、あんなにあった肉がいつの間にか消えてる」


山盛りに積んだホルモンがすでに消えかけていた。

夢中で食べたからなあ。


「まだこれありますか? 筋が固いんですけど、肉汁が本当に美味しい! まだまだ食べたいです!」

『(フンフンフンっ!!)』

「そういってくれるのもありがたいんだがなあ」

「おっさん、影に干してきたやつも使っちゃおうよ!」

「ふうむ、そうなると明日からの食事がなあ……」


今まで食べていたのは内蔵部分。二人で食べるには十分だったが、四人で食べるには少なすぎる。


「いいさ! ケチケチしないでどんどん食べようよ! こういう機会だしさ!」

「何が機会だ…… 。まあ仕方がない、持ってこよう」

「やった! ありがとうございます!! おっさんさん!」

「……いや、おっさんでいい」


万歳をして、イケメンと小躍りをする。

生きているって素晴らしい。ってか軽いナチュナルハイかもしれない。


「そうだ! さっきのお酒を空けましょう! いいつまみになりますよ!」

「俺 お酒 大好き!!」

『なら つまみ準備する あともしかしてそれは俺の真似?』

「流石です! ヒゲさん!」

『ヒゲって俺のこと?』


ヒゲがやれやれと首を降りながら立ち上がり、森に向かった。

このイケメン勝手に渾名をつける癖でもあるのか。

今までの渾名。俺→ライター。おっさん→おっさん。ヒゲ→ヒゲ。ああ、おっさんの名付け親は俺か。

おっさんの名前を頑なに聞いていない俺も悪いとは思うが、名を聞いてないおっさんサイドにも問題がある。


というかここにいるみんなの名前まだ聞いてないがーーー

「まあ、いいか」


そういう関係もなかなか面白い。にやにや幸せそうに笑うイケメンを見つめる。


「なあ、鳩。これってどんな酒?」

「ええ? 鳩って僕のことなんですかあ? センスないですよライターさん。いいですけどね」


悪態をつきながらもどこか嬉しそうに見える。

この軽薄そうな人はいつの間にか人の懐に潜るのがうまい。

まさにイケメン。その背中に生えているのは根は白い鳩のよう。

そこから渾名をつけてみたけど、そこまでセンス悪くないはず。


「このお酒はマゼンタという果実を熟成させたものです。かなり強いですが、いけますよ」

「マゼンタねえ」


聞いたことがない果実。

地球には存在しないからそのまま聞こえるという訳か。……なんかややこしい。

さて、どんな味がするんだろ。


「そのまま食べるにはあまり向いてませんが、何ヵ月もかけて熟成させるんです。すると苦味が抜けて美味しくなるんですよ」

「ワインみたいなもの?」

「ワイン! そうですね! そういうものですよ!」


果実酒もワインも果汁を発酵させるお酒。

日本だと何故か呼び分けられているけど、外国だと果実酒とは言わず、果物の名前+ワインなんて呼ぶらしい。リンゴワインとかレモンワインとか。

でもリンゴで作られたお酒はシードルか。

できるならもう一度飲みたい。


「おお、マゼンタの酒か! これまた贅沢な」

「おっさんさん! 遅いですよう!」

「まあまて、肉と一緒にキャベツをつんできた」

「キャベツ!?」

「ライターの国にはないのか。ほれ、見てみい」


聞きなれた言葉だ。声の先には、スーパーで売ってるものとは違い、濃い青と丸くない野菜が。


「……うーん。キャベツには見えない。これは加護の誤差の範囲なのかもなあ?」

「あいつ何を言ってるんだ?」

「ライターさん、さっきからずっとその調子なんですよう。若干気味が悪くって」

「お主……やっぱり頭が……」

「同情すんな?」


なんにせよ、ようやく自分の現状がわかってきたところだ。


『つまみ 持ってきた』

「ほほうこれは? なにやら匂うてくるが」

「なんでしょう、見たことがありませんね」


小松菜のような葉を持ち、根は白くぷっくらと膨らんでいる。

強く癖のある臭いはーーー


「ギョウシャニンニクだ!」

『あたり』


ヒゲが大きくうなずく。


『これを焼く 塩をかける 肉に巻いて食べるとおいしい』

「なるほど、焼き肉のつまみってわけだ」

「う、匂うぞ。こりゃたまらんな」


嫌そうな顔をするおっさん。半獣だから臭いに敏感なのか。

試しにギョウシャニンニクを手元で潰してみた。


「臭っ! ヒゲよ! これは食えるのか!? 臭いがキツくて堪ったもんじゃないぞ」

『失礼 ドワーフの調味料』

「ドワーフ族は何でも食べるといいますね。毒でもあるんじゃないしょうか」


どことなく嫌そうな顔をする二人。


『ニンニク 料理の基本』

「俺の世界でもニンニクは食べられてたぞ。食欲を増進させる効果があるんだって。まあギョウシャニンニクはどうか知らんけど」

「食欲増進? 信じられんなあ」


鼻をつまんだままいぶかしげに手元を見つめる。

ヒゲさんと一緒に肉に巻いていく。

先にヒゲにギョウシャニンニクを巻いた肉を渡すと、串に指してくれる。

ヒゲは気の利く大人だった。


『ライター ギョウシャニンニク 食べたことある?』

「ああ、学生の時、北海道で食べたよ。ちょうどそのとき金を持ってなくて食べれる雑草を必死に調べてさ」


山菜採ってたお爺ちゃんに教えてもらったんだっけ。あのとき食べた天ぷらは美味しかったなあ。

うわ、よだれが止まらなくなってきた。

そうだ。芋虫の脂肪を溶かして、ギョウシャニンニクの天ぷら作ってみよう。

素揚げだけど大丈夫だよね。


「誰か鍋ある?」

「そりゃあるが、なんだ? なにか作るのか?」


おっさんがまたどこかから鍋を取り出した。

ってかどこから出してるの? これも魔法なの? 俺も使いたかったなあ……。

どこか悔しくなって「な・い・しょ♥」とウインクして言ったら「キモいからやめろ」と鍋をぶつけられた。悲しい。


芋虫のお肉の脂肪を剥ぎ取り鍋に火をかけて混ぜる。

脂肪が溶けきったら、ギョウシャニンニクをそのままいれて一分程度沈める。

お肉も一緒に揚げてみるか。

そうなるとこれは唐揚げ? 天ぷら? それとも素あげ? 

定義が分からない。どっちになるのん?

まあ、いいか。


「出来上がりいーー」


おっさんがまたどこからか出した皿に並べて塩をふる。

緑が映えて盛り付けが美しい。どこか美味しそうな臭いがする。


「ほう、揚げ物か。また中々乙なものをつくるな」

「うん、あまり自信無いけどよかったらたべてみーーー」


ろ、という前に一斉に手が伸びてきた。

どんだけ食べたかったんだよ。


「ふむ、まあまあ食える。だが下味をつけてないためか、物足りんな」

「ですねえ、どこか野暮ったい感じが抜けきれませんね。あと水分をちゃんと切った方がよかったんじゃないでしょうか」

『55点ぐらい 油の質が悪い』

「意外と厳しい評価!?」


どこか引っ掛かる物言い。ひどい。料理でチート出来ると思ったけどそうでもないらしい。


「まあいい。焼き肉に揚げ物にマゼンタの酒。これで一杯始めるか」


おっさんがまたどこかから出してきたグラスを配り酒を注ぐ。

赤い、紅い、酒精の香りと共に叫んだ。


「「「「乾杯!!」」」」


空には月の代わりに大きい二つ光。大きさの異なる青と白い月だ。夢のような光景。

それを眺めながら紅いお酒を飲むと、地球ではないどこか遠くにいることが自然と腑に落ちてしまった。

何かを掻き立てる感情を誤魔化すように一気に酒を飲み干した。


「実はな、ライターが召喚されたと聞いて少しがっかりしたのだ」

「どしたの急に」


酒が進んだとき、ポツリとおっさんが呟く。

マゼンタのお酒は、ほろ苦く、口当たりがまろやかという奇妙な味わい。チビチビと舐める。ってかよくみんなゴクゴク飲めるな。

顔を赤くしておっさんが続ける。


「普通、異世界から来るのは美少女がお約束だぞ! それがなんだ、こんな微妙なやつ連れてきやがって」

「え、酷くない」

「ああ、それは思いました。異世界の美少女と恋に落ちる。いいですねえ、甘酸っぱいですねえ。言葉が話せない可憐な少女との恋……。ああ、ラブロマンス」

「え、失礼じゃない」


鳩が俺の顔を見て溜息をつく。

こいつら本人が目の前にいるのにお構いなしか。


『男でがっかり』

「す、ストレートなのもキツい」

「現実なんてこんなもんか」


はあとため息が被った。

次々と愚痴られる己の境遇。お約束を破ったからってここまで言われる筋合いはない。

それなら俺も言いたいことがある。


「それはこっちの台詞だぞ! なんだ、芋虫に追われて助けられたと思ったらこのおっさんがいるんだぞ! しかも裸だぞ! 普通美少女かなんかだろ! なんだよ、この誰も喜ばない話は!!」

「ぶはっ!」


鳩が堪えきれなくて吹き出す。笑い上戸なのか。

さっきから妙に嬉しそうに笑っている。


『確かに 裸のケンタウルスは退く』

「や、やめっ……ぷぷ!」


「それで助けられたと思ったら芋虫を解体!? ふざけんなよ! それが助けた人にさせることか!?」

「後悔はしてない」

「うるせえよ!」


どこか嬉しそうに笑うおっさん。

顔が赤い。酔いが回ってるのか? ってかそれは俺もか。

くらりとした頭を振るとどこか呆然としている鳩と目が合う。


「芋虫と……いいましたよね? それって……」

「お前らが食ってる肉がそれだよ。なんだ気付いてなかったのか」

『知ってた ドワーフ族 みんな芋虫食べる』

「そうなのか?」


芋虫を食べる一族もいるらしい。というかヒゲはドワーフなのか。

確かに小さい割りにはごつい身体をしている。

感心しながらヒゲを見ていると、イケがおっさんに介抱されていた。


「どうした鳩よ? 吐きそうな顔して」

「うう……芋虫と聞いたら少し気分が悪くなって。というかおっさんさんまで私のこと鳩っていうんですね」


なにかを堪えるような顔をする鳩。

さっきから楽しそうにした報いだ。堪えきれず吐いちまえ。


「なんだよなんだよ。さっきから愚痴りやがって。それはこっちの台詞なんだよ。半日たっても野郎しか出てこねえじゃねえか。願わくば女を! 展開遅いと読者に飽きられるぞ!!」


異世界行って野郎しか出てこない展開はひどい。でも俺は頑張った、偉い。


「ほれ、飲め。飲んで忘れろ」


おっさんに進められてマゼンタの酒を一気に飲み干す。

ほろ苦い。飲みにくい。あまり自分にあまり合わないのかもしれない。

酒精度数高いのか、一気に回ってきたような気がする


「ライターの召喚と先立ちを祝って!」

誰かが言った。「乾杯」と叫んでグラスを叩きつけた。どうやら、そこからの記憶がない。

空に浮かぶ巨大な二つの月だけがその後を知っているのかもしれない。


以上が始まりのライターこと米谷翼の物語。

片手にお酒、もう片手にはペンを持ち、美食と美景に酔いながら、馬鹿騒ぎと、恥態と、酩酊と。

――要は異世界を楽しく生きる物語。

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