第3打 城下町
「あのう…勇者様、何故私を連れ、こんなところに?」
城下街に出てすぐに女魔法使いが自分を連れて来たことに疑問に思ったのかそう尋ねてきた。
「偶々近くにいたからだ」
「えっ? それだけですか!?」
「半分は冗談だ。お前を連れて来たのはお前の杖を作った作者に案内してもらう為だな」
「この杖の作者ですか?」
「そうだ。あの大臣のおっさんの脛を杖で殴った時の感覚がゴルフクラブ…ゴルフの武器に似ていたからな。ゴルフクラブを作って貰おうかと思って訪ねたいんだが…知っているか?」
ゴルフはクラブがなくては出来ない。ルール上はゴルフクラブの本数の上限は14本と定められているが下限はなく0本でもいい。しかしどんな人間でも球を打つにはゴルフクラブを使わなければならないので実質の下限は一本だ。クラブがないんだったら手を使ってやれとか言う奴はサッカーを足を使わず手だけ使ってプレイしてみろ。要するにゴルフも手を使う場面は限られているってことだ。今回この女魔法使いを連れて来た理由はズバリそういうことだ。
「う〜ん……厳しいですね。この杖の作者さんはとても変わり者で名声やお金よりもただ己の満足のいく杖だけを作ろうとしているだけの頑固者ですからゴルフクラブという道具を作るとは思えませんよ?」
頑固者……職人気質みたいなもんか。
「とりあえず会うだけ会ってみたい……えっと……お前の名前なんだ?」
「私はエレナ・ノーマルと申します」
「俺は伊東鉄男……こっちの国風で言えばテツオ・イトーだな」
「テッツォ様ですね」
「違う。テッツォじゃなくテツオだ。それだと別の人の名前になっちまう」
「て、テツ、テチッオ……私にはその発音が難しすぎます……」
途中まで言えていたのに惜しい…
「じゃあテツーオって言ってみろ。そうすれば言えるはずだぞ」
「テッツォー」
……論外だった。これで言えないなら諦めるしかないよな。
「もうテッツォでいい。俺もお前のことをエレナと呼ぶから俺のことをテッツォと呼べ」
「はい、テッツォ様」
「様はいらねえよ。もっとフレンドリーに行こうぜ」
「それじゃテッツォさんで良いですか?」
「構わないがその敬語口調はどうにかならないのか?」
「これは性分ですから……」
☆☆☆☆★★★★
杖の作者の家に着くと身長130cmくらいのちっさいおっさんがそこにいた。おそらくこれがファンタジー世界におけるドワーフって奴なんだろうな。
「おい、ここに何の用だ?」
「あんたがこの杖の作者か?」
エレナが杖を俺に渡し、俺はそれを持ってドワーフのおっさんに見せる。
「ふむ……確かにワシが作った長杖だな。まさかこの長杖を作れ何ぞいう気か?」
「いやその長杖を作る技術を使ってゴルフクラブを作ってもらいたい」
「ゴルフクラブぅ? なんだそりゃ?」
「ゴルフという戦術に使われる道具のことだ。この国ではゴルフがないから知らないのは無理もない」
「お断りだな」
「……なら賭けをしないか?」
「賭け?」
「そこにあるバケツを利用する。バケツを外に出してバケツから100ヤード離れた場所からその杖を使ってこの球を入れる。十回のうち一回でも入ったらゴルフクラブを作って貰おうか。入らなければ潔く諦めよう」
俺はそう言ってお守りのゴルフボールを取り出し、ドワーフのおっさんに見せる。
「なるほどそれがゴルフって奴なのか……面白え。だが条件が緩いな」
「なんだと?」
「あんたもその道で稼ぐんなら三回に一回の条件にしろ」
「上等だ。ただしやるからには上物を頼むぜ」
外に出てバケツから100ヤード離れた俺は杖を振りかぶりボールを打つ。だがやはりというべきか力加減が出来ずバケツの奥側の縁にあたり、ボールは外に出る。
「惜しいっ!」
「惜しくねえよ。外れは外れだっ!」
二発目。今度はバケツの前側の縁にあたり、外れた。
「なんであそこで入らないの!?」
「エレナ。少し黙れ。出た結果にケチを付けるもんじゃない……その失敗を次に活かすことによって人は初めて成長する」
そして天高く舞い上がった三発目がバケツの真上に到達するとボールはバケツの中へと吸い込まれ、バケツの中に入った。
「これで文句は言わねえよな?」
俺がどや顔でそう告げると苦虫を噛んだような顔つきでドワーフのおっさんが中に招待した?
「……チッ、仕方ねえ。ゴルフクラブの詳細を教えやがれ!」
それじゃあ教えるか。
「ゴルフクラブは大きく分けて三つのグループに分かれる。そのうち今回あんたに作ってもらうのはウッドという名称のグループだ」
次回からようやく長編オリジナルとなる物語及び視点変更となります。