第2打 異世界に呼び出されたプロゴルファー
これは短編の一部です。長編にするに当たって分けて書いています。ご了承下さい。
俺の名前は伊東鉄男。職業プロゴルファーだ。それもただのプロゴルファーじゃねえ。ベストスコア59のプロゴルファーだ。そんな俺は日本の大会よりもゴルフ場が世界で一番多い国アメリカの大会に出場した方が良いと思い、アメリカのOP戦で優勝し全米オープンの予選に登録した。そして俺は初出場にも関わらず全米オープンの予選をそのベストスコアで勝ち抜いて、見事本戦出場資格を取得し、明日その本戦が始まる。そのはずだったんだ。
「おお、勇者殿! 我が国をお救い下され!」
漫画やアニメで見るような豪華な玉座の間が見えるのは疲れだと思いたい、あるいは夢か。どちらにしてもこの景色は悪趣味だ。流石に全米オープンの本戦前夜になると変な幻覚を見るもんだ。それだけ俺がプレッシャーにかかっているのか? でもお守り代わりとして俺の腰にぶら下げているゴルフボールは本物だ。
「勇者ってのは俺のことか?」
とりあえず自分を指差し、返事をして見ると王様らしきおっさんが頷いた。
「その通りでございます! 我が国が誇る魔法使いが勇者殿を召喚いたしました! どうか我が国、いや世界をお救い下され!」
いやそんな早口で言われてもな……
「世界を救うって言ったって何をすれば良いんだ?」
「魔王を討伐すれば世界が平和になりまする!」
おいおい、こういうのはもっと別の奴にやらせろよ。具体的には主人公補正のある可能性が高い男子高校生とかにな。
「なるほどな……ところで、魔王ぶっ倒すからある程度協力してくれねえか?」
だが俺はその誘いに乗った。何でかって? まあ俺としては「このおっさんを利用出来ないかな〜?」と思ったわけだ。下衆いと言われてもここは夢ん中だ。俺の夢に他人がケチをつける筋合いはない!
「魔王を倒してくださるのであればご協力致します!」
やったぜ!
「それじゃゴルフ場に案内してくれ。そこで魔王を討伐する為の特訓する」
「ご、ゴルフ場?」
そこからかよ……そりゃ見た感じ中世ヨーロッパだから15世紀に作られたゴルフがないのは当たり前なんだろうが面倒だよな。
☆☆☆☆★★★★
「なるほど、ゴルフとやらはお主の世界の武器であり戦闘術でもあるのだな?」
「そういうことだ。我が国の戦士、経済面で活躍する商人、国を支配する貴族達、あるいは特定の地域を支配するゴロツキですらもゴルフを使って戦うくらいだ…」
全部が接待ゴルフだけどあながち間違っていないよな? 俺はゴルフプレイヤーの層についてはあまり知らない。何でかというとアマチュアのゴルフプレイヤーの層を知ったところで対抗しても仕方ない。プロゴルファーたる俺はただベストスコアを出せばいい。
「その中で俺はプロフェッショナルとして国に任命されている」
「おお! 流石勇者殿!」
「ただゴルフはやらないと他の戦闘術よりも腕が落ちてしまうからゴルフをしなければならないんだ。ゴルフの腕を落とさない為にもゴルフ場が欲しいんだ」
「あいわかった! 大臣、聞いていたな? すぐにゴルフ場を作らせよ!」
「王様、本当に作る必要があるのでしょうか……?」
「何を言う? 大臣?」
「私にはゴルフとやらが本当に戦闘面で役に立つとは思いませぬ」
「ほほ〜う……つまりそれはゴルフを馬鹿にしていると?」
俺は大臣の隣にいた見た目少女の女魔法使いの長杖を奪い取り、大臣の脛をゴルフの要領で打った。
「ーっ!!」
大臣は声にならない悲鳴を上げ、やたら生々しい音が響く。そりゃ痛いだろうな。非力なプロゴルファーでもスイング速度40m/sのスピードで振ることが出来る。そんなスピードで硬い木製の杖で弁慶の泣きどころを叩いたら痛いに決まっているだろう。
「ゆ、勇者様!?」
杖を奪われた女魔法使いが狼狽えているが無視しよう。杖がない魔法使いなんぞプロゴルファーがゴルフクラブを持たないくらい何の役に立たない。
「これでゴルフがどれだけ戦闘面で役に立つかわかっただろ?」
「……し、しかしそれは一部だ、けで」
まだ抵抗を続けるか。
「しつこい奴だ! ゴルフがどれだけ魔王討伐に重要かを3時間かけて教えてやる! 正座をしろ!」
「せ、正座?」
「足を身体の下に畳んで座る姿勢だ!」
「は、はいい!」
正座ってその説明でも通じるんだな。てか弁慶の泣きどころを打ったのに正座出来るもんなんだな。
「いいかゴルフというのは……」
それから三時間に渡る俺のゴルフ講座が始まった。そのくらいやれば大臣のおっさんもわかってくれたのか笑顔で「わかりました、分かりましたから……解放して下さい……もう足がぁ……」って言って納得してくれた。人間話せばわかるもんだぜ。
「わかればいい。それじゃ作ってくれるな?」
「ぜひ作らせて貰います」
やったぜ!
「それじゃその土地の候補が見つかったら連絡してくれ。俺はゴルフを広める為の活動をする」
「了解しました。勇者殿」
俺は大臣のおっさんの声を聞いて満足し、その場を後にした。
「後そこの女魔法使いを借りていくぞ」
「えっ!? その魔法使いは我が国が誇る宮廷魔導士故に……」
「これも魔王討伐の為だ!」
「……わかりました」
最後はごり押ししておいた。