第1打 鉄男はどこだ?
短編を読んだ方へ。今回の話は短編では説明されなかった伊東の過去がちょろっと説明されています。しかし同時に今回はプロローグのような話ですので読まなくてもかまいません。
世界各地のゴルフ業界が騒然としていた。その理由は日本プロゴルファー伊東鉄男が超ビッグタイトルの一つである全米オープンの地区予選でコースレコードを叩き出したからだ。18ホールの合計スコアが59というスコアであり、これは世界レコードに迫る記録だ。
しかし世界レコードに迫ったからといって記者達が騒然としている訳ではない。問題はそのコースだ。コースレコードを叩き出した鉄男が予選一位なのは当然だが、問題は予選二位の記録の75。これはどういうことかお分かりだろうか? 18ホールを全て基準、所謂パーで回った場合72となる。つまり75という数値は72という数値よりも3大きく、二位は3オーバーで予選のコースを回ったことになる。
プロにしては情けない数値だが、これは仕方ないことだ。鉄男達が回ったコースはコースそのものが非常に難しく一歩間違えればそれこそ1ホールで8打以上かかってしまうようなものばかりだ。それでもアンダーパー(±0以上のこと)のものが何人か出て来てもおかしくないのだが、この日は何故か風が不規則に強くなったり弱くなったり、あるいは方向が逆に変わったりした為予選出場者達が予測出来ず、大荒れとなってしまった。
だが鉄男はそんな条件をものともせずコースレコードまで叩き出した。そんな人間が本番で負けるだろうか? いや勝てる。不安要素などどこにもない。マスコミは鉄男を優勝候補No.1に取り上げ、鉄男神話を創り出した。
しかし全米オープン当日、鉄男の姿はどこにもなくあるのは全米オープンという舞台だけだ。役者のいない舞台などに微塵の興味がない人々は全米オープンよりも鉄男を優先し、探すが痕跡がなくなっており、探せない。数日も経たないうちに鉄男のことは忘れ去られ、伝説もこの世から消えた。
だが地球で始まった伝説が異世界で継続させられていたことに誰も想像することなど出来もしなかった。
尚、世界レコードは58。58の壁は大きく、59を叩き出すプロゴルファーは数多くいても58を出したのは僅か二名という有り様で、いかにその壁が大きいか想像出来ますよね。