Reading
本を読む。
そんな些細な時間を、静かな書斎で過ごす。
一人で築いたこの虚城は、いつでも涼しい風が吹く。
少年時代の鮮明な描写が、脳裏を駆け巡る。
死期が近いのかもしれない・・・。
苦い初恋も、淡い青春も。昨日のように、感じるようになった。
コンコン。
書斎のドアが開く。
家政婦が、紅茶を淹れてやってきた。
若いが、目は死んでいる。生気を成さない、死人の目だ。
「紅茶を淹れてまいりました。」
優しい声だ。気遣いも出来て、家政婦としては上出来だ。
「ありがとう。」
人の事は言えない。私自身、彼女に主従関係以外の念はない。
紅茶の香りが漂う。
本に囲まれた私は、全ての智を受け入れた。
知識に溢れ、様変わりする時代を生き抜いた。
「愛」という物には、恵まれなかった。
最期の恋愛は、確か高校生の頃だった。ある涼しい春の事だった。
子供の純粋な恋から、大人の見返りを求める愛に変わった。
そんな青春は、もちろん楽しかったんだろう・・・。
時が流れるのは、早いものだ。
気が付いたら、もう外は夕闇に包まれ、静寂を保っていた。
体が自然と眠気に支配される。横になれば何時でも眠れる。
手記を書いている。死ぬのが怖いから・・・。
今更になって、自分がいなくなる事に恐れた。
文章には、自身がある。本を腐る程読み漁ってるからだ。
手記の最後。この言葉を、忘れずに書く。
「また、明日。」
明日を祈りながら・・・・・・。




