第4話 ヴィクトリアを守れ
木々が生い茂る森の中を駆ける足音が複数。
ゼロとガイアは追っ手を振り切るために必死に走っていた。
「くそっ、あいつらしつこすぎる!!」
「どうするんですか師匠、もうここで立ち向かった方が!!」
ガイアの初陣となったあの事件から6年。すっかり大人びた彼と、その師匠のゼロは旅を続けながらある組織について調べていた。
レース・ノウァエ。
6年前の事件の時、山賊のリーダーと思われていた大男の肩にあった紋章に書かれていた名前だ。
だが、調べど調べど中々その正体にたどり着かない。新興勢力なのか、行く先々で聞き込みをしてみるものの有力な情報は得られなかった。
しかもこの6年、組織として大きな事件を起こしたことも無い。
次第にそもそも本当にこの組織があるのかと疑い始めていたゼロだったが、今この瞬間、彼は確信した。
「ガイア、あいつらの肩見てみろ」
「……あのマーク、確かレースなんとかの!」
「ああ、どうやらこっちは情報掴んでないのに、向こうさんは俺たちについてたくさん情報を得たらしい。全く、嫌になるぜ」
「やはり迎え撃った方がいいのでは! このままじゃ……」
「6年前のあの大男。あの強さの奴がゴロゴロいると思ったほうがいい。お前も強くなったが、迎え撃つのは骨が折れる」
木の幹を利用して走る方向を90度変え、2人は追っ手を翻弄する。駆け抜ける姿は風の如く。
「とはいえ、確かにこのまま逃げ続けてもジリ貧だな」
ゼロは、敵の目的に薄々勘付いていた。
6年前に組織の一員を倒しただけで、基本的にはただの旅人のゼロたちを狙ってきたのだ。敵の目的は彼らにも関連することだろう。
であれば、心当たりは1つしか無かった。
ゼロは横を走るガイアの顔をちらりと覗き、ニヤリと笑った。
9年間、師として親として彼と過ごしてきた。ガイアも年相応に成長し、その実力は決してゼロに遅れをとらない。
ここらが、潮時だろうか。
「ガイア、受け取れ!!」
ゼロは自分の耳に付けていた雫の形をしたイヤリングをガイアに投げ渡した。受け取ったガイアは、困惑の表情を浮かべる。
「師匠、一体どういう……」
「いいかガイアよく聞け」
その言葉を吐き出すのに、ゼロは一瞬躊躇してしまう。だが、言わなければならない。
弟子に、思いを託すために。
「王女を……ヴィクトリアを守れ!!」
そう叫んで、いきなりブレーキを踏んだゼロの姿にガイアが驚きを隠せないのが分かる。彼も立ち止まり、ゼロの方を振り返った。
「師匠!?」
「2度は言わない。早く行け! お前に、後を託す!!」
「師匠!!」
「行け!!」
その言葉に込められた思いは、ガイアに届いただろうか。彼は唇を噛み締め、涙を浮かべていた。だが、そうやって躊躇いながらも、追っ手が追いつく前に走り始める。
「……それでいい。頼んだぜガイア」
離れていく弟子の背中。
ゼロの瞳も潤んでいた。9年間を共にしてきた者との別れだ、悲しまない者などいなかろう。
大きく息を吐き、前方を見る。そこには男とも女とも分からない、マントで全身を覆った無数の人間が群がっていた。
いつの間にこんなに増えたのか。
思わず舌打ちをしたゼロは太刀を抜き、風を纏う。
「ここから先には行かせねぇ」
そして、走り出す。
「さあ、風に乗ろうぜ!!」
次の瞬間、鮮血が飛び散った。