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風と歌と勝利のΔ(ラブ・トライアングル)  作者: シャクガン
第一章  Δの始まりは襲撃から
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第11話  ヴィクトリアなんていう生徒は

「おい、誰かいる――うおっ!?」


 荒い息を吐きながら屋上に上がってきた1人の王国騎士。赤髪ショートヘアの彼は抉り取られた地面や屋上を囲む柵を見て、思わず唾を飲み込んだ。そして、横にいた3人の生徒に声をかける。


「おい、大丈夫か?」


 3人のうちの1人、太刀を地面に突き刺して体の支えとしていた少年が彼の呼びかけに応える。


「なんとか……無事です」

「無事!? そんなボロボロの姿で言われても説得力無いぞ! そっちの2人は確かに無事だが……はっ、まさか戦ったのか!」


「…………」

「ああ畜生、肩を貸してやる。とにかく大教室に移動だ。他の生徒たちも保護されてるからな。そこの2人は動けるか?」


 騎士は少年に肩を貸しながら後ろに座り込んでいる2人の少女に言う。

 黒髪の少女は腰を抜かしているようだったが、金髪の少女はなんとか立ち上がりもう1人の少女に、騎士と同じように肩を貸して一緒に歩き始めた。


 騎士の耳に付いている魔術通信機から仲間の声が聞こえてくる。


『襲撃犯はレース・ノウァエだと判明した。今の所死者はいない。怪我人がいるなら速やかに大教室へ。そこで治療を行う』


「屋上に3人発見。1人は応戦したらしく、怪我をしてる」

『了解、早く連れて来い』


 そんなやり取りをして、騎士は彼に支えられながら歩く少年の傷だらけの顔を横目で見た。


(レース・ノウァエと戦ったってのか? なのに、これだけの傷で済んだ……こいつ、まさかセシル副団長と戦ったっていう奴か?)


 階段に注意しながら、ゆっくりと降りていく。騎士はチラチラと少年の顔を覗き見ていた。

 途中で、少年がこんなことを言ってきた。


「どうして、来なかったんですか。俺たちが襲われてたのに……いや、それ以前に何故あいつらがこの学校に侵入出来たんですか」


 こちらを全く見ず、責めるように。

 騎士は思わず顔を逸らしてしまう。心に、罪悪感が。いや、正確には元からあったそれが肥大化していく。


「来なかったんじゃない……来れなかったんだ」


 言い訳だと分かっている。だが、騎士は答えを待つ少年に対してそう返すしかなかった。

 その答えに反応したのは少年ではなく、後ろを歩いてくる少女たち。金髪の少女が首を傾げながら、


「来れなかったってどういうことですか?」


 優しい尋ね方。これによって騎士の心は少しだけ軽くなった。


「ああ……完全に警備の穴を突かれたみたいだ。レース・ノウァエが襲撃してきたなんて、気付いてなかったんだよ。気付いたのは、屋上から巨大な水流が放出された時だ。あれが無ければ、駆けつけるのはもっと遅かったかもしれない」


「警備の穴、だと」


 今度は少年。彼は最早敬語を使うことすら忘れているようだ。明確な怒りを目に宿しながら、騎士を睨んでいる。


「そう睨んでくれるな……俺たちだって悔しいんだ。後で詳細な状況説明が入ると思う」

「…………」


 以降、大教室に到着するまで彼らは一言も言葉を交わさなかった。



















 大教室では、保護された生徒たちが待機していた。

 各々椅子に座って寝そべっていたり、泣いている友人を宥めていたり、窓の外を眺めて自分を落ち着かせていたりと行動はバラバラである。


 共通しているのは、皆恐怖心を和らげるためにその行動をしているということだ。


 赤髪の騎士に肩を貸して貰いながら教室にたどり着いたガイアは、入ってからすぐに治療を受けた。回復魔術を施してくれた人妻感を醸し出している女性騎士は、彼の傷を見ながら怪訝な顔をしていたが何も聞いてこなかった。


 治療の必要の無かったルカとミライは先にいつも彼女たちが座っている最前列の席についていた。

 ガイアも彼女たちの隣に座った。ルカはようやく落ち着きを取り戻したようで、ミライと何かを話している。


 教壇の周辺で慌しく動く王国騎士たちを一瞥し、ガイアは2つの単語を呟いた。

 すなわち、『レース・ノウァエ』と『ヴィクトリア』。


(師匠が託した言葉、それにあの時襲ってきた奴らもレース・ノウァエだった……偶然とは思えない。だったら、早く王女を見つけ出さないと……!)


 同時に、レース・ノウァエが襲撃したことではっきりしたことがある。

 やはりこの学校に王女がいるということだ。そうでなければ彼らが襲撃してくることなどありえない。


 だが、屋上で戦った黒装束がヴィクトリアという名前を出した時、ルカたちはそんな名前は聞いたこと無いと言っていた。


 一体どういうことなのだろうか。


(この学校に王女がいる。でも、ヴィクトリアなんていう生徒はいない。これを結び付けるには?)


 考えるが、答えが浮かばない。

 それに、疑問がもう1つ。


 何故警備をしていた王国騎士たちは襲撃に気付かなかったのか。

 いくら内部が緩い学校とは言え、外の警備は厳重だったはず。それをどうやって掻い潜った?


 頭を抱えていたガイアだったが、教壇の前にいる王国騎士の中の白髪の大男が状況説明を始めたことで思考を中断した。


 恐らく騎士たちの中で最も年齢を重ねているであろう男は、金属製の防具をガシャガシャと鳴らしながら、生徒たちに向かってゆっくりと言葉を継いでいく。


「今分かっていることを話す。君たちを襲ったのはレース・ノウァエというテロ組織だ。名前くらいは聞いたことがあるだろうが……奴らは警備を掻い潜って密かに侵入。そして君たちを制圧した。不甲斐ない話ではあるが、我々は全く気付けなかった」


 そう言って、大男が頭を下げた。同時に、他の王国騎士たちも謝罪の意を示す。


「気付けたのは屋上で戦っていた生徒がいたからだ。君だな、そこの片耳イヤリングの少年」


 大男が指差したのはガイアだ。彼は静かに頷く。


「本来ならば、無茶したことを咎めるべきなんだろうが……君が戦っていなければ我々は事態に気付けなかった。素直に礼を言う」


 再び白髪の騎士は頭を下げた。今度は全員にではなく、ガイア1人に向かって。そのためか、他の騎士たちは下げなかった。


 教室にざわめきが起きる。当然、ガイアは注目の的であった。


「まあ、こうなるか……そうだな、とりあえず君たちはここで待機していてくれ。団長たちが帰ってくるまでは動かないように」


 彼の言葉に、ルカが反応する。調子を取り戻した彼女は立ち上がって、


「ラルド団長はこの町にいないんですか?」

「ああ、任務で別の町に出ておられる。団長だけではない、副団長もだ。よりにもよってこんな日に……」


 副団長、それは『白騎士』セシルのことである。リーダー格の不在。そんな日に襲撃してきたということは、念入りな準備があったのかもしれない。


「とにかく、指示があるまで待機だ。ああもちろん教室から出ても構わないが、学校からは出ないでくれ。一応、団長たちが帰ってきたら放送を入れる」


 そう言って、白髪の騎士は教室から忙しそうに出て行った。同じく、数人の騎士が出て行く。残ったのは2人だ。


 生徒たちはそれぞれ、教室を出たり机に突っ伏したり思い思いの行動をとった。

 ガイアは席を動かず、背もたれに体を預けて腕を組む。


 偶然が重なれば、それは必然となる。この必然が示す1つの結論が、後に大事件へと発展していくことになるとは、この時のガイアには予想できなかった。

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