八話 もちもちでした
しまった! つい了承しちゃったけど俺片腕がないから抱えることできないやん!
どうしようか? 頭をひねっているとベンジャミンとココは先にギルド内に戻ってしまった。
やばい、やばい! 二人とも行っちゃったよ!
二人に頼れなくなった以上近くにいる冒険者を頼らざるを得ないけど……、この獣みたいな目をしている冒険者たちにメリーさんを任せたくないしなぁ……。
仕方ない、女性ならお姫様抱っこに憧れてるかもしれないけど脇に抱えさせてもらおう。
抱えるため倒れているメリーに覆いかぶさるような体型をとる。ちょうど胸が目の前にくる体勢だ。
これ第三者から見たら襲ってるやつにしか見えないよな。周りにいる変態冒険者と同じ扱いは屈辱的だからさっさと運ぼうっと。
その時、訓練を再開した冒険者の誰かが俺の背中にぶつかった。
背中を押された俺は必然的にメリーの胸に顔を突っ込むことになる。
「おっぶッ!」
胸が、胸がぁぁあ!!! なんて暴力的な柔らかさなんだ!!!
一応弁解させてもらうけど俺が悪いんじゃないからな! 後ろからぶつかってきたやつが悪いんだからな!
……だからもう少し堪能してもいいよね?
しばらくそのまま顔を埋めていると頭上から声がかけられる。
「あの〜、もう私目覚めたんでそんなに顔をぐりぐりされると恥ずかしいかな〜って思ったり?」
錆びついたロボットのようにギシギシと上を向くと目が合った。
「こ、こんにちは?」
「え? こ、こんにちは? あのこういう事をするのはもう少しお互いの仲を深めてからと言うか……。いやイケメン君のことが嫌いなわけじゃないんだよ!? むしろ好みと言うか……。って何を言わせるのよ!」
え、まじ? メリーさん攻略しちゃう?
……嘘だよ! 嘘! なんか後ろからやばい気配がするもん! 怒ったときのアテネみたいな気配がするんだよ!
「ネロ……。何してるのです?ネロが背負えない事を思い出して戻ってみたらこんな事をしてるなんて……。
ココは呆れて何も言えないのです」
「ち、違うんだココ!? これは事故というか、なんというか――いや事故だよ! 俺は悪くないんだ!」
「見苦しいのです。男ならちゃんと罪を認めるべきなのです」
「本当に俺は悪くないんだよぉ!!! 何ならそこらにいる冒険者に聞いてみてくれよ!」
「……分かったのです。誰か証言してくれる人はいないのですか?」
ココが周りを見渡すと何人かの冒険者が出てきた。
「おう、俺は見ていたぜ! あいつはメリーさんが気絶しているのをいいことに、胸に顔を埋めて喜んでたぜ!」
「!?」
「俺も見たけど、確かにこいつの言う通り自分から顔を突っ込んでたな」
「!?!?」
「「「そうだ、そうだ!!その通り!!!」」」
な、なんだと……?! こいつら俺がメリーさんの胸を堪能したのを嫉妬して嘘をついてやがる!
「嬢ちゃん、ずら丸が記録石で録画しているだろうから、それを見ればすぐに分かるぜ。おーい! ずら丸! ちょっとこっち来〜い!」
すると、先の闘いでメリーの恥ずかしい姿を録画していた男が人混みから出てきた。
「呼んだずらか? いったい何の用ずら?」
「ずら丸お前、この兄ちゃんがメリーさんの胸に顔を突っ込んでいるの録画してるだろ? それをこの嬢ちゃんに見せてやってほしいんだ」
「なんだ、そんなことずらか。おやすいごようずら。ほら見るがいいずらよ」
そこには俺が後ろから押し飛ばされているシーンはカットされて、自ら胸に顔を挟んでいる姿が映されていた。
な、な、な、なんだこれは?!
大事なところをカットしてたら意味がないだろう?! こいつら全員グルなのか!
アタイ……ゆるせへんっ!!ゆるせへん……アタイ……ッ!!
「やっぱネロが嘘をついてたのです! 嘘つきにはお仕置きが必要なのです!!!」
パンッ、パーン!!!
夏の夕暮れの空、乾いた大きな音が二度街に響き渡った。
★☆★☆★
「何だか随分と遅かったね。それでネロ君の頬はどうしたのかな?」
「何も聞かないでください……」
頬がじんじんと痛むのを我慢しながら応える。
ココに叩かれた以上本人に治してくれなどと言えるはずもなく、さっきからこのままだ。
「そうかい。ならもう聞くことはしないよ。誰かが話しているのを聞いてしまうことがあるかもしれないがね」
「お願いです。もうそれ以上俺をからかわないで下さい……」
「あらら、本当に何をやったんだか。まあそれよりギルドの登録の話だよ。先ほども言ったようにあれだけの実力があればココ君の見た目でも大丈夫だろう。よって君たちのギルド加入をベスタの街のギルド長ベンジャミンが認めよう。今からこの紙に名前と同意書にサインをしてくれ。同意書は冒険者のする行為にギルドは一切の責任を負わないってことぐらいだから、流し読みしてくれて構わないよ」
紙が二枚ずつ渡される。同意書を読んでみたがベンジャミンの言ってたこととギルドカードの再発行には金がかかることくらいだった。
ココと一緒にサインを終えると新しい制服に着替えたメリーさんに回収された。
ココ、そんな尻尾をたててメリーさんを威嚇するのはやめようよ……。
「おめでとう。これで君もギルドの一員だ。今後の活躍に期待させてもらうよ」
「ありがとうございます。日々生活するのに必要な分の金を稼げるように頑張らせてもらいます」
「うん、そのくらいの心持ちの方が安心できていい。それはそうと検問所からそのまま来たなら宿を取っていないだろう? おすすめの宿を紹介してあげようか?」
ラッキー、こっちから聞こうと思ってたから手間が省けていいや。
「ぜひ教えてください」
「教えてあげる代わりに一つ依頼を受けてくれないかな? もちろん報酬も払うよ」
「依頼? 俺たちでもできることなんですか?」
「当たり前じゃないか。新人冒険者にそんな危険なことをさせられないよ。そしてそれを聞いてからやるか、やらないか決めてもらっても構わない」
なら大丈夫かな? 聞くだけ聞いてみて、無理そうって思ったら断ればいいだけだし。
「じゃあ話だけでも聞かせてください」
「うん、よかった。それで依頼なんだけどね――」