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五話 有効活用

「ぐわぁッ!!」


 アテネに切断された左腕からとめどなく血が流れ出る。

 足元にできた血だまりが怪我の重さを雄弁に物語っていた。


「ネロッ! 今回復魔法かけるのです!」


 そんな声と共に回復魔法がかけられる。


 柔らかな光りが切断面を包み込むと、瞬く間に皮膚が再生し、流血は止まった。


 ……助かった。これで失血死する心配は無くなったな。

 血を大量に失ったせいで吐き気と頭痛が酷いが死ぬよりは断然マシだ。


 立つことさえ辛くなった俺はその場に座り込む。

 すると否応無く肘から先が無くなった左腕が目に入ってしまった。


 ついさっきまであったのにな……。


 ノスタルジックな感情にとらわれてしまう。


 なにせ俺の生命いのちが尽きるその時まで、無くなることなんて無いと思っていたのだ。

 それが今ではこの有り様だ。

 人生何が起こるか分からないとはよく言ったもんだ。


 左手が無くなったことはそう簡単に割り切れるもんじゃない。

 けれど後ろ向きな考えをしていても現状が変わることはない。


 なので俺は建設的に考えることにした。


 これから俺たちは多くの街を巡ることになるだろう。

 そのとき左腕が無いことは確実に注目を集める。

 しかしアテネとカトレアから逃げる上でそれは好ましくない。

 と、なると左腕を隠すために外套か何かが必要だ。

 もしかしたら例の袋の中にあるかもしれない。ちょっと探してみよう。


 俺は身を包む大きな外套を思い浮かべながら袋に手を入れた。


 サワッ


 指先が布っぽいものに触れる。

 手触りはサラサラしてて最高だ。間違いなく至高の逸品だ。

 期待が高まる。


 しかし袋から出てきたのはダークブラウンのパッとしない外套であった。近くで見なければ安物に見えそうだ。

 俺の期待を返して欲しい。


 だが袋の中に入っている品は全て宝物庫にあった品だ。

 ただの外套であるわけがない。

 恐らくなんらかの特殊効果を秘めている可能性が高い。

 俺が着用して長期的に効果を確かめてみよう。


 そんなわけで俺は外套を入手した。





 外套を羽織って満足していると横からグスグスと泣き声が聞こえてきた。


 俺はその泣き声でココの存在をようやく思い出した。


「回復魔法かけてくれてありがとな。おかげで助かったよ」


 慌ててお礼を言う。


「お礼なんて、お礼なんてしちゃダメなのです……。ココが悪いからしちゃダメなのです……。ごめんなさいなのです。ココのせいでネロの腕が……」


「あー大丈夫、大丈夫。全然気にしなくていいよ。だいたい俺の妹が放った魔法なんだからココのせいなんかじゃないよ」


「でも! でもッ! 腕は戻らないのです!」


 言うや否や、また泣き始めてしまった。

 泣かれたって困るだけなんだけど……。本当は俺の方が泣きたいくらいなのに……。

 仕方ない、適当に罰を与えて納得させるか……。


「分かった。腕が無くなった分ココが色々と頑張ってくれないかい? それで帳消しにしよう」


「そんなことでいいのです? 一生付き添うとかでもいいのです」


「ココの未来はココのものだから、そんなこと言っちゃダメだよ」


 どうやら自責の念で自棄やけになっているようだ。


「グスッ、本当にごめんなさいなのです。痛くなったらすぐに魔法かけるから我慢しないでほしいのです」


 分かった、分かった。すぐに頼るからそんな顔をしないでくれよ……。綺麗な尻尾も垂れ下がっちゃってるよ……。




 五分も経てばココも落ち着きを取り戻した。

 とりあえず現在どこにいるのかを知りたい。すぐそばに街道があるけれど、周りは草原だらけで俺たちがどこにいるのか全く見当がつかない。


「ココ、ここどこか分かる?」


「ごめんなさいなのです、焦ってテレポートしたからココもどこに飛んだか分からないのです……」


 困ったな、どうしようか……。

 いや、また袋に何かあるかもしれない。


 早速袋に手を突っ込む。


 目的地を示してくれる物出て来いや!


 出てきた物はコンパスだった。

 これが目的地を教えてくれるのか?


「ベスティアはどっち?」


 針が動きベスティアがあると思われる方向を示した。しかも距離まで表示してくれる親切設計だ。


 さすが王国の宝物庫。こんな宝を眠らせているなんて。俺が有効活用してあげよう。


「近くの街はどっち?」


 おおよそベスティアと同じ向きを指した。しかもそれほどここから離れていなそうだ。

 今日中には無理だが明日の昼には街に着けそうだ。


「よーしココ。この街道を南に向かった先に街があるらしいから、そこへ向けて進もう。途中で野営するからな」


「うん、ネロの分も頑張るって約束したからには野営の支度はココがやるです!」


 さっそく張り切っているようだ。別にそんなに意識しなくてもいいんだけどな。


「じゃあ行こうか」


 アテネたちに襲撃されたけど、今度こそ出発だ!




 ★☆★☆★




 それにしても何も無い。さっきから風景がまったく変わっていないぞ?本当に前へ進んでいるのか不安になる。


 歩き続けて三時間。空は茜色に染まり、あと一時間もしないうちに完全に夜になるだろう。


「ココ、今日はここまでだ。野営の支度を始めよう」


「じゃあココがテント張るからネロはそこに座って待ってるのです」


「さっきワンタッチ式のテントが袋の中にあったから準備しなくていいよ?」


 そう伝えるとケモミミがパタンと倒れてショックを全面に出すココ。


「でっ、でも晩飯はココに頼もうかな?」


 慌ててフォローを入れるとすぐに笑顔になる。

 はぁ、あの時頑張ってもらうなんて言わなきゃ良かったな……。



 食材、調理器具、皿を渡し、待つこと数十分。あたりはすっかり闇につつまれ二人のいる場所だけが光を灯していた。


 袋から机と椅子を取り出し、座って待っているといい匂いが漂ってきた。


「できたのです〜」


 運ばれてきた品数は少なかったが、野営で食べるには十分な量だ。


「うまそ〜! いただきますっ!」


 ……美味い! アテネの料理も相当美味かったけど、こっちの方が数倍は美味いぞ!


「すごく美味しい! ココにこんな特技があったんだな!」


 素直に驚いた。物語にありがちな見た目だけは良くて、味はゲロマズなのが出てくるのかと内心疑ってたよ。ごめんね!


「ふふん! これぐらい出来て当然なのです!」


 と言いながら満更でも無さそうに尻尾をぶんぶん振るう。


「これからも野営の時の飯はココに頼ってもいいかな?」


「OKなのです! 任せてです!」


 二つ返事で快諾してくれた。

 この美味しい料理をまた食べれると思うと小躍したくなる。




 ★☆★☆★




 次の日


「やったなのです、ネロ! 街が見えてきたのです!」


 その声に顔を上げると目指していた街、王国でベスティアに一番近いベスタの街が見えた。


「やっとか……」


 延々と変わらない景色で萎えていた気持ちが気力を取り戻す。

 もう足はクタクタで限界が近かった。ベスタを出る時は馬車を利用しよう……。


 そう心に固く誓い、入り口の検問の所へ向かう。


 予想どおり昼過ぎに着いたため、商人が長い列を作っていた。


「うわ〜、今からこれに並ばないといけないの? 勘弁してくれよ〜」


 あまりの長さに思わず愚痴ると前に並んでいた商人が話しかけてきた。


「なんだ兄ちゃんベスタは初めてか?」


「はい、そうですけど……?」


「なら知らなくて当然か。いいこと教えてやるよ。今俺たちが並んでいるのは商人用の検問だ。一般人はすぐ隣の小さな検問から通れるぞ」


 衝撃の事実を聞かされた。

 なんてことだ。わざわざ並ばなくても軽いチェックで通れる検問があるらしい。

 けど普通に考えればそうだよな。ちょっと草原に用があって外に出ただけで何時間も並ぶことになったら不便だもんな。


 商人のおじさんにお礼を言って、教えてもらった場所に向かう。



 俺はすんなり検問を通れたんだが、ココが問題だった。

 数百年ぶりに外に出てきたココが身分を証明するものを持っているはずなく検問で引っかかってしまった。

 すっかり忘れていた。あー面倒くさいな……。


「すいません、すぐにこの子の証明書、ギルドカードを作ってくるので通してもらえませんか?」


「そういうことなら銀貨五枚を置いていけ。今日中にカードを見せに戻ってきたら返してやるから安心しろ」


 衛兵に銀貨五枚を渡す。

 おかげで手持ちの金がだいぶ減ってしまった。

 これは商業者ギルドじゃなくて冒険者ギルドでカードを作って依頼を受けた方が良さそうだな。


 仮の通行証を渡され門をぬける。


 やっと街に入れた。

 まずは日が高いうちにカードを作って、それから宿探しかな?



金貨=100万円、銀貨=1万円、銅貨=100円です。でもあまりかねを使う機会はないと思います。

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