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四話 何処へ逃げようか?

 顔を上げると、そこにはボロボロにされた城が目に入る。


 きっとアテネが一人でやったのだろう。なんて危険な妹だ。やはりアテネと会わないようにしよう。


「ココ、大至急ここを離れよう。カトレアとアテネに見つかったら旅ができなくなるぞ」


「それは困るのです! 周りを見れば分かるけど、今ってココが生きていた時代より、だいぶ経ってそうなのです。知らないことだらけの世界じゃ旅するのが大変なのです!」


 急いでこの場から走り出す。

 方向は家がある方だ。


「まず家に帰って食べ物取ってきたいんだけどいいかな?」


「食べ物は大事です! いいのですよ! 早く行くのです!」


 よし、ひとまず三日ぶりの帰宅だな。




 ★☆★☆★




 城が攻撃され王都は危険だと判断したのか、通りには誰の姿もなかった。


「ネロ、あとどのくらい歩くのです? 長い間運動してなかったからもう疲れたのです……」


 ココは肩で息をしながら尋ねてくる。


「あの三階建の建物が俺の家だよ。それよりココは身体を鍛えないとダメだね……」


 数百年間袋に閉じこもっていたので筋肉が衰えているのだろうが狼人族でこの体力の無さは重症だよ……。


「そ、それより早く食べ物取ってくるのですっ!」


 体を鍛えることが嫌だったのか慌てて家に入ろうとした。


「あっ! 待って! 扉を開けちゃ――」


「あばばばばば」


 雷魔法のトラップ(登録した人以外がドアを開けようとすると発動する)にココはひっかかった。


「だから言おうとしたのに……」


 気絶したココを抱え家に入る。


 三日しか開けていなかったから特に何も変わっていないな。カトレアが家でも暴れてたのではないかと心配だったよ。

 とりあえず倉庫から食料取ってこよう。


 ココを椅子に座らせ地下倉庫に向かう。


 両親は貴重品だけ持って逃げたようで食料はたくさんあった。腐らせるのも勿体無いのでどんどん魔法の袋に入れる。


「とりあえずこれだけあれば十分だろ」


 店に出すはずだった保存食も回収したので少なく見積もっても二週間はもちそうだ。

 ついでだから携帯コンロとか野営で便利そうな物も持ってくか。


 倉庫が空になる勢いで袋に入れ続けたが、やはり容量の限界が無いようでまだ余裕がある。


「どれだけ入るんだこれ? ココが次元の狭間に落ちて、これから出てきたから、この袋も次元の狭間につながっているのか?」


 悩んでも分からなかったので、それより今俺たちが直面している問題について考えることにした。

 その問題とは――旅の行き先だ。

 俺たちがいる王都から一番近いのはペティア帝国である。しかし帝国民は皆野蛮でとても好戦的とよく耳にするので、正直なところ俺は帝国に行きたくない。だが他に近い国とはかなりの距離がある。


 うーん、これは一人で考えても時間の無駄だな。ココと相談して決めよう。


 部屋に戻るとココは既に目覚めていたようで家具や調度品を興味深そうに眺めていた。


 何か様子がおかしいな? ちょっと隠れて見てみるか。


 ココはしばらく部屋を眺めてから、窓の外を見てため息をつく。


「やっぱりココが次元の狭間に落ちる前と今じゃ全然違うのです……」


 悲しげな顔をしながら呟いていた。


 そうだよな……。まだ十歳くらいの子が気がついたらひとりぼっちだもんな。

 …………よし! なかなか距離があるけど隣の獣人の国に行こう! もしかしたらココに関連するものが見つかるかもしれないし!


「ココー、旅の目的地のことなんだけど、最初は隣にある獣人の国に行かないか?」


 影から覗き見していたことがバレないよう、少し間を置いてから話しかける。


「本当なのですッ?! その国に行くのです!」


 飛び上がって喜んでくれた。提案して本当に良かったよ。


「食料も回収できたし、そろそろ行こうか。あっ、その前にアテネが帰ってきた時のことを考えて手紙書いていい?」


「いいですよ〜」


 すぐに手紙を書き、目立つように机の上に置いておく。


 よしっ、これで準備は万端だ!いざ行かん、獣人の国ベスティアへ!




 と、思ったら地面が大きく揺れた。


 な、なんだ?! もしかしてアテネが勢い余って城を完全に崩壊させたのか?!


 急いで城を確認するために外へ飛び出す。


 そこにはありえない光景が広がっていた。


 なんとアテネとカトレアを先頭に騎士達が家の周りを取り囲んでいたのだ。


 嫌な汗が背中をだくだくと流れる。


 アテネとカトレアはとてもいい笑顔をしながらこちらを見てきた。


「お兄ちゃん♡ 三日間も妹を放置して楽しかった? ねぇ楽しかった? 私は辛かったよ? 悲しかったよ? それでいて私に一言も無しに逃げるってどういうこと?

しかも新しい女と一緒って話だし……。

今まで我慢してたけどもう許せないよ……。カトレアちゃんと話し合ってお兄ちゃんを一緒に飼うことにしたの。だからこっちに来て? 今来れば痛いことはしないよ?ヒヒッ」


 ヒィッ! なんてことだ! カトレアのみならずアテネまで病んでしまうとは!


「手紙を書いたよ! 今机の上に置いてきたところだよ! ほら、ちゃんとアテネのこと考えてるから、ね? そんな物騒なことは辞めようよ?」


「その手紙は後で読ませてもらうけど……ダーメ! 監禁すれば今までできなかったあんなことや、こんなことができるのに辞めるわけないじゃん」


 くそ! アテネはもうまともじゃない! 何が原因でこうなった? 英才教育(洗脳)したのが不味かったのか? それとも寝ているときにお兄ちゃんを養うことは素晴らしいって言い聞かせたことか? 心当たりがありすぎてどれか分からん!


「そう言うことなのでネロさんそろそろ『戻ってきなさい』」


 沈黙する俺に痺れを切らしたカトレアが命令する。その命令に俺が付けている首輪が反応する。


 身体が勝手に前へ! やばい!


「ネロ〜、どうしたのです〜? 早く行くのです」


 ナイスタイミングだ、ココ! 俺を助けてくれ!


「なの? です? ネロ、これどうなってるのです!」


「俺を捕えに来たんだ! 早く逃げよう! これはだいぶマズイ!」


「です! μετάβαση(テレポート)!」


 光が世界を染め視界を塞ぐ。しかしその程度で諦めてくれる妹ではなかった。


「ッ!させない!

 άνεμος() κόψιμο()!」


 凄まじい速度の風刃がココに迫っていく。


 なっ! このままじゃココが! うごけ! うごけ! 俺の身体、うごけよ!!!


 すると微かにだが身体に自由が戻ったのを感じた。


 いける!!!


 渾身の力を発揮し首輪の束縛から逃れようとする。次の瞬間、ビキッと音を立て首輪が完全に壊れた。いきなり首輪からの抵抗が無くなったので転びそうになるが地面を踏みしめることで回避する。その踏みしめた脚をバネにココへ飛び込む。


 間に合ってくれぇぇえええ!!!!


 ココを押し飛ばすため咄嗟に伸ばした左腕から大量の血が飛び散る。のと同時に景色が変わった。




 ★☆★☆★




「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃーん!!!!」


 テレポートするとき、ココを狙って放った風刃が、それを庇ったネロの左腕を切り落とした(・・・・・・)ためアテネの精神が不安定になっていた。


「大丈夫ですよ、アテネ。テレポートが使えるほどの魔法使いならばネロさんを回復させるくらい余裕でしょう。

 それより早くあの二人を追わないと。首輪が壊されてしまったので場所を特定できません。私は王都を離れることができないので、アテネが行ってください。その代わり、捕まえることができたらネロさんに何をしてもいいですよ」


 何をしてもいいと聞くとアテネは見る見るうちに落ち着いていった。


「何をしてもいい……。ふふっ、ふふふふふ……。待っててねお兄ちゃん。すぐに迎えに行くからね……。その前に手紙を回収しないと」


 手紙を取り、切り落とした腕もしっかり回収したアテネはベスティアに向けて出発していった。



「ふぅ、私も私であれ(・・)の準備をしておきましょうかね」



 二人のあまりの狂気に震える騎士達を連れてカトレアもその場を後にするのだった。



アテネは黒髪黒目の大和撫子風の美人です。

王都でカトレアと人気を二分するほどの人気です。コンプレックスはペチャパ――おや、誰か来たようだ。こんな時間に誰だろう。うわなにをするやめっ……!

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