一話 家がない!
短め
帰ってきたら屋敷が無くなっていた。
何を言っているのかわからないと思うが俺も何を言っているのかよく分からない。
周囲から木が燃えた臭いが漂ってくる。
聞くところによると、なんでも厨房から火が広がって火事になったそうだ。
まさか奴隷となって三日目に住む家まで無くなるとは夢にも思わなかった。
ルナはあまりのショックに口から魂が抜けているのが見える。
「おい、ルナ。おいって!」
「……はっ! ごめんなさい。家が無くなっている夢を見て頭がストップしてたみたい。さあ帰りましょう」
そして無くなった屋敷を見て固まる。それをさっきからエンドレスで繰り返している。
いつになったら現実を受け入れることができるのだろうか……。
ルナはもうしばらくポンコツで相手にならないから俺の話をしよう。
この国の法律には主人は奴隷に住む場所を与えるという義務がある。しかし今回の火事で屋敷は全焼してしまった。
つまり俺は売却、または解放される可能性が出てきた。まあ解放される可能性はほぼ無いが……。
俺の主人は名義上リゲルだ。だからいくらルナがゴネようとリゲルが俺を手放すと決めたら止めることができない。
さて、俺はどうなるのだろうか。ルナと仲良くなる兆しが見えた途端にこれだ。呪われているとしか思えない。
自身の今後を憂いていると例の人物が近づいてきた。
「おお、ここにいたか。ルナとネロ、二人に話がある」
やってきたのはルナの父、リゲル。
いつもはビシッと天をついているうさ耳も今はへにょって元気がない。
「見てわかると思うが屋敷が燃えてしまってな、新しく建て直すことにした。それでだ。屋敷の再建をしている間、私の父、つまりはルナの祖父の家で過ごしてもらえないだろうか?
祖父も武闘派だからな。みっちり鍛えてもらうといい」
そこでようやくルナが現実に戻ってきた。
「お祖父様のところへ? 屋敷のみんなで?」
「いや、ルナとネロの二人でだ。父上のところまで少し距離がある。そこまでみんなを連れて行くことはできない。それに私がいないと屋敷の設計の指示ができないからな」
「二人で?! メイドを一人も連れて行けないの?」
「ああ。彼女らには既に休暇を言い渡した。それに自分でやるという経験をしておくのもいいだろう。いざとなればネロを使えばいい」
ルナはまだ納得してないようだが俺は売られる心配はなさそうで安心した。
ルナのお守りくらいこなしてみせよう。
「いつから行くの?」
「うむ、明日荷物を揃えて明後日には出発したい。向こうには既に手紙を出しておいた。二日差があれば向こうも準備できるだろう」
「明後日?! お父さん、それはさすがに早すぎない?」
「そう言うな。並々ならない事情があるんだ。わかってくれ」
リゲルが頭を下げるのでルナは何も言えなくなった。
急遽ルナのお祖父さんのところへ出かけることになったがこの家系の一員だと思うと気が重い。無事に帰ってこれるといいんだが。
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