四話 面接
どうもこんにちは! 奴隷落ちしたネロ・ナダリヤです!
今日はなんと! ……セレーネ伯爵家で面接を受けています! すごいですよね! なんたって伯爵様ですよ! 私みたいな奴隷が伯爵様と対面するなんて、アリが象を踏み潰すくらいおかしなことなんですよ!
さて、肝心な面接官は――セレーネ伯爵様ご本人です! もうなんだかなーって感じですね。さらに伯爵様の両隣りにはサングラスをかけたごつい身体をした、いかにもSP風の人たちが二人ずつ座っているんですよ。しかもその全員がうさ耳ですから笑えちゃいますね。私を笑い殺すつもりなんでしょうか?勘弁してほしいですね〜。
さらに! 面接官五人に対し俺一人。せめてそこは五人対五人にしてほしかったですね。もう緊張で手汗がダラダラなんですよ。今からでもいいのであと四人面接受ける人連れてきて貰えないですかね? 無理? そうですか……。
…………まぁおふざけはこのへんにしとこう。
とりあえず状況の確認だ。
俺はオークションが始まってもないのにセレーネ伯爵家に売却された。
その後屋敷に到着したので一息つけると安心するがそのまま執務室に連れてかれ、ルナのお父さんであるリゲルから面接を受けているって状況だな。
……うん、状況を整理したつもりなのに余計頭がこんがらがったな。
オークションが始まってないのに売却されたことからしておかしいよな。それはオークションという定義そのものが否定するようなものだ。これは明らかに違法行為なのでセレーネ家以外の人に伝えればセレーネ家が処罰されること間違いない。ついでに筋肉ダルマも。
まあリゲルもそのくらい分かっているだろうからこの面接で俺が使えると判断すればセレーネ家以外の人と接する機会を与えてくれないんだろうな。逆に俺を用無しと判断すれば人目のつかない場所に幽閉するか口封じに殺すに違いない。
つまり俺は殺されないためにもこの面接をリゲルが満足する結果で終わらさなければならない! けど、リゲルが俺に何をさせたいのか分からないから難易度はルナティックだ。
こんな無茶な話があるだろうか?いや決してあるはずない(反語)。
「ときにネロ君、うちの娘を見ても怖がらず、さらには笑ったというのは本当かね?」
思考の世界へエスケープしていた意識が現実に戻る。
質問を聞き逃さずに済んだのには安心したが、全く安心できるような状況ではない。
なにせなんて答えればリゲルが満足するか分からないのだから。
1.正直に白状する
リゲル「うちのルナを何笑っとんじゃ?!」
↓
タコ殴りされる俺
↓
Dead End
2.笑っていないと嘘をつく
リゲル「ルナの言葉が嘘だって言うのか?!」
↓
タコ殴りされる俺
↓
Dead End
いずれにしろ死ぬやん俺……。嘘吐いたら余計に殴られそうだから正直に言うべきか。誠心誠意謝れば情状酌量の余地くらいあるだろ。
ヒッヒッフー! ヒッヒッフー! どこかで教わった呼吸法で緊張を和らげる。
……この呼吸法全く落ち着かないんだが。
そんなことより覚悟を決めるんだ俺! ただ素直に謝るだけじゃないか。無闇やたら怖がるものじゃないさ。大丈夫、きっと大丈夫さ!
「ふぅー……。ご息女を笑ってしまい、すいませんでした! お命だけはご勘弁を!」
そっと見るとリゲルの肩が怒りに震えているのが分かる。
もうダメだぁ、ここでネロ・ナダリヤ十七年の人生に幕がおりるんだぁ。おっとさん、おっかさんこんな不出来な息子でごめんよ……。
俺はSP風のおっさんたちに部屋から連れ出され明日の朝の動物のエサになる自分の姿を幻視したがそうはならなかった。
「すぅーーんばらしいぴょん! ルナを見て怖がらなかった人は今までいなかったぴょん! そんな人を殺すわけないぴょん!」
……あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!
「リゲルが怒りに震えていると思ったらいつの間にかぴょんぴょん言っていた」
な、何を言ってるのかわからねーと思うがおれも何を言っているのかわからなかい……。頭がどうにかなりそうだった……。キチガイだとか変人だとかそんなチャチなも(ry
「ハッ!? 取り乱してすまなかった。興奮すると何故かあのような口調になってしまうのだ。どうかこのことは内密にしてもらいたい。もし他言したらどうなるか……分かっているな?」
「はい! 突発的な難聴で何も聞こえてませんでした! よって他言するようなことは全く心当たりがございません!」
「うむ、私も大金を払って買った奴隷を殺すのは気がひけるからな」
リゲルがヤバすぎて何も言えない……。今の言葉も聞かなかったことにしよう。
「それで私がする仕事は何でございましょう?」
「おお、そうだった。その仕事が君にできるか確かめるためにこの面接を受けてもらったんだ」
「ほう、それで面接の結果どう判断されたのでしょうか?」
「当初の予定通りこちらが求めていた仕事に就いてもらうことにするよ」
「その仕事とはいったい……?」
「それはな……」
「それは?」
雰囲気に合わせてゴクリと唾を飲み込む。
「――ルナの家庭教師だ!」
「な、なんだってー!」
そんなこんなで俺はルナの家庭教師に任命されるのであった。




