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一話 馬車に揺られて

 俺はガタゴトと揺れる馬車から身を乗り出し、ベスティアまでの道の風景を眺めていた。


「気持ちのいいくらい草原が広がっているな」


 青々とした草原が見渡すかぎり広がっている。

 これだけ遮蔽物がなければ魔物の接近に容易に気づけるだろう。

 逆に魔物からも気づかれやすいデメリットもあるわけだが。


「こんなに草原が広がっているのは見たことなかったのです」


 ココも反対側の窓から外を見て感嘆の声を上げる。


 尻尾がぶんぶん揺れているので喜んでいるのかな。


 ベスティアは自然豊かな国だとギルマスのベンジャミンが言っていた。

 獣人は獣の本能により自然が好きなのだろうか?


「バカァ〜、バカァ〜」


 そんなとき空からふざけた鳴き声が聞こえてきた。

 見上げると数羽の鳥が飛んでいる。


 はて、あの鳥の名前は何だろう?

 クエストであの鳥の討伐依頼があったら優先して受けたいから、名前を知っておかねば。


「オヤッサン、空を飛んでいるあの鳥の名前は何ていうの?」


 俺は御者のオヤッサンに問いかける。

 ちなみに彼はオヤッサンという名前で、決して馴れ馴れしく呼んでいるわけではない。


「んだぁ?鳥の名前ぇ?どこに鳥が飛んでるぅ?」


 やけに間延びした言葉が返ってくる。

 オヤッサンは普段からこの喋り方とのこと。おかげでベスタの街では名前の知られた業者らしい。


「ほら、ちょうど俺たちの真上にいるじゃないですか。バカァ〜バカァ〜って鳴きながら」


「なんにぃ?! バカァ〜って鳴いてるのかぁ?! そいつはバカァ鳥だぁ! なんでもっと早くに言わなかったんだぁ!」


 なんて単純な名前なんだ。鳴き声がまんま名前なのかよ。


 それにしてもオヤッサンが慌て始めている。

 何をそんなに焦っているのだろうか。


「バカァ鳥ってそんなに危ない鳥なんですか?」


「バカヤロウぅ! バカァ鳥はなぁ、危険が迫っている馬車の上にきてぇ、教えてくれるいい鳥なんだよぉ!」


 バカァ鳥がそんなにいいやつだったとは……。

 ギルドでの討伐依頼は期待できなそうだな。


「それでどんな危険が迫っているんですか?」


「わからねぇ。バカァ鳥は危険が近づいていることを知らせてくれるだけで、それがどんな危険なのかは教えてくれないんだぁ」


 そりゃそうか。バカァとしか鳴けないんだから。


「だから今の俺たちには馬を走らせながら周囲を警戒するしかないんだぁ」


 ココがいるから安全だと思うけど、一応周囲の警戒を怠らないようにしよう。




 ★☆★☆★




 頭上にバカァ鳥を連れながら走り続けてどのくらい経っただろうか。

 オヤッサンの言う危険なことが訪れることは無く、平穏なドライブが続けられていた。


「オヤッサン、バカァ鳥の話は本当なんですか?」


 オヤッサンがベスティア周辺の知識が乏しい俺たちをからかって騙したのではないかと疑う。


「本当の話なんだけどなぁ。あれぇ? おかしいなぁ」


 しきりに首を傾げ、不思議がる。


 オヤッサンは嘘を付いていないみたいだな。

 太陽も落ち始めている。暗くなってからでは周囲への警戒も難しくなり、対処が困難になる。

 来るなら早く来てほしいな。


「あっ、あれはぁ!」


 そんな時、オヤッサンが何かを見つけたようだ。


「どうしたオヤッサン! 遂に危険を見つけたか!」


 霊力球を撃てるようスタンバる。


「違う違う。大木が倒れて道を塞いでいるんだぁ」


 見るとオヤッサンの言う通り木が倒れて道を綺麗に塞いでいる。


 道と草原には段差があるせいで草原に迂回した場合、客車が段差を登れそうにないので迂回は無理だ。


「おし、オヤッサンとココはそのまま待っていてくれ。俺が木をどけてくるから」


 俺は馬車を降り、倒木に近づく。


「間近で見ると凄くでかいな。霊力球でぶっ飛ばせるか不安になってきたぞ」


 だが撃ってみなければ何も変わらない!


 慣れた調子で霊力球を練りあげる。


「渾身の一撃受けてみろ!」と叫ぼうとしたその瞬間――


「ネロ! 危ないのです!」


 俺は頭に強い衝撃を受け意識を手放した。



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