幕間 ◯◯召喚Ⅱ
「……どこからともなく魔王ネロが現れたのです。彼は世界各地に魔物をばら撒き災厄をもたらしました。当然未知の生命体と対等に渡り合えるはずもなく人類は滅亡まであと一歩のところまで追い詰められてしまいました……。
しかしそこから人類の反撃が始まったのです。それまでは国交の問題で協力し合わない国もあったのですが、人類の存続に関わる問題とだけあって世界中の国が協力して魔王を退けました。
けれど魔王も一筋縄とはいきませんでした。彼は自分の持つ膨大な力を代償に生き延びたのです。そのとき強力な魔力が放出されたためか世界中の人から魔王に関する記憶が消えてしまったのです。幸いこの城は対魔術の結界に守られているので私たちだけ記憶を消されずに済みました。そこで私たちオモルフィ王国は――」
「要するに俺たちに魔王ネロを倒してほしいってことですね?」
そこで一人の青年が言葉を遮った。常識的に断罪ものである。
「おい、隼人。王女様の言葉を遮るのはマズイだろ……」
そばにいた友人らしき男も顔を青ざめさせる。
「これだけの人数を呼び出したんだ。きっと王女様も一人でも多くの人手が欲しいのさ。
それならば多少の無礼くらいで殺されたりしないだろうよ」
カトレアは隼人と呼ばれた青年に視線を向ける。
(明るい茶髪に爽やかなルックス。そして正確な考察力。この隼人って人が勇者たちの中心人物ね)
「魔王を倒してほしいのか?についてですが、近いけど違います。勇者様たちには魔王ネロを捕まえてここに連れてきてほしいのです」
カトレアの無茶な要求に皆騒然とする。
「世界中に魔物をばら撒いた張本人である魔王をここへ連れてこいと言ったのですか?」
何かの間違いだと思ったのだろう。隼人とは違う男が聞き返してくる。
「はい、そう言いました」
「そんなの無茶だ! 俺たち全員死んでしまう!」
そうだ! そうだ! と同意の声が続く。
「落ち着いてください。魔王は力の大半を失ったと言ったはずです。今の魔王は人並みの力しか持ってませんし、人の姿に化けているのでそれこそ一般人でも捕まえることができます。しかし一般人では万が一があるので特別な力を持つと伝えられているあなた達に頼んでいるのです」
自分たちなら小さな危険で魔王を捕まえることができると聞き、おし黙る勇者たち。
この時勇者たちは他の一般人が傷つくなら俺たちがやるしかないのか?とお人好しな考えをしていた。
「で、でも私たちには魔王を捕まえるメリットも何も無いじゃないですか」
このままではずるずると流されて、魔王を捕らえることで決まってしまうと危機感を覚えた女子が苦し紛れの言葉を紡ぐ。
「では魔王を連れてきた者の願いを何でも一つ叶えることにしましょう。大量の金を要求するも良し、この国の貴族になる、であっても叶えてみせましょう」
ざわっ、カトレアの言葉に勇者たちの目の色が変わった。
「大金が手に入るのか……」
「貴族になれば王子様との出逢いがあるかな」
「願いをなんでも……か。俺、魔王を捕まえたら異世界の料理腹一杯食べるんだ」
勇者たちはローリスク、ハイリターンの話に釣られていく。
そんな勇者たちに紛れていた大人の女性が声をあげる。
「私は先生としてこの子たちを危険な目にあわせることはできません! 私たちを元の世界に帰してください!」
せっかく良い方向に話が進みそうなところで邪魔が入ったとカトレアはセンセイと名乗る女を睨む。
本人は睨まれていることに気づかないまま話を続ける。
「だいたい魔王本人は危険ではないのかもしれませんが魔物が闊歩しているんですよね? やっぱり危険があるじゃないですか!」
これ以上喋らせては向こうにペースを持っていかれる。なのでカトレアは勇者たちを召喚できた理由を聞かせる。
「皆さんは自身が召喚されたことを不思議に思っていませんか? それはこの世界はあなた達がいた世界の裏側に位置しているからです。どういうことかと言うと二つの世界は知覚できない部分で繋がっているのです。つまり、この世界が魔王に壊されてしまえば連鎖してあなた達の世界も崩壊してしまうのです!」
明らかに動揺して戸惑いを隠せない様子の勇者たちを見て、ダメ押しとばかりに話を続ける。
「今の魔王は弱っているからいいものの、力を取り戻したら世界は終わりを迎えます。皆さんはこの世界だけの希望ではなく貴女方の世界の希望でもあるんです。それでも貴女は皆さんを止めるのですか?」
「そ、そんな……」
返す言葉のない先生は項垂れてしまう。
「うう、ごめんねみんな……。みんなに危険なことをさせなきゃならないみたい。ほんと私って教師失格よね……」
「そんなことないよ! 先生は当然の判断をしただけだよ! だから一緒に頑張ろうよ」
「そうよ! しかも私たちが世界を救えるなんてカッコイイじゃない!」
「み、みんな! ありがとう!」
そこら辺の物語にありそうなやり取りを見ながらカトレアは思う。
(まあ、全部、嘘なんだけどね!)
なんとも酷い話である。
勇者たちが落ち着きを取り戻したのを感じ、カトレアは彼らを召喚してからずっと気になっていたことを問う。
「あなたたち勇者様はこの世界に召喚される際、特殊な力を授かると伝えられているのですがどのような力を得たのか教えてもらえますか?」
これで幕間は終わりです。次回からは新章に入ります。




