一話 おうじょうぐらし!
「ふぁあ、もう朝か……。なんか今日は恐ろしい夢を見たな……」
寝ぼけ眼を擦りながら身体を起こす。そこで俺は違和感を覚えた。
「あれ、ここどこだ……?」
いつも寝ている自分の部屋でなく、全く知らない部屋にいるのだ。
俺は覚醒しきっていない脳で一つの答えを導き出す。
「そうかー、ここは夢の中なのかー。今日は変わった夢を続けて見るなー」
一人納得していると横から声を掛けられた。
「ネロさんこれは夢じゃないですよ。現実です」
慌てて振り向くとそこにはカトレアがいた。
もしかして現実なのか?いや、待てよ。カトレアはこの国の王女だ。その王女が護衛もつけず一人でいるのはおかしいな……。
そうだ、こういう時はあそこを触れば現実か夢か分かるじゃないか!
そう、カトレアのおっぱいを揉むのだ!
「ひゃっ!……んっ!あっ……ん」
なんということだ。この質感と質量は間違いなくモノホンだ……。
「なっ、何をするんですかー!!!」
数秒すると別の世界にトリップしていたカトレアが戻ってきた。
「いや、だって夢の中だったら触っとかないと勿体無いし、現実だったとしても触れれば嬉しいじゃん。一石二鳥的な?」
「何が一石二鳥ですか! 私が損するじゃないですか! ……って、あれ?ちょっと待ってください。
いつの日にかネロさんとそういう関係になるから特に気にすることじゃないのかしら? さらに事後になればネロさんは否応なしに私のもとから離れなくなるのでは?」
なにか恐ろしい計画を聞いてしまった気がする……。
「ははは……。俺がカトレアに手を出すわけないじゃないかぁー」
「ネロさんの意思は関係ないですよ?
忘れたんですか?昨日隷属の首輪を付けられたこと」
………………へ?
「あ、信じてませんね? 自分の首を触って確かめてみるといいですよ」
恐る恐る首に手をやるとヒンヤリとした触感がする。
…………マジで?
起きたときから少し首が重いなーって感じてたのを敢えて無視していたんだけどさ……。
「ふふふ。分かりましたか? もうネロさんは私のものなんですよ!」
カトレアの濁った目を見て、昨日のことが夢でないことに今更気付かされた。
「どうして俺を奴隷にしたんだ?」
「ネロさんはいつもいつも妹のアテネさんとくっ付いていて私に構ってくれないじゃないですか! ……でもネロさんが私の奴隷になればいつでも好きなだけ一緒にいれる。素晴らしいことだと思いませんか?! ご飯のときも、風呂のときも、寝るときも一緒、一緒、一緒。ふふっ、ふふふふふ、ふふふふふふふ」
怖い怖い怖い!元のカトレアに戻ってくれ!
祈りが神様に通じたのか、幾分落ち着いてくれた。まだ目のハイライトは消えたままだが……。
「えーと、俺どうなるの?」
「そうですねー。私個人としてはネロさんと誰も来ない山奥でひっそりと暮らしたいんですが色々と不安なんですよね。
ですから残念ですけどこの王城で住んでもらうことにしました」
王城に住むってことはカトレアのお父さん、つまり王様に直接会えるのか! その機会にカトレアの病みを伝えることができれば奴隷から解放してもらえるんじゃないか?!
「ついでに言っときますけど、お父様に頼んでも無駄ですよ? お父様にも協力してもらってますからね」
オーマイガー……。なんで王様が俺を監禁するのを許可しているんだよ。
★☆★☆★
部屋に閉じ込められてペットのように飼われるのかと心配したが決してそんなことは無かった。
代わりに、俺は執事の真似事をすることになった。今までカトレアの身の回りの世話は全てセバスさん(28歳独身、彼氏がいたこと無し)にやってもらっていたので、たまには他の人に世話をして欲しいとのこと。
それにしても先ほどからカトレアの背後に控えているセバスさんの視線が痛い。
「セバスさん。なんでさっきから俺を見ているんですか? 気が散って紅茶を淹れるのもままならないんですが」
「そう?ごめんなさいね。私からお嬢さまを奪う不届き者が視界に入るから睨みつけないと気が済まなくて」
そんな言葉を笑顔で平然と言ってくる。
俺だって好きで執事の真似事をしているわけじゃないんだよ! そこのお姫様がやれって言うから渋々やっているだけでセバスさんからカトレアを奪おうなんて全く思ってないから! どうせ今思ったことを伝えても変な勘違いするんだろうな……。もうヤダお家帰りたい……。
★☆★☆★
休憩をもらった俺は廊下を歩いていた。
軟禁されている俺に休憩ってのも変な話だがそれだけ逃さない自信があるんだろう。ここは大人しく城内を見てまわるしかなさそうだな。
「おっ、ここが宝物庫か。ずいぶん近いところにあったな。てか扉に宝物庫って刻み込むのはどうよ? いや分かりやすいからいいんだけどさ」
重い扉を開く。中に何か面白いもの、便利なものはないだろうか?
「袋? なんで袋なんかが宝物庫にあるんだ? もしやあれか? 入れても入れても無限に入って、中は時間が止まるという物語の最重要アイテムか?」
試しにそばにある剣を突っ込む。明らかに入らない大きさだが、予想通りすんなりと入る。
「すごっ! 中どうなっているんだ?」
気になって袋の中を見る。
――目があった。
「ファッ!」
これが深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているてきなやつ? それって比喩的な話だったんじゃないの? リアルで深淵がこっちを覗いてたんだけど。
まあそんなこと無視して、まだまだどんどんお伽話で出てきそうな武器とか道具突っ込みますけど。
宝物庫の中をあらかた空にし尽くしたあたりでもう一度袋の中を覗いてみたくなってしまった。
怖いもの見たさ的なやつが刺激されたんだよ。
「!」
また目が合ったよ。よく見たら可愛らしい目をしているな。なにか話しかけたそうな目だな。ぼっちのテァナカァ君みたいな目をしていたからすぐ気づいたよ。
「………」
耳をすませば何かが聞こえてくる。何を言っているんだ?
「……ほ……ん」
ほん? ほんって本のことか? 本当かな〜?
「もしもし深淵さん、ほんって本ですか? ブックのことですか?」
「そ……う……」
どうやら当たっていたらしい。そして名前は深淵らしい。
本が欲しいのか……。あそこに鎖でグルグル巻きにされてて変なオーラ放ってる本があるけどそれでいいかな? 書庫なんてどこにあるか分からないから探しに行くの面倒臭いし。
豪華な台の上に置かれてる本をとる。
「ほら深淵さんが欲しがっている本だよ。ゆっくりとお食べ」
袋に本を入れてあげる。
「……うっ……あっ、んっ……」
深淵さんが艶めかしい声をあげる。どうやらあの本は十八禁のやつだったらしい。
女性?のそんな声を聞くのは可哀想なので、紳士な俺は声が漏れないよう袋の口をしっかり閉じてあげた。
「よし、部屋に戻るか」
袋を腰に吊り下げ、空になった宝物庫を背に割り当てられた部屋へ帰った。
★☆★☆★
寝ようとうとうとしていた時、
「盗賊だ! 宝物庫の宝が全て奪われていた!」
などと怒鳴り声が聞こえてきた。
ひぇ〜、宝物庫すぐそこにあるんだけど、そこに盗賊が出たの? めっちゃ怖いんだけど。城の警備どうなってんだよ! 今日ちゃんと眠れるかな? 不安で眠れないかも……。
ぐっすり寝ました。