十六話 油断は禁物
「ちっ! どういうことだ! さっきよりガキの攻撃が苛烈になってきたぞ!」
得物の大剣で俺からの攻撃――霊力球を辛うじでしのぎながらダグリスは愚痴った。
霊力球は無色透明だから被弾して体力を削られないようにするのがせいぜいなのだろう。
俺はその言葉を無視して霊力球の数を更に増やす。
この数に打たれたらダグリスも容易にこちらに近づいてこれまい。
「ぐッ! ぐおぉぉぉぉ!!!」
予想通り霊力球をさばききれずダグリスは一歩、また一歩とジジイのもとへ後退していく。
「バカもん! 何故わしのところへ来るのじゃ! わしまで巻き込まれたらどうするつもりじゃ!」
「うるせージジイ! こんなに魔法を打たれているのに逃げる向きを決めれるわけねぇだろ!」
「なんじゃ、その口の利き方は! わしはお前の父親なんじゃぞ!」
「あ?やるのか?!」
ダグリスは剣を下ろし、霊力球に打たれるのも気にする様子もなくジジイに面と向かった。
そしてジジイも魔法の詠唱をやめ、ダグリスを睨む。
あれ? 雰囲気悪くない?
一触即発の空気に思わず俺も詠唱をやめてしまう。
観客も異様な雰囲気に固唾を飲んで見守る。
「「――今だッ!!!」」
するとダグリスは大剣を構え俺に突撃してきた!
対するジジイも杖を掲げ長文の呪文を唱え始める。
「クソッ! 演技か!」
慌てて霊力球をダグリスにぶつけるが、奴は怯まず突進してくる。
この街一の冒険者を名乗っておきながらそんな卑怯な手は無いだろ!
「ココ!あとどのくらいだ?!」
一縷の望みにかけて尋ねる。
「あと数秒なのです!」
数秒か……。
ダグリスと俺の距離は約五十m。大剣を持っているとは言え、奴も冒険者だ。十秒もかけずにここへ辿り着くだろう。
霊力球をぶつけてスピードを落とすのが関の山か……。
しかしいくら霊力球をぶつけても完全に焼け石に水の状態。速度を緩めずグングン近づいてくる。
霊力球ちゃんと当たっているよな?!
「はははガキ! 俺に傷を負わせた罪は重いぞ! 覚悟しやがれ!」
ダグリスは霊力球がぶつかってできた痣だらけの顔で叫んできた。
「ココまだなのか?!」
「――できたのです!
πάγοςφρούριοなのです!」
その瞬間一寸先も見えないほど濃い霧が出て視界を覆い隠した。
何秒か経つとスウッと霧が晴れ、訓練場の半分を囲む巨大氷ドームが姿を現した。
氷越しには呆けた顔のダグリスが見える。
大剣は大上段で構えられ、あと数瞬遅ければ俺はばっさりやられていただろう。
「ふう、お疲れ様ココ。魔力の残量はどう?」
地面に腰を下ろしながらココの状態を確認する。
万が一閉じ込めたクズ親子が脱出した際、ココに魔力が残っていないと危ないからな。
「魔力の残量です?まだこの魔法を十回以上打てるくらいには元気なのです!」
ココは尻尾をブンブンふって元気さをアピールしてくる。
「そうか、それなら安心だな。冒険者が噂しているのを耳にしたんだけど、魔力が底を尽きかけているとポーションを飲むことさえできなくて口移しすることもあるらしいんだよ。でもココはそんなことなくて良かったよ」
俺がクズ親子が氷のドーム内で悪戦苦闘している様子を楽しみながら、いつだか聞いた噂を教える。
バタッ。
背後で何かが倒れた音が聞こえた。
嫌な予感と共に振り返るとさっきまであんなに元気だったココがうつ伏せに倒れていた。
「どうしたココ! 何があった!」
「ま、魔力欠乏症なのです……。実は痩せ我慢をしていたのです……。でもやっぱりきつかったのです。ポ、ポーションを飲ませてくださいなのです」
な、なんだって?! 思い返せばココの尻尾のふりがいつもよりキレがなかったかもしれない……。
「ほらココ、ポーションだ。自分で飲めるか?」
急い取り出したポーションをココの口のそばに持っていく。
「無理そうなのです……。口移しじゃないと飲めそうにないのです」
もしかしたらと思ったが、やはりそうだったか……。
「あぁ早く飲まないと意識がなくなって、そのまま死んでしまいそうなのです」
ココは今にも死にそうな顔をしながら俺を見つめてくる。
これは覚悟を決めるしかないのか?




