十四話 報酬金
明日はバレンタインですね。
ネロ君ならきっと100個とか貰うんでしょうね(遠い目)。
「それで報酬金についてなんだがね。僕はゴブリン達の死因が悪魔だと知らなかったけど、ルーキーの君を悪魔のもとへ送り込んでしまったの事実だ。その罪滅ぼしも兼ねて少々色を付けさせてもらったよ」
うんうん。故意ではなかったといえ、そのくらいの誠意は見せてもらわないとね。
「ではメリー君に持ってきてもらおうか。メリー君、入ってくれ!」
「失礼します」
部屋に入ってきたメリーさんの手には、ココの頭と同じくらいの大きさの布袋が握り締められていた。
てかメリーさんはいつからそこに待機していたのだろうか。
「ほら、受け取ってくれ」
ベンジャミンに促され袋を受け取る。
「中を見てもいいですか?」
「もちろんいいよ」
はやる心を落ち着かせ深呼吸をする。
何せ始めての報酬金だ。
しかも死の危険があった今回のクエストで、いくら貰えるかは今後の冒険者業の方針に深く関わってくるからな。
意を決して袋を開くと、そこには銀貨が目算でも百枚はあった。
「こ、こんなに?!」
銀貨百枚超えの報酬なんて一流冒険者でもなかなかお目にかかれないぞ!
「だから言ったろう。色を付けといたって」
これだけあれば本来の目的地ベスティアに今すぐにでも出発できるぞ。
「本当にありがとうございます!これで旅の続きができます!」
「それはよかった。ここを出発してどこへ行くつもりなんだい?」
「隣国ベスティアですよ。そこに用事がありまして」
「そうなのか。僕もベスティアに行ったことがあるけどあそこはいいところだよ。山と海があるおかげで色々な料理が楽しめる。さらに海にはビーチなるものがあって泳げるようになっているんだよ。ぜひ楽しんできてくれ」
ベンジャミンが目を細めてベスティアのいいところを語ってくれた。
「海? ネロ、海とはなんなのです?」
ココもさぞ楽しみだろうと顔を覗き込むとまさかの質問をされた。
ココは海を知らないのか。うーん、なんて説明すれば分かって貰えるのかな。
「地面がなくて見渡す限り水が広がっている場所だよ」
我ながら素晴らしい説明だな。惚れ惚れしてしまうよ。
「それに海の水は塩を含んでてしょっぱいのよ」
メリーさんも合いの手を入れてくる。
「海はしょっぱい水の集まりなのですか?」
「そうだな」
「海すごいのです! ネロ、早く行くのです!」
おお! インドア派のココがこんなに積極的になるなんて!
「じゃあ明日出発するか!」
意気揚々と計画を立てているとメリーさんがおずおずと手を挙げた。
「どうしたんですかメリーさん?」
「朝に明日デートするって約束したよね?」
「………………」
ワスレテタ……。
「ごめんごめん!海でついテンションが上がっちゃって!」
「そう、私とのデートは海より価値が低いのね……。ふふふ、ギルドの看板受付嬢でこの街で結構人気あると思ってたけど所詮この程度なのね……」
メリーさんから負のオーラが! こんな時はなんて言えばいいんだ?!
「あ、明日一日ずっと付き合うからどうか機嫌を直して!」
「ふふふふふ……」
ダメだ。まだメリーさんの意識が戻ってこない。
くそぉ、王都にいた時アテネのせいで女性と碌に会話させてもらえなかったから圧倒的に経験値が足らん!
「ココえもん〜たすけて〜」
「こういう時はしばらく放置しておくのが一番なのです」
「そうなの?」
「そうなのです。だから早く宿に戻るのです」
同性のココがそう言うなら間違いない……のか?
「じゃあいったん帰らせてもらうので後は頼みました」
そしてメリーさんをベンジャミンに任せて部屋を後にした。
★☆★☆★
「お前たちちょっと待つのじゃ」
あと半歩進めばギルドから出るところで誰かに呼び止められた。
「俺たちのことですか?」
振り返るとそこにはどこかで見たおじいちゃんがいた。
「そうじゃお前たちじゃ」
はて、俺たちが呼び止められる理由はなんだろう。
「どうしたんですか?」
「先ほどギルマスから報酬金を貰ったじゃろう? その金はワシのじゃ、今すぐ返すのじゃ」
……誰か通訳を読んできてくれ。
いきなりの展開についていけなくフリーズしていると無視をされたと思ったのかおじいちゃん、もといジジイがキレてきた。
「何を無視しておるのじゃ! その金はワシのもんじゃ! さっさと渡すのじゃ!」
キチガイに構わず帰ろうかと出口に足を向けたとき今度はおっさんが現れた。
「おう親父、こんな餓鬼に絡んでどうしたんだ」
「おおダグリスちょうどよかった。あの小僧らがワシの金を奪ったのじゃ」
どうやら親子のようだな。でもタイミングが良すぎる。もともと共謀していたのか?
俺の考えはよそに話は進んでいく。
「なに?! 親父の金ってことは俺の金でもあるじゃねえか! おう坊主そんなことして許されると思ってるのか?」
路地裏のヤンキーがやってそうなメンチ切りをしてきた。
しかし俺には怖いという感情よりも怒りの方が大きかった。
「この金は“俺たちが”“報酬金として”貰ったものです。文句があるならベンジャミンに言ってきてください」
「その報酬金はゴブリン森の調査クエストのものじゃろう! あのクエストはもともとワシが受けようとしていたものじゃ! だからその金もワシのもんじゃ!」
なるほど、意味わからん。
そんなのただの言いがかりじゃないか。しかも実際にクエストをこなしたのは俺なのだから俺とココ以外に受け取る権利がないだろ。
「そう言うわけだ坊主。その金全て置いてけ、と言いたいところだがお前らもクエストを完了したのだから少しは欲しいだろう。3/4置いていけ、残りは持ち帰っていいからよぉ」
くそッ、本当にイラつく奴らだな。ここでこいつらボコしていいだろうか。
「お前たち静かにしろよ。こっちは二日酔いで頭が痛いんだ。喧嘩するなら訓練場でやってくれ」
そこに俺たちのいざこざを見かねたおっさんが注意をしてきた。
「いいなそれ。金を渡さないなら訓練場についてきてもらおうか。そこで教育してやんよ」
絡んできたおっさんは俺たちを私刑しようと訓練場に行く気満々だ。
しかし訓練場か。このクズ親子をボコすにはちょうどいいかもな。




