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九話 クエスト

「――最近近くの森で大量のゴブリンの死体が見つかってね。その森はゴブリンしか出てこなくて、初心者にとって絶好の狩場だったんだよ。」


 ベンジャミンはベスタの街周辺の地図を出す。


 確かに街の東に大きな森が広がっている。森の名前は――ゴブリン森らしい。どんだけゴブリン出てくるんだよ……。


「そんなある日、森に行った新人冒険者たちが数十匹のゴブリンが生気を喪ったように死んでいるの見つけたんだ。そのことはすぐにギルドに報告されて、ギルドのトップで緊急会議を開いたんだ。けど冒険者が死んだわけでも、ゴブリンがズタボロに殺されていたわけでも無いからギルドも対応を図りかねて困っていてね」


「生気を喪ったように死んでいるなんて、ただ事じゃないと思うんですけど、それでも対応に困ったんですか?」


「うん。魔物がグチャグチャに殺されていたなら強力な上位の魔物が出たと判断できるけど、外傷が何もなく死んでいたから殺されたのかさえ分からなくて困るんだよ」


 ギルドもお役所だから今回のような未知のケースには対処できないのか? 融通が利かないな。


「そんな時に君たちが現れたんだよ。しかもこのギルドトップクラスの強さを誇るメリー君を倒した。これは君たちを頼れという神の思し召しに違いない。そう思って声をかけさせてもらった」


「なるほど。で、依頼はどんな内容なんです? まさかゴブリンたちの死因を突き止めてその原因を探してこいってことは無いですよね?」


「そのまさかなんだよね……。まあ原因も、とまでは言わないから死因くらいは突き止めてほしいかな。理由も分からないままじゃみんな怖がって森に近づけないからね」


 うーん。どうしようか……。森に入れなくなったら木材やゴブリンから取れる魔石の供給が止まるんだろうな。けど、俺たちはこの街がどうなろうと関係ないしな〜。


「こんなよく分からない依頼受けたくないよね。……仕方ない。どんな情報でも提供してくれるたびに銀貨一枚以上で買おうじゃないか」


 なに!? 教えるたびに銀貨一枚以上だと?

 俺たちみたいな駆け出し冒険者じゃ一日大銅貨五枚も稼げればいい方だと聞いていたぞ?

 ……これは受けるしかないな。


「そこまで言うならその依頼を引き受けましょう!」




 ★☆★☆★




 昨日のベンジャミンとの会話はそんなものだった。そして俺たちは今その森に来ている。


「なんか薄気味悪いのです……。はやくゴブリンの死因を突き止めて帰るのです」


「確かに不気味な雰囲気がするな。

 けど依頼を受けた以上先に進むしかないだろ」


 森に入るとその異様さがよく分かった。

 音が全くしていないのだ。普通であれば獣や魔物の鳴き声、移動する時に聞こえるはずの葉擦れも全くないのだ。


 袋から宝物庫にあったナイフを取り出し、すぐに戦闘を行える態勢になる。


 しかしいくら進んでもうさぎ一匹出てこない。不安に感じながらも森の奥へと進む。


 何か絶対におかしい。これ以上奥に進むのは危険だ。そろそろ街に戻るか?


 そんな考えが頭をよぎった時、前方の開けた場所にゴブリンが山のように積み上げられ死んでいるのを見つけた。


 ゴブリンの顔は何かに苦悶していたのか、ひどく歪んでいた。


 本能が逃げろと激しく警告してくる。


 しかしこんなおぞましい顔を見せられてすぐに動ける人がいるはずない。


 その場でココと呆然自失で立ち尽くしているとゴブリンの山から黒いモヤのようなものが出てきた。


 そのモヤを見た瞬間背筋に悪寒が走り、心臓が早鐘のように打つ。


 これは人の手に負えるものじゃない!


「ココ! テレポートだ! はやく!」


「はいなのです! μετάβαση(テレポート)!」


 ココの手に出現した魔導書が光り輝くが、その光はモヤに吸い込まれてしまう。


「な、何故なのです?! 相手の魔法の発動をキャンセルできるなんて聞いたことがないのです!」


 ココが驚くのも無理のないことで、発動した魔法を対になる魔法で打ち消すことはできる。これは誰でも知っている。

 しかし魔法の発動そのものを防ぐことは数多の研究者が調べた結果、魔法使い本人を攻撃して集中を乱す以外不可能とされていた。それをこのモヤはやったのだ。


 光を吸収したモヤは俺たちを取り囲みはじめる。今はこちらに攻撃してくる様子は無いが絶対に攻撃してこないとは言いきれない。


 クソッ! 打つ手が何もない! こうなったらココだけでも!


「ココまた袋に入れるか?」


「入ってどうするのです?」


「逃げる手を思いついたんだよ。袋に入ってから一時間くらいしたら出てきてくれ」


「本当に大丈夫なのです?」


「大丈夫、大丈夫。とりあえず袋に入ってくれ」


 俺が必死に頼むので渋々袋に入ってくれた。


 ココが袋に入ったのを確認すると俺は独りごちる。


「これでお別れかな……。短い間だったけどありがとな」


 そして俺はモヤが無い上の方から来た方角に向けて袋を思いっきり投げた。

 袋はモヤを無事に超えてすぐに見えなくなった。


「まさか初クエストで死ぬかもなんてな……。金につられたらダメってことか」


 己の愚かさに自嘲しているとモヤに変化が訪れる。


 今までけむりのような不定形だったのがゆっくりと何かの形を取りはじめた。


 俺を取り囲むように広がっていたモヤは収縮し一本の縄のようになる。そして縄の途中が切れたかと思うと、その片端が角の生えた蛇に似た頭になる。残りの縄の部分は鱗のある胴体と尻尾に。


 変体が終わったのか、とぐろを巻いた蛇もどきは俺を睨んでくる。


 数秒、数分、数十分、どれだけ睨まれていたのか分からない。それが分からなくなるほど蛇もどきの発する()が恐ろしかった。


 俺が怯えているのを感じたのだろう、蛇もどきは食い殺さんばかりに大きな口を開き飛んでくる。



 神様助けてください!!!



 初めての神頼み、しかし願い虚しく俺はこいつに……食われた。



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