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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
悪徳の街クラリセン

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買い食い禁止

 


 宿の朝食は、薄く焼いたパンに辛い挽肉のソースがかかっていた。


「それで、今日はどんなところに行きたいの?」

 皿に零れたソースを匙で掬いながら、テトラは僕に尋ねてきた。


「そうですね……、イラインじゃ見られないようなものが見たいです」

「また、漠然としてるわね……」

 呆れたようにテトラは呟き、集めたソースを口に運んだ。


 確かに漠然としているが、それが本音なのだ。

 このミートソースもふんだんに香辛料が使われており、正直朝食べる物じゃないと思うくらい辛い。

 床を見れば絨毯には、色とりどりの糸が使われ、複雑な模様を作っている。主に花の柄が多いイラインで使われている絨毯と違い、幾何学模様に動物の柄などが多用されているのは興味深い。

 料理も敷物も、イラインとは違い隣国ムジカルの影響を受けている。

 僕の育った開拓村にミールマンの影響があったように、クラリセンを開拓した主要メンバーにムジカルに縁がある者がいたのだろう。

 それに加えてシガン町長の政策により、エッセンとムジカルの交易の要衝になっている。


 それらの条件が合わさり、この街は僕が見たことの無いもので溢れているのだ。

 正直、ただ街を適当に見て回るだけで充分な観光旅行となる。



「まあいいわ。じゃあ、適当に案内してあげる。食料品の店は昨日回ったし良いわよね?」

「まだ何か食べたこと無いものがありそうなので、出来れば案内を」

「良いわよね?」

 してほしい、という言葉を出させないように、テトラは言葉を被せる。

 昨日の屋台料理食べ過ぎの件を怒っているのだろうか。


 もうシェアしようとか思わないから、別に良いと思うのだが。

 だがまあ、ここで逆らわなくても良いだろう。食べ歩きならまた一人ですればいいのだ。

「……わかりました。今回は遠慮しておきますね」

「賢明だわ」

 僕が言うと、テトラは頬杖をついてニッコリと笑った。





「まずは、この街の大通り!」

 テトラが大げさに腕を広げ、その先を示す。

 宿から出てまず向かったのは、森に接した街の入り口だった。

 そこから街を東西に貫く直線の道。向こうの森まで真っ直ぐに突き抜けるその通りは、村だった頃から変わらずにあるそうだ。


「その時は建築師だった一家が四人で作ってたの。三里くらいはあるこの道の修繕やらなにやら、その一家だけでやってたわ」

「この大通りを? すごいですね」

 今は流石に街から建築ギルドに依頼しているそうだが、当時は大変だったのだろう。

 森を切り拓きそこを人間の住める場所にした。その逞しさを、足下に感じる凸凹から実感出来た。


 歩き出しながら、テトラは朗々と喋り続ける。

「この通りに並ぶ店は、村だった頃から全然減っていないはずよ。一応綺麗で大きな建物に改装はしてあるけれど、それでも中身は昔のまんま」

 どや顔でそういったあと、テトラは一瞬だけ顔を曇らせた。

「まあ、今は貿易商とかの店が増えてきたから、全部が全部村のときからあったわけじゃないんだけどね」

「活気があって良いじゃないですか」

 騒がしい呼び込みの声に、荷物をかかえて駆け回る商人達。安定しているイラインと違って景気が登り調子のこの街は、むしろイラインより活気があるように見えた。

「そうね」

 何処か寂しそうに、テトラは笑った。


 気を取り直し、テトラは案内を続ける。

「で、注目して欲しいのは軒先の形よ!」

「軒先、ですか?」

 張り出した屋根、それを指差しながらテトラは言った。

「形をよく見て。二つに種類が分けられないかしら」

「ああ、たしかに」


 言われてみれば、軒が無い店は別として、屋根に瓦のようなものが使われている店と、板張りになっている店があるようだ。


「あの瓦が使われている物は、当時村だったときの意匠を残している店よ。私的には、使うのはそういうとこをお勧めするわ」

「何故です?」

 何か、デザインに関する規約でもあるのだろうか。

「そういう所は大体、開拓村初期からいた人の店だからよ。やっぱり、信用出来るのよね」

「馴染みの店、ってことですかね」


 昔馴染みのその店は、今でも地域住民に愛されている、ということだろう。

 もっとも、見た感じそういう所よりも新しい店の方が繁盛していそうな雰囲気だが。

 呼び込みがあるのはもっぱら新しい店だ。瓦の店の中をいくつか覗いてみれば、主人らしき人がただ座っているか作業しているだけだった。



 歩いて行くと、大きな石のモニュメントが見えた。

 五メートル四方ほどの正方形のその扁平なモニュメントは、四方に道が延びる十字路のど真ん中に置かれていた。


「こちらは?」

「ええと……」

 テトラは目を逸らしながら、困ったような顔で言った。

「よくわからないのよね。前町長……もうすぐ前前町長かしら……が街になった記念に作ったんだけど……」

 そう言いながらテトラが目を向けた先を見ると、モニュメントには花が象られた見たことのない紋章が描かれていた。

「誰も意味がわからないのよね。街の象徴にしようとしてたらしいけど未完成らしいわ」

「はー、これで」

 僕の感嘆の声は、雑踏の音に消えていった。




 テトラの案内は流暢で、とても面白かった。

 僕が頼んだからではあるが、その話し口は観光案内のようなものだった。妙に慣れている感じがして聞いている者を飽きさせないようにされている。頑張れば、こういう商売まで出来そうだ。

 そしてその内容からは、テトラがこの街、いや村を好きだったことがよくわかった。


 きっと、だからこそ、街を変えたシガン町長が嫌いだったのだろう。

 笑顔ではしゃぐテトラを見て、そんな気がした。




「と、まあ通りの様子はこんな感じね。何か質問とかある?」

 街を通り抜け、反対側の森まで到着したところでようやくテトラの弁舌は止まった。

「いえ。ありません」

 総評すると、やはりエキゾチックなこの街はムジカルの影響が大きい。

 ムジカルの人間の好みに合わせ、壁は多彩な装飾が多く、赤青緑の原色がふんだんに使われていた。

 シンプルにまとめられたイラインとは大きく違うところの一つだ。


 この街がもっと長く続けば、この両国が混じり合った街の景色自体が名物になっただろう。

 そう思ったが、それも難しいか。


 観光という文化がこの世界にはあまり普及していない、と思う。

 やはり価値を見られるのはその国の物品で、他国の文化を楽しむとすれば旅の劇団や楽団を物珍しく見るぐらいだ。

 他国に行くのは資源や物を求めに行くのであって、それ自体を楽しむ者は殆どいない。

 ただ楽しい街だとしても、それだけで人を集めるのは難しいのだ。


 だから、町長は人を集めるために利益を提供した。

 商人を集め、利益を誘導して人を増やした。そのおかげで、街に住む人間は便利に暮らせるようになった。


 シガン町長は僕にとっては敵だったが、やはり政治家としては良い部類だったのかも知れない。

 まあ、話したこともないし、実際にどうだったかはわからないのだが。




 結論としては、街を一通り見て、楽しかった。

 それだけで良いだろう。


 案内してくれたテトラに感謝だ。



「じゃ、次はさっき見た脇道の方に」

「はいはい、雑貨屋とかあんた好きそうだもんね」


 商品を見て贈り物を決めよう。

 お礼には何が良いか、悩むのも楽しそうだ。






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― 新着の感想 ―
皿に零れたソースを匙で掬いながら、テトラは僕に尋ねてきた。 皿に残ったソースはパンで拭って食べるんです常識ダヨ?
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