表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
悪徳の街クラリセン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/937

明日の約束と今夜の食事

 



 しんと静まった小屋の前で、レイトンが一つ息を吐き、宣言する。

「では、ヘドロン嬢にカラス君、ここからもう解散でいいよね。ちなみにあの宿は明日の朝まで取ってあるから、自由に使っていいよ。以上、お疲れさま」

「え、ちょっと」

 慌てて止めるテトラに、レイトンは首を傾げた。

「何? もう用事はないよね?」

「いや、も、もっとこう、何かあるでしょ!?」

「ぼくとカラス君がやることはもう無いよ。あとはキミが、ヘレナ嬢を正しく街の活動に参加させるんだね。それが出来れば、もう本当にこの街でやることはない」


 ヘレナを生かしておく理由は、確かにそうだったはずだ。

 今まで街の活動に参加していなかった彼女に働いて貰えば、多くのリターンが望める。そういう話だったはずだ。


「たしかにその辺は、テトラさんに頑張って貰うしかなさそうですね」

 彼女、他の人の話とか聞くんだろうか。テトラの話すら聞かない気がする。


「いやいやいやいや、あんたたち、あの子あんだけいたぶっといて、それしかないの?」

「ぼくはただ事実を言っただけだよ。カラス君に到っては、キミのことを慮って今の気持ちを尋ねただけさ」

「だって、ねえ? 慰めるのとかは違いますし……」

 次の恋を探そう、とか言えるような雰囲気じゃなかったし。


 それにしても。

「テトラさんだって、あんまり深刻そうに見えませんが?」

「いや、まあ、何というか……途中から、ちょっと冷めた目で見ちゃったというか……」

 目を逸らしながら、テトラはもごもごと言う。

「悪い男に引っかかっただけだってわかったら、なんか助ける気もあんまり……」

「他人の色恋沙汰なんてつまらないもんだもんね」

 ケラケラとレイトンは笑い、そして、ニッと笑った。


「じゃあこれで、邪魔者は消えるよ。もう敵はいないし、仕事もない。ヘレナ嬢もしばらく出てこないんだから、ヘドロン嬢は暇だろ? カラス君に、街を案内してあげたらどうだい?」

 突然、レイトンはそんなことを言いだした。

 街の案内、ねえ。観光も中途半端だったし、ちょうど良いかもしれない。

「いいですねぇ」

 僕がそう言うと、テトラはぴょこんと跳ねるように反応した。

「じゃ、じゃあ……」

「あ、でももう日も暮れますし、明日でも……」

 日没も近い。どうせ観光するのなら、日中に回って楽しみたい。

 そう思い、明日頼もうかと思うと、テトラの顔が固まった。

「……そうよね! じゃあ明日……」

「だと、もうヘレナ嬢とお話し出来る機会が持てるんじゃないかな」

 レイトンがそう口を挟むと、テトラが肩を落としたように見えた。


「いやいや、それぐらいで諦めないでよ。もっと食い下がればいいじゃん。 理由なら、夕飯の食べ歩きとか夜の楽しみとかいくらでもあるし。明日誘う分だってね」

「あんたに助言されるのもなんか腹立つわ……!」

 しかしレイトンの言葉にいきり立ち、テトラは地団駄を踏んだ。

 仲よさそうで羨ましい。




「まあ、その辺も別にぼくは関知しないよ。もう自由時間なんだ。好きにやってくれ」

「レイトンさんは、どうするんですか?」

「ぼくはしばらくこの街をうろついたら、ゆっくりイラインへ帰るよ」

「じゃあ、またイラインで会うかもしれませんね」

 僕も適当にイラインへ帰ろう。やはり僕の帰る街は、あそこだ。

 帰って自分の家でゆっくり寝たい。

「ヒヒヒ。次に会うのがイラインだと良いけどね」

「……なんですか、また」

 仕事は終わりと何度も言っておいて、今度は何だろうか。

「なんでも無いよ。じゃあ、また」

 そしてまた僕の疑問には答えず、踵を返した。


 しかし二三歩歩いてから、もう一度レイトンは振り返る。

「ああ、そうそう。ハクは適当に帰しておくから」

「あれ、勝手に帰れるんですか?」

「それなりに戦える騎獣だからね。特定の合図で貸し馬車屋に戻るのさ」

「便利ですね」

 片道だけ使うということも出来るのか。なるほど、返しに行かなくても済むのは簡単で良い。

 そう僕が感心していると、もう本当に用事は終わりらしい。短い挨拶をしてレイトンは姿を消した。





 二人残された小屋の前、レイトンとの別れの挨拶中に黙っていたテトラが、意を決したように口を開いた。

「あの!」

「え、ああ、はい」

 僕は面くらい、少し身構えてテトラの方を向く。

 テトラは服の裾を握りながら、そして目を逸らしながら言った。

「明日! 街を案内してあげるから、宿屋の前で待ってなさい!」

「ええと、わかりました。ありがとうございます」

 先程の話の続きか。

 明日明るいところを案内してくれると言うのであれば、ありがたい。僕は深く考えずに了承した。

 だが。

「どうせ同じ宿に泊まりますので、待ち合わせとか必要ないんじゃないですか?」

「雰囲気が違うのよ!」

 それを言うと何故か怒られたが、不快な感じはしない。何故か笑いが込み上げてきた。

 しかし派手に笑うとまた怒られそうなので我慢だ。


 どうせなら、先程のレイトンの言葉も一考しよう。

「じゃああと、今から夕ご飯一緒しましょうよ。まだ、僕食べてないの一杯あるんですよ」

 食べ歩きは中途半端に終わったのだ。

 まだいくつか、具体的には温めた牛乳のような匂いのドロッとした飲み物とか、パリパリとしてそうな薄焼きのパンだとか、色々と食べたかった物が残っている。

「し、仕方ないわね。付き合うわよ」

 それを出来るだけ多く食べたい。出来るだけ多くの種類を。


 快く了承してくれて、何よりだ。






「げ、限界……。もう無理、無理……」

「ええー? まだいけますって」


 深夜に近付く頃、僕らは終わり際の屋台街にいた。

 もう看板を仕舞っている店も多く、人ももう帰ってしまっている。

 だが、まだ食べられる店はある。

 二十程度並ぶ屋台を端から食べていって、まだ一番端まで到達していないのだ。ここで終わるのは中途半端だろう。

「あんたとお腹の容量を一緒にしないで……」

「まだ僕はもうちょっと入るんですけどね」


 色々な種類を食べたいと、テトラと分け合いつつ食べてきたが、男性と女性の胃の内容量を考えていなかった。その結果が、これだ。

 テトラは少し青い顔をして、時たまお腹をさすっている。

 まあ、これで満腹ならば仕方が無いだろう。

「あと四店舗……どうするかなぁ……」

「やめときなさいって……。あたしと同じくらい細いのに何処に入ってんのよ……」

 どうしようか悩んだが、これ以上テトラを付き合わせる訳にはいかない。

 忠告通り、今日はこれでやめておこうかな。





 宿屋へ向かう道中は、月もなく暗闇だった。

「うぅ……気持ち悪い……」

「なんか、すいません」

 付き合わせた僕のせいだが、テトラの体調が絶不調になっている。

 時折立ち止まり、俯く彼女の背中をさすりながら、僕らは宿へ歩き続けた。

「食べ過ぎに効く薬草とか持ってれば良かったんですが、あいにく持ち合わせがないんですよ」

「そこまで用意してたら、さすがに怒ってたわ……」

 凄むテトラの上目遣いも、力が無かった。



 歩いていると、意外な人物と行き違う。

「あ」

「……何?」

 僕が思わず上げた声に反応して周囲を窺うテトラを引き寄せ、民家の壁まで押しやる。

「ふぇえええ、ああああんた、何を!?」

「黙って。ヘレナさんが歩いてきてます」

 僕の腕の中で文句の叫びを上げながらも、力なく固まるテトラを黙らせる。

 道の奥、視力を強化しないと顔が見えない距離の所を、ヘレナが歩いている。曲がり角を曲がれば、町長の邸宅に向かう道となる。

「外に出たのね?」

「町長宅の方へ向かっていますね。レイトンさんの言葉を信じなかったのか、それとも確かめに行くのか……」

 どちらにせよ、これから町長の死を知るだろう。そこからが、テトラの仕事の始まりだ。

 彼女を励まし、街のために働かせる。方法については任せるが、きっと何とかなるだろう。


「明日から、よろしくお願いしますね」

「……頑張るわ。そうじゃなきゃ、あいつに殺されちゃうかもしれないしね」

 そう、それはヘレナ自身の命を守るためでもある。

 彼女が正しい判断をするのを望む。レイトンの言葉はそういうことだろう。


 そこで僕の思考が一瞬止まる。

 そうだ。そうじゃなかったらどうなるのだろう。

 彼女が(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)(,)、どうなるのだろうか。



「……え、ええっと……」

 咳払いをするように、腕の中のテトラが存在を主張する。

 そういえば、抱き寄せたような格好のままだった。

「あ、すいません。もうよかったですね。失礼しました」

「……あ……」

 僕が腕を放し離れると、テトラは短く声を上げて軽く手を動かした。

 文句でも言いたいけど言えない、そんな感じだろうか。気を遣わなくても良いのに。


「そういえば、気分、どうですか?」

「……今は平気」

 一言そう言って、テトラはそそくさと歩き出す。


 そしてそこから宿に帰るまで、会話らしい会話もしなかった。

 気を悪くさせただろうか。申し訳ない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想欄でテトラが14くらいでまだまだロリ系と判明して驚愕 勝手にいい感じのお姉さんをイメージしてたので年齢一桁の少年に抱き寄せられたくらいで初々しい乙女な反応に首を傾げてたけど納得 てか作中にキャラ…
[一言] 実際の年齢を………………いつ、知るのだろう………………(笑)
[一言] 8歳児にガチ恋するテトラさん、ド級のショタコン。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ