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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
いつか魔法使いになる君へ

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隣にいる人のために

 



 多くの文明の発達というものは、ある一つの発見から始まる。

 『火』の発見である。


 人類は『火』を扱う種族として発展してきた。

 文明の発達だけではない。それは人心をまとめるために。獣や気候変動、人を災害から守るために。新しいものを作り出すために。

 そしてそれは、聖教会も同様に。


 聖教会は『火』を扱う。

 人を守るために、人に仇なす()を狩るために。




「焼却を、中止してください」


 ここは王都の第一治療院。ソラリックにとっては勤務地ではないが通い慣れた治療院で、今まさに目の前にいる特等治療師はもはや見慣れた顔だった。

 避難民ではなく治療師たちの部屋。エンバーに向かい放たれたソラリックの言葉に、休憩を取っていた治療師たちがどよめいた。


 この有事だ。街中を安全に歩くことも困難で、治療師たちもそれは例外ではない。

 しかし護衛の僧兵を伴い現れたソラリックに火急の用を感じ、エンバーは休憩室に通したわけだが……。


「何故だ?」

 しかしその言葉が理解出来なかった。周囲の治療師たち数名もエンバーの言葉に頷く。

 今この街は病に負けて滅びようとしている。生者が倒れ、死者が歩き、獣の骸が這いずり回る。そんな災害を外へ広めぬために、一刻も早く焼かなければいけないのに。

 刻限は明日の朝。まだ半日以上はあることすらも、皆は納得がいっていない。避難が済めば即刻焼くべきだし、もうほとんど避難も完了したという知らせもあった。

 今すぐに、火をつけてもいいのに。

 けれども目の前の一等治療師は、何を考えているのだろうか。


 長机の端に座ったまま、その逆の端にいるソラリックをエンバーは睨む。

 これまで共に病と闘ってきた同志。下手な上等や高等の治療師よりも優れている彼女だから、と重用してきたが。


「あの病を、残さなければならないんです」


 けれど、重用してきたからこそ。

 気が触れてしまったのか、とすら思った。


「これを見てください」


 ソラリックは肩にかけた鞄から、一枚の紙を取り出す。

 はらりと置かれたその紙は、エンバーよりも離れた前で止まり、エンバーはそれを掴むために腕を伸ばした。

「これは?」

「以前調べていただいた、エウリューケ・ライノラットの研究論文の一覧です」

「エッ……!?」


 横で聞いていた高等治療師の一人が、言いかけて自ら口を塞いだ。

 その名を口にしてはいけない。聞いた耳が汚れた気がする。


 ソラリックが放った紙には、エウリューケの論文の題名。そして、いくつかに強調線が引かれていた。

 そこまでを確認し、エンバーは叱るように言う。

「……その名を口にすることを戒められよ」

「いいえ。今はその名前を口にすべきです」

 そして、頑として聞かない様子のソラリックに、溜息をついて紙へと目を戻した。

「それで?」

「たとえばそこにはこうあります。『特定瘴気による皮膚溶解作用の利用』と」

「…………」

「そして境界融解症の患者の皮膚は、易癒着性が見られる、というのは既に知らない者はいません」


「……ああ」

 エンバーは頷いた。それは確かに知っている。知らないはずがない。

 粘着性を帯びた皮膚は、他者の皮膚と容易に癒着する。そしてその前に既に、自分の皮膚との易癒着性も見られる。内皮も外皮も構わずくっつき、指がまとまり手が一枚の板状に変化するほどに。

 無論、そのせいで患者は死ぬ。体内の組織が全て癒着し、内臓組織が一塊の肉塊となり、いずれは生命活動が維持出来なくなる。境界融解症と名付けられたのはそういう病だ。

「そして、こういう報告もあるのはご存じでしょう。『境界融解症の患者は、傷が容易に接着される』などというものも」


 エンバーはまた頷く。

 その隣で高等治療師が感心するような声を僅かに上げたが、エンバーに睨まれて咳払いをして誤魔化した。


「その他、こういうものもあります。『認知の改変による病の予防』。『遺体衛生保全による遺族感情の保護』。そして、『死の克服』」

「……何が言いたい」


 エンバーはそこまで聞いて、ソラリックが何を言いたいのかわかった気がした。

 けれども認めるわけにはいかなかった。

 それを認めるわけにはいかない。今ソラリックに言われて、なんとなく胸に湧いたこの動揺と痛みを。


「『不死の首』と、私たちが病として扱っている症状があります。でも」

 ソラリックが机に両手をつく。

 彼女の顔に影が差す。まるで人を堕落に誘う魔の者のように。


「人の死を遠ざける、それは私たちにとって理想なのではないですか?」


 悍ましい、という感情が治療師たちの心に浮かぶ。

 皆の眉が顰められる。

 背もたれに背をつけたままの、エンバーとて。


「そこまでにしておけ。ソラリック一等治療師」

「いいえ」

「口を閉じろ」

「黙りません。黙るわけにはいきません」


 エンバーが机の上で、握り拳に一本だけ指を立てる。その人差し指が示す先は神の敵で、この世に存在を許されないという。

 ソラリックもそれは知っていて、そしてそれがまだ自分の方を向いておらずとも額が熱を感じるようにじわじわと痛んだ。


 それでも黙らない。彼女は、今ここで立ち向かうべきを知っている。

「きっかけは、私自身の覚え書きでした。末端崩壊症の対症療法に必要なこと。湿潤環境を作る。皮膚の過剰代謝を抑える。末端部に血液を循環させ、栄養を浸潤させる。そういうことをさせたらいい、と思って……」

 本当にただの思いつきを書いておいただけだ。覚えていても、念のため、と。

 だがそれを。

「それを、私は間違えたんです。いいえ、不死の首の病状報告を見て、私の覚え書きと混同してしまったんです」

 不死の首は、ソラリックが対症療法として求めているものそのものだった。

 悍ましきこと、治療すべきこととして皆が扱っている神の背く罪の病、不死の首が。


「……つまり、不死の首は……いいえ、私たちが新しい病だと思って扱っているこの災害は!」

「論理の飛躍だ」


「全部、治療法なんです! 未完成か……もしかしたら私たちには利用の手に余ってるだけで!!」


 ソラリックはここに来るまでに一つの実験をしている。

 昔々に大量出血の患者に羊の血液を注入する実験があったが、その際は失敗したということを踏まえて。

 灰血病患者の血液は、他の者の血液と混ぜても凝固しなかった。それが失敗の大きな原因と考えられていたのに。



 治療師たちがざわざわとどよめく。

 馬鹿なことを、と囁く者がいる。悍ましい、と眉を顰める者がいる。聞くに値しない、と部屋を出ていく者がいる。


 だがそれでもソラリックはまっすぐにエンバーを見つめた。

 この場にいる中で最も地位の高く、そしてたしかな決定権を持つ男を。



「つまり」

 エンバーが溜息をつく。

 机の上に置かれた拳は未だに指を立てており、未だに隠せぬ敵意があった。

 ソラリックとて感じる。戦場で捕虜の治療を頼んだときに、カラスから感じたものと同質のもの。

 あのときは怯んでしまった。でも今は違う。

「ソラリック一等治療師は、異端者エウリューケ・ライノラットが犯人だと考えているのだな?」

「いいえ。誰が犯人でも、私は構いません。ライノラット女史の研究が着想元になっただけで、これは全て私の考えです」

 手柄の横取りがしたいわけではない。今この場に満ちている自分への不信を押しつけたいわけでもない。


 高等治療師が叫ぶ。

「不信心! ソラリック一等治療師よ! 貴様、その名を口にするのがどれほどの罪かわかっているのか!!」

「何が罪ですか? 私は誰に何の罪で裁かれるのですか?」

「……貴様、教会の教えを」

「神は何も禁じてはいないのに!!」

 そして高等治療師に負けない声量で、ソラリックも。


「私たちは聖典に従い、律法に従いここまできた。そうですね、異端者たる彼らの名を呼ぶことすらも憚られるのは律法に従えばこそです」


 でも、とソラリックは叫ぶように続ける。

「神からの言葉とは!? 私たちに向けた神の言葉はどこにあるんですか!?」

「し、知らぬはずがあるまい」

「もちろん。ただ一つだけ。聖典の第一頁。『全ての祈りは隣人のために』! それだけです!!」


 それも定かではない、とソラリックは思う。

 初代教主〈御子〉が書いたものかもしれないし、それとも本当に神からの言葉を〈御子〉が記したものかもしれない。

 けれどもそのどちらであってもよくて、どちらであっても変わらない。


「神は何も禁じていません。禁忌を定めたのはかつての聖教会です。私たち人の子です」

「滅多なことを言うな。全ては聖人様や教主様らが預言されたもの。それはつまり神の言葉と同義である」

「私たち人の子は、間違えることがないというのですか!!」


 持ってきた包みの中から、ソラリックは一冊の本を取り出す。

 それもソラリックが写本したもの。聖教会に入り、最初に作ったもの。


「私たちは一言一句聖典を書き写します。自らの本を作り、それを心の指針とする。でも書き写すときに、一文字の間違いも無いのは不可能です。同じように」

「やめなさい」

「同じように、その預言を私たちが書き写す際に、間違っていないという保証は!? 今まで預言を受けたとされる方々が! 間違えていないという保証は!!?」


 間違いなどない、と言い切るのは簡単だ。

 ソラリックもそれを恐れつつ口にした。

 高等治療師がないと口にするならば二の矢はない、という賭け。目の前の高等治療師の良心に賭けた危うい賭け。

 だが高等治療師は自身の良心に従い言い淀み、そこにソラリックは勝機を見た。


「聖典に載っているのは神の言葉ではありません、人の行いです! 尊敬すべき彼らはそれぞれが、きっと自分が出来ることを精一杯やってきた! その結果を異端、間違い、悪徳として、削除されていても!!」


 それはそれこそ〈大妖精〉アリエルの行いですらも。

 善いか悪いか判断するのは後の世で、今ではないのだ。


「……私は神の確かな言葉に従います。私は神を信じ、隣人のために祈る」


 そして、思っていたこと。

 祈れというのはそうだろう。けれどもその内容を神は記してなどいない。

 定めているのは『誰のために祈るか』。

 隣人のために祈る。過去の万人ではなく、未来の千人ではなく、今目の前にいる一人のために。

 神が救うのではない。私たちが救うのだ。


「私は私の意思で人を救います。そのために治療師になった!!」

 何を祈るのかは私が決める。

 私は人を助けたい。神ではなく私の意思で。


「それで異端に染まろうということか……」


 ぴり、と空気が震えた。

 ソラリックの頬に冷や汗が垂れる。

 エンバーの指先がソラリックを向く。死の宣告。異端の宣告。彼にとってそれは、この世に存在することを許さないということ。

 ソラリックは目の前に灰が舞った気がした。その灰が自らの前髪が変じたものと感じ、引きつるように手を握った。



「ライノラット女史の追放理由はわかりませんし、だから彼女個人を庇う気はありません。でも彼女が人を救おうとしたことは絶対に間違いじゃないはずです」

「…………」

 見ていた治療師たちが、皆無意識に一歩下がる。これから目の前で起こる惨劇を予想して。

「私だって、……、私は〈大妖精〉アリエル様のご子息と共に、禁忌に手を染めた疑惑がありました。戦場で気絶されている女性を覚醒させたことで」

 思い出すのはテレーズ・タレーランを《蘇生》したこと。あの時はカラスが、彼だけが手を下したとしても。

 もう、彼に押しつけることも出来ない。

「ご子息が、私たちが彼女を《蘇生》させたのだと誤解を受けました」

 それが罪なら、もうそれは彼だけの罪じゃない。私もその罪を被りたい。

「でももしそれが本当だとしても、それの何が悪いんですか? 私は治療師です。人を救うために知恵を絞って、神はそれを罰するのでしょうか?」

 もしも出来るならば、私はそれをやっただろう。今の自分が無辜なのは、あの日カラスが代わりにやってくれたから。私はそれに甘えてはいけない。


「彼女の言葉を無視するように、私も口を塞がれますか?」

「……お前も確固たる神の像を持っていたと思っていたのだが」


 エンバーは目を細める。

 最後の情ともいうべきものだった。今目の前の女は堕落した。エウリューケ・ライノラットの魔性に堕ちてしまった。友と同じように。

 それでも昨日まで共に戦った神の徒として、信じていたのに。


「罪というなら私は、彼女の言葉を、研究を無視することが罪だと思います。彼女の研究論文はもちろんどれも読んだことはありません。でも、もしも『この災害』が彼女の手によって、彼女の研究の結果起きたことなら」

「もういい」

「彼女の研究を、特等治療師様は『二十年遅れてる』と評しました。つまり私たちは彼女の二十年前に追いつけていません。たとえば彼女の主要研究は、おそらく妊娠、出産に関わる分野で」

「もういいと言っている」

「彼女を無視した結果、教会の助産技術は遅れてしまっているのでしょう。それこそ二十年は!!」

「やめろ」

「妊娠中! 出産! 産後! 亡くなる母子は未だどれほどいると思っているんですか! 私たちはこの二十年、彼らを何人救い損ねたんですか!!」

「やめろ!!」


 エンバーは腕と、指を伸ばした。

 今机越しに自分に怒号に近いものを放ったソラリックに向けて。

 神の敵に対して。神に背く悍ましい理を説いた反逆の徒として。



 だが震える指の先にいる人間には、何の解れもなく。

 その事実に、エンバーは愕然とした。認めるしかない。それが神の御心なのだと力なく腕を落とした。



 自身の身に何も起こらなかった。

 ソラリックはそれを読み取り、へたり込むように息を吐く。

 けれどもまだ言いたいことはある。言わなければいけないことがある。そう感じ、机に縋り付くように姿勢を正した。


「お願いします。時間をください。せめて焼却の延期を」

「…………」


 背もたれに背をつけたまま、目を伏せたエンバーにソラリックは嘆願する。

 あとはそれだけだ。それだけを望めば、あとは言うことはない。異端審問でも何でもかけられよう。ソラリックはそう覚悟しつつ、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「仮にエウリューケ・ライノラットが関わっていなくとも、この病群は未知の技術の塊です。私は一つでも解明して、一つでも後の役に立てたい。ここで全てを炎でなかったことにすれば、また次もやり直さなければいけなくなる。私たちはこの暗い隧道を、後ろ向きに歩くことになる」


「……責任は取れるのか?」


 エンバーではない。横にいた高等治療師がソラリックに尋ねた。

 彼もこの場での空気が変わったのはわかっていた。

 だが彼としても負けられない。今この病……治療技術群は拡大の一途を辿っている。今すぐにでも街を焼かなければいけない上に、王城に協力を仰ぎ騎士団まで動いているのだ。

 仮に何かを得られればいい、とまでも言わない。

 だがたとえば、延期することにより得るものがなければどうなる。多くの人間が動いている。多くの人間に被害が拡大する恐れがある。

 それを背負えるのか。


 睨むように言われた言葉に、ソラリックは何故だか可笑しくなった。

 もちろん、責任は取るつもりだ。この後異端審問にかけられ八つ裂きにされても構わないし、責め苦を受けようとも構わない。この小さな身で取れるのならば、いくらでも。

 だがそれならば、目の前の地位ある治療師は。


「それは私のでしょうか。それとも、貴方がたの?」


 嘲るように、苦笑するようにソラリックは言った。その感情をどうにかして隠そうとして、それでも滲み出てしまった。

 受け取った高等治療師は、それを『余裕』と解釈したが。

「どういうことだ?」

「街を焼くことによって患者は死にます。ここで千人を殺して終わらせて、後の世で万の人間を救えない責任は?」


 何を馬鹿な、と高等治療師は言おうとして口に詰まった。

 先ほどまでの言葉。その延長にあると読み取って。



「……、ではお前なら」

 口を閉ざした高等治療師に変わり、エンバーが口を開く。

 目だけを伏せて、机に視線を向けながら。どこか泣きそうで、眠そうにすらも見える目のままで。

「お前なら後の世で万人を救えると?」



 さすがに鋭い切り返しだ、とソラリックはどこかエンバーを褒めた。

 返答をしようとして喉に何かが詰まる。また汗がこめかみを垂れる。

 けれども黙るわけにはいかない。それが私の責任だ。


「わかりません」


 元気よく、明朗にそうソラリックは言い放つ。

 笑おうとして笑えなかった。頬の端が引きつった。


「でも目の前の人間一人を見捨ててしまえば、私はきっと万人なんて救えない」


 だから、焼かせるわけにはいかない。まだ救える人間たちを。

 ソラリックは持ってきた鞄を机に置く。

 どさりと音を立てたのは、午前中に取り急ぎ行った『病魔災害』の治療転用の予備実験の記録。


「まだ試せていないことがあるんです」


 まずほしいのは時間。それから人手。

 ここにいる全員にも手伝ってもらいたい。

 諦めるのは、出来ることがなくなってからだ。





 聖教会は『火』を扱う。

 人を守るために、人に仇なす()を狩るために。


 初代教主〈御子〉は優しい人間だった。

 誰の苦しみも許せず手を差し伸べ、誰の理不尽にも憤り、誰の楽しさでも嬉しく共に喜ぶ。

 聖教会は、そんな彼の元に集った者の子供たち。

 彼の『火』に魅せられて、人を救いたいと願った者の子供たち。


 初代教主は願った。

 誰かを救うために。男でも女でも老人でも子供でも区別なく、ただ隣人のために祈る。

 きっと隣人のために祈れば、隣人はまた更に隣人に祈ってくれるだろう。

 まるで火が広がるように。

 そうすればきっといつかは皆が救われる。


 誰かのための祈り。

 目の前の人に手を差し伸べるというとても難しく尊い行為。


 それがまるで火が燃え広がるように、誰かの心に灯り続ければ。

 その火は永久に消えることなく、どこかで誰かを救い続けるだろう。




「どうでしょうか」

 ソラリックは確信を持ってエンバーを見つめる。

 大丈夫、きっと目の前の治療師ならばわかってくれる。そう信じて。


 エンバーは溜息をつく。

 脳裏によぎるのは、昔にエウリューケ・ライノラットに関わり、自刃した友の言葉。

 『真実に背く真理などない』。

 そしてもはや自分が指さそうとも、目の前の治療師の髪の先一つ損なえることないという真実。


 首を逸らして大きく息を吐いて、エンバーは決意する。

 目を閉じた先に光がある。神の御心は今、そこにあるのだと。


「三日、延期の打診をする。それまでに何かしらの成果を上げる」


 こちらから呼びかけておいて、どうなることやら。 

 そうは思いつつも、エンバーも少しだけ胸が高鳴る。


「関わった者は、今後教会にいられないかもしれない。だから関わりたくない者は関わらなくていい。すまないが今すぐこの部屋を出てくれ。だが、もしも何かの成果が出せたのならば、それを以て皆を俺は……」


 ふと、エンバーが目を開けて周囲を見る。

 皆の視線を感じて。

 視線自体は先ほどからあった。けれどもその視線の種類がはっきりと読み取れずに。


 そして肉眼で見て、なんとなく不思議に思った。

 皆の視線に熱を感じて。

 なんだ? と言外に見回しても、逆に全員が自分の言葉を待っている。


 誰一人、部屋を出ない。出ていかない。



「……やるか」


 まずは方針の決定から。

 エンバーの言葉に、皆が静かに頷く。


 火はこれから広がり続ける。

 初代教主が願った火が。

 その『火』を灯した張本人のソラリックは、威勢よく今日半日で行った研究の資料を机に投げ出すように広げ始めた。




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― 新着の感想 ―
ソラリック、立派になったなぁ...
[一言] すっかり終わってスッキリしてる主人公。 ソラリックが知ったらブチ切れそう。手伝えやって。 病魔を退ける結界とか出来るんだし焼いたら普通に収束しそうな気がするけどしないのかなぁ。いやもう意味無…
2024/08/16 12:17 通りすがり
[気になる点] エンバーの指は自分に疚しい心があるとザクッとやる類のっぽそう。 [一言] なるほど。 一人じゃ、よっぽどの何かがないと追いつけないだろうなぁ。と思ってたけど、予算と人がいるなら一気に進…
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