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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
悪徳の街クラリセン

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鳴らされた鈴

 



 夕日が沈む頃、僕らはクラリセンに到着した。

「流石に……きつい……」

「ま、ほとんど走り通しだったからね。お疲れ様」 

 僕が肩で息をしているのに、レイトンはまだ余裕そうだ。羨ましい。

「私だけ楽したみたいで悪いわね」

 テトラはそう言うが、テトラが魔術を使ったとしても一日でここまで来るのは無理だろう。

 だから仕方ないのだが……疲れた……。



「さて、宿を探そうか。どこか、心当たりとかあるかい?」

「私の使っていた家……はもう接収されちゃってるだろうし……普通の宿屋ならいくつかあるわ。でも……」

「ああ、キミの顔が知れ渡るのは気にしないで良い。むしろ、知らせてやった方がいいね。ここに帰ってきたと伝わった方が楽だ」

 テトラが言い切る前に、レイトンが断言する。

 話からすると、お尋ね者に近い立場のテトラが、人の多い場所に行くことを気にしているのだろう。

 レイトンは気にしないで良いとは言うが……、まあ、僕は警戒しておこう。


「じゃあ一番近いところに案内してもらいましょう」

 それよりも、宿泊場所を早く決めて欲しい。早く休みたい。

「そうだね、頼むよ」

「はいはい、予算とかはいいわね。ええと……一番近いといったら……」

 僕とレイトンの要望に、テトラはすんなりと応えてくれた。

 悩むほどに宿がある。それは栄えている街の証だ。


 テトラに案内されて着いた宿は、二階建ての立派なものだった。




 受付に宿泊したい旨を伝えると、レイトンは不意に振り向いて僕らに尋ねた。

「二部屋で良いよね?」

 個人ごとにはとらず、男性部屋と女性部屋に分けると言うことだろう。

 僕が了承の言葉を上げようとしたところ、テトラが声を上げた。


「な、なな、何言ってんのよ!? あんた、年頃の女性と男を一緒に……」

「いや、別にするんだけど」

 レイトンに発言を止められ、口をポカンと開けたテトラの顔が、みるみる真っ赤になっていく。

「……わかってるわよ!」

「ヒヒ。ぼくは別に一人部屋でもいいんだけどね」

「仲よさそうな会話も結構ですけど、早く入りましょうよ」

 そう僕が溜め息交じりに呟く。それを聞いて、レイトンは苦笑しながら手続きを終えた。



 部屋に入り荷物を置くと、もう夕飯の時間だ。

 この宿では夕食の時間になると食堂が開き、希望した客に食事が振る舞われるそうだ。

「美味しいですね、これ」

 一つの器に、ドンと料理が盛られている。煮込み料理らしく、スープごと食べるようになっているがメインは鶏肉……かな? 蛙に似ている気もするけど……。

「鳩の煮込みね。この店の名物、らしいわ」

「ふうん、でもこれ、香辛料が効きすぎじゃないかな」


 そう、結構辛いのだ。胡椒の他、唐辛子のような辛みが多く使われ、ピリ辛どころではない。

 僕の額にも汗が浮かぶ。


「香辛料って結構高価ですよね? なんか贅沢」

「ムジカルの方ではよく使われているけど、確かにエッセンの方でこれだけ派手に使ってる料理はそうそう無いね」

 使われていないわけではないが、塩や砂糖以外の香り付けの物はふんだんに使えるほど出回っていない。

 僕が石ころ屋に卸していた中には香草もいくつかあったが、それでも高価な物だった。

「……儲かっているんでしょうか?」

「景気は良さそうだね」


 宿泊客がそれほど多いのだろうか。

 たしかに周りを見れば、二十席ほどの食堂がほぼ満員だ。食べに来ていない客も含めれば、もっといるだろう。

 観光客……ではないな。

 見た目からして、恰幅のいい身なりのそれなりに綺麗な人が多い。それが、屈強な男性を帯同して食事しているのがあちこちに見られる。

 屈強な男性や鍛えていそうな女性のみで食べている集団もいる。


 この組み合わせは、昔見たことがある。

 商人と、その護衛達、だろうか。身なりの綺麗な人がいないところは、護衛達のみでの食事なのだろう。


 横目で辺りを見ながら、食事を終えた。

「ごちそうさまでした。美味しかったー」

「……まあ、なんでも美味しそうに食べるのはいいこと……よね?」

 僕の言葉を聞いて、小声でテトラがそう言うのが聞こえた。

 何のことかわからないが、独り言だろう。



「さて、明日から頑張りましょう」

「そうね。私はカラスさんと私兵に当たる、でいいのよね?」


 テトラが尋ねると、レイトンは微笑みながら言った。

「その前に、明日ヘレナ嬢を紹介して貰っていいかな。どこにいるかすら知らないし、知り合いから紹介してもらわないと話もしづらいだろう」

「わかった。明日案内する。とりあえず、あの子は街はずれの森の中で暮らしているわ」

「魔物もそこに?」

「多分」

 テトラは自信なさげに答える。

「森への調査とか、人が大勢立ち入るときにこれ見よがしに歩かせるだけだから、普段は自由行動させていることも多いらしいのよね」

「それでも、使役は出来るんですね」

 長時間離していても、魔法の効果は持続するのか。恐らく、街には入らないように言い含められてるのだろう。



「夕餉も終わりだ。今日は早く休もう。明日は朝から仕事に励むんだ、休まないと動けないよ?」

「そうしましょうか」

 レイトンの声に、僕とテトラは従う。

「じゃあ、行きましょうよ」

「ヘドロン嬢は上に戻っていてくれ。ぼくは……いや、ぼくとカラス君は食器を片付けていくよ」

「ああ、ごめんね? 自分で片付けるわ」

「いや、キミは早いところ上に行ってくれ。少しやることがあるんだ」

「えっと、ありがとう?」



 テトラが怪訝そうな顔で、振り返りながら部屋に向かったのを確認して、レイトンはやや大きな声で僕に言った。


「明日は、トレンチワームの討伐だからね、キミも早く休みなよ!」

「え?」

 突然の声に、僕は一瞬戸惑った。

 いきなりレイトンは何を言い出すのだろうか。


 そう思ったが、食堂に流れた空気の変化で、僕も気がついた。


 隅のテーブル、そこで酒を飲んでいる男女の様子が変わった。先程までの談笑はそのままに、視線が固定されている。聞き耳を立てているのだ。


「そうですね。テトラさんの要望通り、早く倒さないといけません。お互いに頑張りましょう!」

 レイトンの言葉に、僕も乗る。

 大きな声だが、皆が談笑する食堂からするとそう目立つわけではない。しかし、僕が言葉を発した段階で、男女がぴくりと反応したように見えた。

 間違いない。私兵か、その関係者だ。



 しかし、今までテトラがここにいたにも関わらず、反応しなかったのはどういうわけだろうか。

 片付けを続ける。

 目配せをし、適当な会話をしながら僕とレイトンは借りた部屋へと辿り着いた。




「先程の男女は、いったい何だったんです?」

「キミも気がついていたじゃないか。町長の鈴だよ」

 鈴。それはおそらく、宿を使っている人間、つまり街への訪問者の監視係だろう。

「テトラさんの方には反応しないで、僕らが討伐しに来たといった途端に注目してきましたが……」

「連れているぼくらの役割がわからなかったんだろうね。上司に報告してからじゃないと動けない。自分たちで判断出来ないほどの下っ端さ」


 なるほど。では今、その報告をしに行っている最中だろうか。


 ならば、それはつまり。

「ああ、わかりました。じゃあ、僕は今日外で寝た方がいいですかね?」

「どっちでも構わないよ。くじでも引くかい?」

「いえ。外は慣れてますので、僕が行きますよ」

「ヒヒ、それじゃあよろしく」

 そう言い、レイトンはベッドに腰掛けて、力を抜いて倒れ込んだ。

 任された役割。これは、信用されていると思っていいのだろうか? 



 さて、実際は何処で寝よう。

 屋根の上とかで寝ていてもいいだろうか。

 大丈夫だろう。きっとバレない。


 そう一人納得し、灯りを消した後、そっと外へ向かった。



 屋根の上は静かだ。少し固いが、体を預けるとそれでもジワジワと疲れが抜けていく気がする。

 自然と深い息が漏れる。

 月が綺麗だ。その明りに照らされて、流れていく雲がハッキリと見えた。

 瞼を閉じると、意識がなくなっていくのがよくわかる。


 そう時間もかからずに、僕は眠りの世界へと落ちていった。





 夜半、侵入者の気配で目が覚めた。


 起き上がってそちらを見ると、裏口から堂々と入ろうとしている影がある。

 ドアを開け、軋む廊下を静かに歩く音。見られているというのにも気がつかず、男は悠々と部屋を物色する。

 油断しているのか、声まで聞こえてきた。


「ここに、テトラ・ヘドロンと探索者二人が泊まっている。へへっ、だからこの仕事はやめらんねえ。三人殺すだけで大金が入るんだ」


 もう充分だ。確認が取れた。

 こいつは、僕らを始末しに来た。それだけで充分だ。



 窓から廊下へ滑り込み、男の前に歩み寄る。

「こんばんは」

 そう声を掛けると、男は驚いたようで、咄嗟に腰の得物に手を掛けた。

「……おう、ガキはもう寝る時間だぜ? 早く部屋に戻って、俺のことは忘れてグースカ寝ろよ」

「ええ」

 堪えきれず、欠伸混じりに僕は言った。

「寝ていたんですけど……僕に用事があるようなので」


「お前……!? そうか! 報告にあったヘドロンの連れのガキ!」

「ええ、よろしくお願いしまーす。…………勢いできてみたけどどうしようかな? 眠らせても面倒そうだし……殺してもなあ……」

「強がりか? 不運だな、気持ちよく寝ていれば、そのまま夢見るように死ねたのになぁ!」

 僕の言葉を強がりと判断出来るほど強いのだろうか?

 少し見てみたくもなったが、ここでテトラやレイトンの所へ迷惑を掛けるわけにはいかない。


 早々に寝てもらおう。






「おはようございます」

「おはよう。その様子だと、一人だけだったかな?」

「ええ。もっと……多く来てくれるとありがたかったんですけど……」

 寝ぼけ眼を擦りながら、僕は何とか受け答えをする。

「まだまだ見くびられているのさ。でも、どうだった?」

「どうだった、とは」

「一人で来たけど、それでぼくらを始末出来ると向こうは思ったはずなんだよ。だから、その強さを知りたいね」

 僕はその言葉を聞いて、昨夜を思い出す。

 ええとたしか……。


「僕の動きに反応も出来ず、一発顎に入れたら動かなくなったんで、イラインの衛兵達と同じようなものじゃないでしょうか」

「ヒヒヒ、そうか。……本当に、見くびられてるなぁ……」

 レイトンの笑顔が消える。

 目を細め、虚空を見つめるレイトンは、怒っているようにも見えた。


 しかし、同感だ。だから、今回の事件中に、考えを変えてくれることを祈る。

「じゃあ、行きましょうか。テトラさんも待ってますし」

 ヘレナさんとの接見をして、それから私兵達の処遇を考える。


 不謹慎だが、僕は少しワクワクしていた。





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