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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
悪徳の街クラリセン

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打開策への誘導

 



 森の中を伸びる街道を、僕らは疾走する。テトラの乗っているハクに合わせているから余裕はあるが、それでもかなりの速度になっている。

 木々の流れが速い。

 道のりも一応予定通りだ。

 たまに山の中を通ってはいるが、これは町や村を避けるためだ。概ね街道に沿っている。



 二つの村を越えた後、レイトンは突然語り出した。

 風切り音が邪魔だが、聴覚を強化し続ければ僕とレイトンは意思疎通が可能だ。


「それで、街道を通る利点が何かはわかるかな?」

「利点、ですか?」

 いきなり何故そんな話題が上がるのだろうか。

 周囲は見渡す限りの鬱蒼とした森で、踏み固められた土は硬く締まっている。代わり映えのない景色の中、退屈紛れの話だろうか。

「何と比べての利点でしょうか」

「そうだねえ。何もない山の中を通るのと比べて、かな」


 ニヤニヤと笑いながら、レイトンはこちらを見ず、前だけ見ている。

 鯉口を切るように、剣に手を掛けているのがやけに気になった。


「歩きやすい、というのがまず利点でしょう」

 たまに木の根が張り出したりはしているものの、基本的には足を引っかけるような所もなく、凹凸のないなだらかな道だ。

「キミがそういう口実でここを走らせているのは間違っていない。だけど、それだけじゃあない」

「他にも理由が?」

「キミは、今テトラ嬢が置かれている状況を覚えているかな?」

「街の裏切り者ってことでしょうか」

 クラリセンの裏切り者としてイラインを訪れ、今現在はクラリセンへ舞い戻る途中の密告者。そして、暗殺者が多数送り込まれている。密告者としては当然の扱いだろう。

「そう、狙われている立場なんだよ」


 ふいに、レイトンは足下の小石を蹴り上げ、もう一度蹴って前方の茂みに撃ち込んだ。

 まだ遠く、前方百メートル程の距離にある小さな茂みだ。


「何を」

「ほら。その問いは、時間切れだ」


 レイトンの意図を尋ねようとしたところで、レイトンは前方を顎で示す。


 腕を押さえた革服の男が、一人転がり出てきていた。



 よろよろと出てきた男の腕は折れているらしい。まさか、先程の石か。

 かなりの距離はあったが、高速で疾走している僕らは、すぐにその男の前まで辿り着く。


「ね、ねえ、どうする」

「このまま直進だよ」 


 焦り叫ぶテトラの言葉が最後まで言い終わらぬうちに、レイトンがハクに指示を出す。

 そんなにも賢いのか、ハクはその言葉に一声鳴いて応え、より脚に力を込めたように見えた。


 男と僕らの交差。

 何事もなく通り過ぎた僕が後ろを振り返ると、そこにはドサリと倒れる男と、男についていたであろう、首が転がっていた。




 疑問符が僕の頭の上を飛ぶ。

 その様子を見て、レイトンはクツクツと笑っていた。

「今のも、テトラさんを狙って……?」

「そうだよ。その様子だと、グスタフは全て言わなかったようだね。街道を通ることについて」

「暗殺者への対処が簡単……みたいなかんじでしょうか?」

 もはやレイトンの手は剣の柄に掛けられていない。

「そう、それも利点の一つ、ということかな。山の中と比べて、人の手が入っている街道は隠れる場所が限定される。観察していればある程度、襲撃が予測出来るのさ。勿論、こちらの通行も予測されやすいんだけど」


 ……簡単に言ってくれる。

 魔力を使って探査しながらであれば僕も出来るだろうが、まだ百メートル近い距離の茂みに隠れている敵を発見するなど尋常なことではない。闘気のみを使いつつ注意を払うというのであれば、僕は、自信を持って「出来る」とは言えない。



 しかし、それよりも重大なことをレイトンは言っていた。

「……いつから、グスタフさんに聞いたと気付いていました?」

「いつから、というか手出ししてくることは予測していたからね。だけどキミがとった行動のうち、今のところ疑えるのはそこだけだ。ならば、もうそこしかない」


「……そうですか」

 ただルート変更を提案しただけでそこまで察する洞察力に、僕はただただ感心する。

 やはり、この男は侮れない。


「過保護にも程があるよねえ。今は石ころ屋とも関係ないだろうに、わざわざ助言をくれるなんて」

「そうですかね? 僕としては、助言よりも答えがほしいです」

 ニクスキーさんにも言ったが、切実にそう思う。

「ヒヒヒ。まあ、頑張って意味を考えなよ」


 ルート変更の進言を、グスタフさんからの入れ知恵だと隠すことは出来なかった。

 しかし、大した問題はなさそうだ。

 レイトンはグスタフさんの干渉をもう織り込み済みだ。ならばきっと、グスタフさんはここでレイトンが気付くことも織り込み済みなのだろう。


 ……つまり、全てグスタフさんとレイトンの掌の上なのだ。

 それを考えると、少し、胸の奥がざわついた。




 だが、それはつまりチャンスでもある。

 グスタフさんが、襲撃対策のためだけに街道を通らせるとは考えられない。

 だから、レイトンが気付いたこの状況こそ、グスタフさんからのメッセージと考えても良いのだ。


「ああ。ぼくに気付かせたのは単なる牽制だと思うよ。それよりも、指示を受け取ったキミがどう思うか、が重要なんじゃないかな」

 僕の思考を読んだように、レイトンは僕にアドバイスする。

 ……まったく、この人は何手先まで見ているんだろうか。


「それよりも、だ。もう道程の半分近くまで来ている。考えはまとまったかな? 時間切れはもうすぐだよ」

「ああもう! まだですよ!」

 思わず声を荒げてしまう。

 ハクの上のテトラも、その声に驚いたようでこちらを見た。

 そして意味を理解すると、縋るようにもう一度こちらを見つめ直した。

 泣きそうな目で見られても困る。昨日の話し合いでも、一晩考えても、もはや大した案は出なかったのだ。お互いに、もはや考えつくした感がある。


 まだ時間はある。

 だがテトラも半ば諦めているのだろう。

 ここまでの道のりの中でも、目の光は消えており俯いて黙ったままだ。




「もう、報酬を払うので、ヘレナさんの救助とか依頼出来ませんかね?」

 口をついて出た言葉。最初期に出て、無理だろうと即座に判断した案だ。


 金貨による、レイトンの買収。

 レイトンの受けた依頼は「魔物の退治」で、魔物使いは含まれていない。ヘレナさんを殺害するのは、レイトンの個人的な用件だ。

 だから通らないとは思っていたが、とりあえず何でも言ってみるべきだろう。


 つまらなそうに無視をすると思ったが、レイトンは意外にも楽しそうに笑った。

「ククク。ぼくを報酬で釣って何とかしようって?」

「まあ、無理だとはわかってますけどね」

 僕がプイと顔を逸らすと、レイトンは笑い声を含みながら、取りなすように言葉を吐いた。

「いやいや、続けなよ。方向性は間違ってないからさ」

「え?」



 レイトンの買収が間違っていない?

 もしかして、金額によっては買収出来るのか? いや、そんな簡単な問題とは考えづらい。


「……参考までに、いくらあれば気が変わります?」

「ヒヒヒ、変わるわけがないじゃん」

 当たり前のように、僕の質問は切って捨てられた。

 ならば、どういうことだ?

 方向性は間違っていない? 買収ではない、他の要素?



「そうだねえ。グスタフからの助言があったんだから、ぼくからも一つ、あげようか」

「本当にもう、断片的な指示はやめて欲しいんですが」

 本心だ。

「ヒヒヒ、そう言うなよ。考え続けなければ、人間は成長しないよ」

「それはそうですが、……時と場所を選んでほしいです……」

 指導なら後で聞くから、もっとゆっくりとした場所でやってほしい。


 僕は、足に引っかかった木の根を引き千切りながらそう思った。



「それはまあ諦めることだね。さてキミの、いや、ヘドロン嬢の目的は何かな?」

「脱税の是正……」

 口に出してから、頭の中で否定する。そうじゃない。

 きっと彼女の目的は、最初から決まっていた。

「ではなく、ヘレナさんの救出です……」

「へえ、よくわかってるじゃないか。じゃあ、ヘレナ嬢の想定される未来は何だ?」

「貴方に、殺されることです」


 言いながら、レイトンを出来る限りの怒気を篭めて睨み付けてやる。

 それを柳のように受け流しながら、レイトンは微笑んだ。

「そこまでわかっているならば、残りは材料を揃えるだけだね。あとは発想の転換も必要だけど」

「材料……ですか?」

 揃えるだけ、ということはまだそれを僕は持っていない。少なくとも、レイトンはそう判断している。

 そしておそらく、今から手に入るもの。ただし木の実や素材のような物ではない……と思う。


 つまり、何か足りない情報があるのか。もしくは、考えていない情報。

 そこから、打開策を導き出せる。そうレイトンは言っているのだ。


 溜め息が零れる。

「……じゃあ、まだ時間はかかりそうですね」

「ヒヒヒ。まあ、まだその時間はあるんだ。頑張るんだね」

 そう言うとレイトンはまた黙ってしまった。楽しそうな笑みを浮かべて。




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― 新着の感想 ―
なんだろうなぁ、緊迫感があるようで全く感じない 根底にあるのがヘレナというまだ出てきてもいないキャラの命なので、はっきり言ってレイトンとのやり取りもただ退屈。これが最初の村のフラウとかなら主人公なんと…
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