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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
神聖にして侵せぬもの

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すっきり

目まぐるしく変わる視点。次の閑話で一連の騒動ほぼ終わりです。




 ここからはルルはクロード帯同の下勇者の捜索へ向かい、僕は別室で待機。

 それがミルラ王女から言い渡された処置だった。

 別室というのも、僕が既に与えられているルルの部屋の使用人区画ではなく、別の部屋らしい。……厳重なことだ。僕一人がそんなに邪魔だと思うのだろうか。

 

 突然現れたミルラ王女による唐突な指示。それに異を唱えることも許さないような高圧的な態度。

 少しばかり腹が立って、僕は跪いたまま拳を握りしめた。

 地位はあるのだろう。仮にも王族だ。下々の者たちは彼女の言葉に逆らえるべくもなく、まあ僕や無冠のルルに何事かを命令するだけの地位はあるのだろう。

 勇者の接遇は彼女の任務。それを王から任されている以上、それに関わる命令ならば王の命令といってもまあいいのかもしれない。僕はその辺りの機微に疎いが。

 

 しかし、それでも。

 仮にそうであっても。

 まるで自らが王だといわんばかりで、そして有無を言わさぬその態度に、なんとも思わずに従えるほど僕は『人間』が出来ていない。


 それに、ルルが了承したとはいえ、各家が雇った使用人の行動を制限するなどというのは、越権行為ではないだろうかとすら今でも納得は出来ない。

 もちろん、これで彼女を殺すなど、そういう事をする気はない。仮にも彼女は王族で、そして平民以下の僕に対して行っているこれを裁く法などこの国には存在しない。

 彼女は悪いことなど何もしていないし、僕に対して何かしらの被害を与えたわけでもない。悪くは思うが、本来ならば憎む道理など何もないのだろう。

 しかし、何かしたい。ただ頷くだけではなく、何かが。



「……ミルラ王女殿下」

 ミルラのいい気分に水を差すように、ルルが静かに口を開く。ミルラはその声にも、「なにかしら?」と不敵に応えていたが。

 ルルが、一度唇を結んでからまた口を開く。目は伏せたままで。

「王女殿下は、勇者様が失踪なさることをもしやご存じだったのでは?」

「…………」

 ルルの言葉に、一瞬ミルラは黙る。しかしその次の瞬間、噴き出すように唇を綻ばせた。

「何を根拠に。そんなはずありませんわ」

 そしてルルは、ミルラの言葉を聞いて、ほんのわずかに目を開いていた。

「……そう、ですか」


 沈んだ声。それに、一瞬の驚き。

 そんなルルの態度に、僕は気づく。そして、ああ、と内心納得した。

 なるほど。彼女か。


「大任を任されたといって、気を大きくはなさらないことね。私は寛大ですから、その程度聞き流して差し上げますが」

「失礼を申し上げました。ミルラ王女殿下」

「よろしい」

 頭を下げたルルに気をよくしたように、ミルラはそれきり視線を切り、クロードを見る。

「さあ、時は一刻を争います。捜索に、速やかに当たりなさい」

「御意」

「アミネー、探索者カラスをひとまずの居室へご案内して。マアムはその間私につくこと」

「は、はい!!」


 マアムが慌てるように立ち上がり、ミルラの後ろに下がる。そして代わりに、とミルラに今までついていたアミネーが僕を見て手だけで行き先を指し示した。

「カラス様」

 歩き出すべく立ち上がった僕に向けて、視線を向けずにルルが呟くように声をかけてくる。

「はい」

「……申し訳ありません。しばらく不自由をかけますが、私もオギノ様ご帰還に尽力しますので」

「…………いえ。私のことはお気になさらず」

 勇者が帰ってくれば僕の蟄居……いってしまえば軟禁は解かれる。だから待っていろ、という言葉。

 ありがたい話だし、そうしてくれると助かる。けれども、何でだろうか、僕は素直に頷くことが出来ない。ミルラ王女のためにもなること、と考えてしまえば。

 もう一度ミルラ王女を視界の端で見れば、髪の毛が逆立つ感覚がある。怖気だつ、というわけでもなさそうだが。

 なるほど。

 僕は自分の中だけで納得し、頷く。

 僕は嫌いなのだ。ミルラ王女が。この国に対する感情と同じく。



 こちらへ、とまたアミネーに促され僕は歩き出す。

 すれ違う瞬間に、ルルがまた何かを言おうと口を動かした。


 けれどもその口からは何も言葉が出ない。視線すら交わらないルルの言わんとしていること、それが僕にはわからなかった。


「あとはオトフシに」

「……はい」


 代わりに僕が呟く言葉には、力なく了承の言葉が返ってくる。僕の蟄居は命じられたが、オトフシの帯同までは禁じられていない。そんな苦し紛れのミルラへの小さな反抗。

 それすらも嘲笑うように、ミルラは僕たちを見て声を出さずに頬をつり上げていた。





「こちらです」

 どうも、という言葉すらかけずに、僕はアミネーに示された部屋へと踏み入る。

 来客用の控えの間、といった風情の部屋で、おそらく使用人が使えるランクの部屋ではあるまい。

 勇者の部屋と同じように毛足の長い絨毯。それも、掃除がキチンとされているのだろう、毛並みの向きすら揃えられ、使い込まれているはずだが埃が絡まってすらいない。

 明かり取りの天窓に換気用の窓。それが部屋の中央にある小さく高い塔のような吹き抜けに設置されていて、部屋の中なのに何となく空気の流れがあった。

 廊下などはないワンルームだが、一応といっていいだろうか厠もある。聞こえる音からすると、貴族用の水洗のような。

 調度品は、廊下と同等。つまり貴族の部屋というよりは安っぽいものだが、それでも一級品のものが揃えられているのだろう。衣装を入れる小さな箱に、小さな机を囲む三人掛けの椅子が二つ。


 さすがに寝たり休んだりする用途ではないのでベッドなどは置いていないが、上等な部屋だ。僕がイラインで使っていた家よりも、大分上等で。


「水などはあちらの水瓶から適宜お使いください。食事は昼とおそらく夕、こちらまで運ばせます」

「それはまた、結構な待遇ですね」

 軟禁とすれば、まあ上等すぎる牢獄だろう。僕は牢獄に入れられるような罪を犯した覚えもなく、……いや発覚すれば色々とそうなるだろうものは重ねているが……それでも今現在拘束される謂われはないと言いたいところだが。


 そして夕食の準備まで想定しているということは。

「……夕食、まで必要になると思いますか?」

「どうでしょう。勇者様次第です」

「今からでも私も捜索に加えていただけませんか? 私もそれなりにお力になれます。私が捜索に加われば、まず夕食は必要ないでしょうね」

「…………」

 笑みと嫌みを込めて、アミネーを見返す。とそうしてから思い直し、僕は力を抜きつつ溜息を吐いて視線を逸らした。

 そうだ。目の前の彼女が悪いわけではないだろう。全てはこの絵を描いた、あの女性が。


 誤魔化すように僕は一歩室内に入り、中を見渡す。

「炊事場なんかはないんですね」

「ご要望があれば茶など運ばせて……と申し上げたいところですが、使用人はつけられませんので食事の時にお楽しみください」

「残念です」


 まあ、虜囚がそう我が儘を言うものでもないだろう。

 欲しければ抜け出してとってくればいいし……いや、多分それも出来ない気がするが。


 案内は済んだ。

 あとはアミネーが立ち去り、僕はこの室内に一人取り残される。そうなれば僕は、簡単にこの部屋から脱獄出来るだろう。

 僕はそう思う。そして、あの場での解散を選ばずわざわざ自分の侍女にここまで案内させたミルラも、そこまで考えないほどの愚鈍ではあるまい。



 アミネーが、重たい木の扉を閉める。鍵もかけていない不用心ではあるが、僕にはあってもなくても同じことだ。

 だが、一つ不思議に思った。それは、アミネーがいる場所。

 そこはまだ、部屋の内側。


「……この度は、申し訳ありませんでした」


 そして頭を下げたアミネーの態度。その不可解さに、僕は今日ここに来て初めて予想が外れた思いだった。




「これは駆け引きでも何でもない単なる疑問なんですが……何を?」

 僕は思わず普通に尋ねてしまう。きっちりとした固い動作で頭を下げたアミネーは、それと全く同じように頭を上げて僕を見た。

「はっきり言います。勇者様にあの抜け道を教えたのは、ミルラ様です」

「……ああ、はい」

 そのことか。ならば、謝っているのはもちろんそのことではなく、今この場の状況のこと、と考えていいだろう。


 僕の気のない返事が気にくわなかったのか、アミネーが眉を顰める。

「その反応、もしかしてご存じだったのですか?」

「いえ。何となく予想してました」

 正確には、そうだろうと思っていた。先ほどのルルとミルラの会話、そこでのミルラの言葉とルルの反応で。

 ミルラは知っていた、勇者が失踪することを。

 そして知っていただけならば別に構わないが、まるで予め決めてあったかのようなスムーズな命令の数々を考えれば、それを嗾けるような行動すらとっていたのではないかと。


「ルル様を巻き込んだ演劇、その一環でしょう」

「その通りです。もちろん勇者様は、それをご存じありませんが……」

 またも僕は、だろう、と内心頷く。接待とは相手に気づかれないようにするもので、もともとそうすると伝えるものではあるまい。

 だがそうすると、……ならば。

「勇者様の居場所は把握しているんですか?」

 それならば話が早い。正直腹も立つが、それでも一応最初から勇者の安全は確保出来ていたと言うことでまあほんの少しだけ安心も出来よう。

 ……いや、先ほど『夕食までかかる』という言葉を口にしたということは……。

「それは、いいえ、ですね。聖騎士団にも、どこにもミルラ様は頼らない……と……」

「それはまた」

 やはり駄目か。


 それにしても、頼れない、ではなく、頼らない、と。そうするとクロードも今は必死に勇者の行方を追う羽目になっている訳か。そして先ほどの様子では、おそらくクロードも計画自体知らなかったと。

 どこかで聞いた気がする、無能な働き者、という単語が浮かぶ。

 この企画をしたのがミルラ。ならばせめて、クロードやマアムには明かしておけばよかったものを。知っていたのがミルラ以外はアミネーただ一人。


 アミネーが、唇を口の中に巻き込んで視線を逸らす。

「……いつからでしょう。ミルラ様は、最近そうなのです。別の目的があったにせよ、治療師にも頼らずにカラス殿に薬を依頼しようとしたり、今回も、聖騎士への根回しなく勇者様を意図的に逐電させたり……」

 力ない声に、戸惑いが混じっている。それは最近の変化だった、と。

「まるで、誰にも頼らないことを決めているみたいに」

「これで勇者様の身に何か起これば大変な事態ですけどね」

 僕の嫌みの言葉。だが、アミネーは力なく頷く。


 素直な反応に毒気を抜かれ、僕は力を抜いた。やはり、彼女を責めるべきではない。

「……占い師は」

「え?」

 僕の言葉に意表を突かれたように、アミネーが顔を上げる。その反応は、『占い師』がそれに関わっているとは思っていない反応。

 ならば違うのだろうか。

「最近、ミルラ様に接触してきた占い師がいらっしゃいませんか? プリシラ、という」

「……ええ。いらっしゃいますが」

「その方に唆されていたり。『誰にも頼らずに自分の力でやってみろ』というふうな」

 言いながら、それはないな、と思う。プリシラの性格的にではない。もしもそれをアミネーが聞いていたら、それが理由かと一瞬くらいは疑うはずだ。

 思った通り、アミネーは首を横に振った。

「…………。いいえ。助言は受けていましたが、そんなことはありませんでした。むしろ……」

「むしろ?」

「カラス殿。貴方を味方につけろと」

「…………へえ」

 そして僕の方も一瞬意表を突かれ言葉に詰まり、いくつかの可能性を脳内で羅列した。当てつけだろうか。それとも誘導だろうか。

 多分、僕を味方にするとミルラには確かに有益だったのだろうと思う。エウリューケのこともあるし、薬のこともあるし。その言葉に裏はない、という気がする。

 だがその助言を、ミルラは実行しなかった。


「でも、そうでしたね。あの占い師と接見しはじめた頃からでしょうか。それからミルラ様の周囲から、どんどん人の心が離れていくのを感じるのです」

「まあ、あの強権ぶりを見ればそうなってもおかしくないですね」

「ですよねー」

 苦笑のようにアミネーが笑う。全く楽しそうでもないが、乾いた笑い声を上げていた。

「はっきり言います。この度のミルラ様の行動は、私でも擁護は出来ません。でも、その責任の一端は、きっと諌められなかった私にもあると思うんです」

「そうでしょうか?」

「あ、今何か甘い言葉をかけないでください。本当に反省してますので」


 大分フランクな雰囲気で両手の平を見せつつ、アミネーがそう言って首を振る。

 侍女というのは貴族に付き従うわりと華々しい職業だと思うが……マアムといい彼女といい、サロメといい、仕事上の顔を作り続けるのは結構大変なのだろうか。

 まあ気を許したというよりは、愚痴を共有出来たという仲間意識だろう。僕の側からは置いておいて、彼女からは。

 というか面倒だから、どちらかというと僕には仕事上の繕った顔でいてほしい。面倒だし。


 


「ミルラ様が何か行動を起こす度に、『これには何か深い考えがあるんだろう』と自分を落ち着かせてきたんですが、はっきり言いまして、今回は本当に……」

「勇者様の行動が予測出来ませんからね。事故や誘拐は除いても、本当にこの街を出てどこかへ行ってしまっているかもしれない。現在取り返しのつかないことになってるかも」

「本当にそうなんですけど……はっきり言わないでくださいませんか」

「でも本当のことでしょう?」


 しかしあくまで可能性の話だ。それも難しいと僕は思っている。

 勇者がミルラ王女にも内緒にして失踪しているとすれば、彼には今先立つ物がない。遠くの街へ行くのに馬車も使えず、そして聞いた話ではそもそも馬にも乗れないとか。

 ならば移動手段は誰かに頼る以外は徒歩に限られ、頼れる誰かはほぼいない。仮に僕に相談してくれていれば、いくらか渡したのに。

 まだ勇者が失踪してからそう時間は経っていない。魔力での強化に任せて走っていけばわからないが、普通の徒歩なら一目散に向かっても隣街にすら着いてはいまい。

 つまり、遠くにいるとしても、街道のどこか。


 そして今回の理由が、一番怪しい『傷心』というものならば。

 それを癒やすためというならば、人は殊更に風景を見るものだ。それならば、きっとまだ街の中にいる。それも、本当に近くに。




 もしもこれで勇者が仮に見つからず、失踪してしまえば、それは結局ミルラ王女の失点だ。

 この企画を考え、着手したのが彼女だけならば、本当に彼女だけの。


 ……しかし。

 それにしては先ほどの態度は余裕だった。本当にそうならば、彼女とてもっと緊張を見せるはずだ。

 失敗をすれば自身の政治生命は潰え、今ですらか細い女王になるという夢すらも消えて失せる。なのに、言ってしまえば『どうせ見つかる』というような態度。

 実はこっそり誰かに監視を依頼している、とか。

 もしくは僕と同じ結論にいたり、街にいると確信しているのか。


 もしも監視役がいるとして。もしも先ほどのアミネーの言葉が彼女からすると本当だとして。

 そうすると、監視役が出来る人間の候補もほとんどいなくなる。

 その誰かは、四六時中共にいるアミネーの目を盗んでミルラと二人だけの約束や連絡が出来るだろうか。……レイトンと同じく、たとえばプリシラなら出来そうだからこういうとき否定出来ずに困る。


 その上で、もう一つの可能性。

 『どうせ見つかる』という態度が僕の勘違いで、『見つからなくても構わない』とでも考えている場合。

 ……こちらの方はとても愚かな選択だと思うけれども。先ほどのアミネーの話ならば、ミルラはこちらを考えているのかもしれないと思ってしまう。



「それで。次に離れていくのはマアム殿ですか?」

「…………どういうことでしょうか?」

 察しがついていなかったようで、アミネーが首を傾げる。これは僕の邪推と当て推量の結晶なので、そもそも考えてもなかった、というほうがいいか。

「勇者殿が消えた責任、誰かがとらなければいけなくなれば、当然最初にとるのは彼女ではないですか」

「……ああ……」

「今日中に見つかればよろしいですけれども」

 

 これは僕の彼女に対するネガティブキャンペーンも込めている。だが、推測でもある。

 仮に今日中に勇者が見つからず、大きな事件となってしまった場合。

 ミルラが責任を被せるのは、マアム。ほとんどの責任を彼女に被せて、自分は素知らぬ顔……もっと言えば、被害者の仮面を被るのではないだろうか。


 おそらく今の表情を見れば、アミネーも考えている。『さもありなん』と。

 僕よりもミルラ王女の性格に詳しい彼女すらも。



 改めて実感してみれば、僕はミルラが大嫌いらしい。

 別に殺してやろうとかそういうことを考えているわけではない。だが、オトフシがプリシラに対して言った『反りが合わない』というのが今現在おそらく正しいのだろう。

 だから、こういった考えが思いついたのだろうと思う。その辺り、忘れないようにしないと。



 言葉なく、僕を見つめたままアミネーが鼻を啜る。……鼻?

 戸惑った僕の目の前で、アミネーが顔を背けるようにして頬の辺りを手の甲で拭う。また一度鼻を啜って……それと、目に浮かんでいるのは涙か。

「……何か……」

「なんというか、不甲斐なくて……」

「ええと、泣かれても困るのですが……」

「……申し訳ありません、…………申し訳ありません……」

 彼女のせいではないだろう。そう思うが、彼女はそう思っていないらしい。とりあえず涙を止めてこちらを見て、また口を開こうとして、そのまままた目から大粒の涙が零れた。




 どうしよう、と頭を掻いていた僕の耳に、外の足音が聞こえる。

 二人組。それに、それぞれ剣を腰に下げており、袖付きの外套の衣擦れも聞こえる。


 そこでようやく、アミネーの嘘泣きに僕は気づいた。ここで話し込んだ、その意図にも。

「……監視の方がいらっしゃいました」

 僕の言葉に涙を流しつつ、アミネーが外を見る。そして「本当ですか?」と今までの()()からすると余りにも白々しい声音で呟いた。

 

「……あの、時間稼ぎはもういいので、帰っていただいても」

「何故それを」

 僕が呟くように言うとアミネーの涙がピタリと止まる。言った僕も悪いが、もう少し取り繕って欲しい。

 そして突然泣き出すのは、結構不自然だ。


「別に、そこまでする必要はなかったのでは」

「カラス殿は女性に優しいと評判なので、調子に乗ってみました」

「優しくした覚えもないんですけど」


 ここまで案内したアミネー。彼女の仕事は案内が終わると同時に、僕の監視役に切り替わっていたのだと思う。もちろん彼女は本来の業務があるので、それなりの人間が来るまでの時間稼ぎ要員として。

 僕が前、勇者のデートについていったあの時のように、今回もついてこないかとの用心。ミルラ王女の手配だろう。

 それならそれをそのまま言ってくれれば、こんな演技もしなくて済むと思うのだが。


 おそらく聖騎士二人が扉の前に立った。それに自分でも気づいたのだろうアミネーが、けろりとした顔で扉に歩み寄ってノックをしてから開く。

「お待ちしておりました」

 その向こうに見えた服装は、確かに聖騎士。見覚えがないが、肩の隊証がそもそもクロードの団のものではないので、王城の警備要員ではないのだろう。

「ではあとは、お任せしても」

「了解しました」

 左の一人がそう言って、二人同時に頭を下げる。アミネーがそっと横に避けると、二人は静かに部屋に入ってきた。


「それでは私はこれで」

 聖騎士たちが部屋に入ってきたのを確認し、アミネーが僕に頭を下げる。その今までの演技に僕が恐れ入りながら会釈を返すと、アミネーは満足げに部屋の外へ出る。

 そしてそこで振り返った。

「時間潰しとはいえ……」

 扉を閉めずに、アミネーが溜息を吐く。そして僕を見て、一度頷いた。

「はっきり申し上げまして、先ほどの言葉はほとんど本音と事実です。話を聞いて頂き、ありがとうございました」

 

 「すっきり」と小声で呟き、アミネーが扉を閉める。

 その扉の向こうで少しだけ胸を張った彼女に向けて、僕は「どうも」と呟いた。


 勝手に人を相談役にはしないでほしいが。





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― 新着の感想 ―
ホント、この作品自己中クソ女しかいねーな!(褒め言葉) 殆どの女性が、大なり小なり主人公の人間不信に拍車しかかけてなくて、主人公可哀想すぎて読むのやめられません。 ほんと、すごい話書いてくださってあ…
[一言] マアムの次はアミネーが捨てゴマにされそうだけどな。
[良い点] オギノ君の石ころ屋みたいのが有れば良いが。
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