退屈な鳴き声
9/24 投稿後に矛盾に気づき、「書き物机云々」の台詞を削除しました。流れの変更はありませんが、言い訳が活動報告にあります。
「……いつもの面子じゃないですか」
ルルの天岩戸が閉まる予定の日。ルルの午後のお茶会についてきた僕は、声に出さないでそう呟いた。
視線の先にはルルたちのテーブル。そこに座っているのは、ルネスに予告通りディアーヌ、そしてルル。
あとの二人はまだ来ていない、だそうだ。
そして振り返り、見上げた先、外庭に面するベランダのようなところからこちらをちらりと窺っている影を見て、もう一度先ほどと同じ言葉を呟いた。
降りてきていいんじゃないですか、と僕は視線の先へと口だけで呟き問いかける。
しかしその先にいた聖騎士は、困ったように首を横に振った。
「ヴィーンハート様からお招きいただいたのは初めてですが、このような場でお会いするとは思いませんでしたわ」
フフ、とディアーヌが笑う。深緑の簡素でタイトなドレス。
この場で一番優雅で、なんとなく『仕上がっている』風の仕草で紅茶を傾けながら。
ルルはその言葉に頷く。
「私もです」
「それに、ルル様だけではなく、カラス様や……」
ディアーヌが言葉を切り、ルルから視線を外して僕を見る。そしてほとんどそのまま視線を上に動かして、件の聖騎士に笑いかけた。
「ジグ様まで」
「……!?」
ルルの方は気が付いていなかったのだろう。いや、聖騎士の存在自体は知っていたはずだが、それがどこにいるか、ましてやジグだったということは。
しかしまあ、ディアーヌも侮れない。僕やオトフシ相手ならば無意味だろうが、多分ジグも、目立たないように距離を取って見ているはずだ。それを看破するとは。普通の貴族令嬢にあるまじき感知能力。本当に、惜しい。
ジグの擁護をするならば、別に本気で姿を隠して監視していたわけではないだろう。甘く見ていた、というわけではないが、そもそも隠れる必要がない類いの監視業務なのだから。
「……監視がついているとはこういうことですか」
「お話ししておいたとおりですわ」
ディアーヌがルネスに問いかけると、ルネスが重々しく頷く。
既にその話題はディアーヌに伝わっていたらしい。
「大変ですね、ルル様は」
「……いえ」
ディアーヌの慮る言葉にルルは遠慮がちに返す。何となく重苦しい雰囲気に、お茶会という感じはあまりない。
というか、気づいてしまえばやはりいつもと感覚が違うのだろう。
外様である聖騎士が参加し、彼女らを注視しているのだ。
もちろん、通常の貴族たちのお茶会でも、使用人が周囲を歩き回ったり待機したりしている。けれども、それは自分たちよりも下位の者たちであり、決して同格以上の地位のある友好でない人物ではない。
監視の対象はルルだ。しかしそれでも、きっとルネスやディアーヌは自分たちも監視されているように感じるのだろう。
だからまあ、ジグも降りてきて、ここで、というのは出来ない。これから来るであろう事情を知らない者には、あまり知られたくはないことだろうから。
そしてその雰囲気の重苦しさには、話題のせいも加わる。
「今のところ、直接的に何かをされたとかはないのですね?」
「はい。クロード様に陳状が届いていると言われて、私も驚いたくらいで」
「まあ、まだこれからというところでしょうね」
ディアーヌが、剣を使うときと全く違う優雅な仕草で紅茶を皿に置く。あえてルネスやルルなどとの身分差を忘れて見てみれば、この場で一番彼女が格式高い家の令嬢に見える。実際には逆だけれども。
「本当に、災難ですわ。私など、この王城に来てよかったと思っていますのに」
ディアーヌの視線が僕とジグを一瞬貫いた。それに気づいたルルはこちらに視線を向けて、逸らす。ディアーヌもそれを見て、話題を変えようと殊更に声を張り上げたように聞こえた。
「どこで勇者様とお知り合いに?」
「……皆様と同じはずなんですけれど……」
「いつも私と同じ組で挨拶をしていましたから、私など眼中になかったということですわね」
失礼しちゃう、とばかりにルネスが鼻を鳴らす。まあそういうことだろう。そして、ルルに対して害意を持っている令嬢たちの認識も。
「…………私よりも先に、カラス様がお知り合いだったようです。その縁でしょうか」
今度はちらりとルルがこちらを見る。僕は発言してもいいのだろうか。
というか、そのことならば少しだけ反論のような補足がある。その縁でもあるが、それよりも先にミルラからの縁がある。
「カラス様が? 個人的にということですか?」
ルネスが、初耳、と首を傾げた。三人の視線といくつかの使用人の視線がこちらへ向けられ、突然まな板の上に載せられた気がした。
「どういうことです?」
ルネスが僕へと問いかけてくる。これは答えてもいいのだろう。
僕はルルの少し後ろから、少々声を張って答えた。
「夜間に散歩中、部屋を抜け出してきた勇者様と遭遇しまして。彼が召喚されてから数日後のことでしょうか」
「まあ。勇者様と、その時にお知り合いに? ……どういった話を?」
「…………」
答えようとして、僕は答えに詰まる。言っていいことだろうか。
……一応公然の秘密だけれども……いいか、別に。
「少々愚痴を聞いただけですね。……戦いたくなんてない、と」
「勇者様が?」
「彼の生国は戦乱も全くなく、のどかなものだったという話ですから。そういうことを考える必要がないくらいに」
僕としては、一応喜ばしいことだ。
愛国心があるわけでもないが、若干の愛着はある国。その国が『あれ』以来戦火を免れており、そして僕の死後もそれが続いていたというのはきっと明るい話だ。
「勇者様は剣術を修めていらっしゃるようですが、それも本来不必要なものだと」
「……ですが、ちょっと前からは盛んに訓練に参加するようになったと……ああ」
ルネスが何かに気が付いたように声を上げ、ルルを見る。その時期だ、と気が付いたようで。
「どういう意図かははっきりとはわかりかねるので申し上げられませんが、ルル様のためかと」
「お手柄、と誉めて差し上げたいことですけれどね」
ルネスがそう口にして紅茶を一口含む。彼女は紅茶に黒糖を入れないらしい。
「……これから何かあったときには、私も力になりますわ」
「ありがとうございます」
ルネスが改めて明言する。それにルルも会釈で応えたが、その表情はあまり見えなかった。
ルネスはそれに満足げに頷き、そしてこちらを見る。
「けれどね」
見られているのは僕。心配そうに青い目を潤ませるようにしながら。
「心配はないのでしょうけれども。それでも、ルル様のこと、お頼み申し上げますわ」
「もちろんです」
警護。さすがに政治的なものは無理だが、肉体的な嫌がらせならば僕が全て遮断しよう。
それが今の僕の仕事だし、絶対に全うしよう。見捨てることはしない。
「なら安心ですわ。今のところはね」
ほっと息を吐いたルネスは、侍女に生乳を申しつける。
それを半分ほどになった紅茶に加え、かき混ぜる音が会話に混ざって響いていた。
「そういえば、ディアーヌ様は剣の稽古は進んでおりますの?」
「はい。おかげさまで」
優雅に佇んでいたディアーヌが、言い終わると僕とジグに笑みを向ける。先ほどまでの優雅さは消え失せたように、健康的な笑みで。
「自分で言うのもなんですが、この城に来てから格段に腕が上がったと思います。ルル様には申し訳ありませんが、この城に来てよかったと本当に思っていますわ」
「今までは?」
「ほぼ自己流でしたので、今思うと酷いものだったと思います。それなりに自信があったのは、今考えればぞっと致します」
「いい教師がついたのね」
「ええ。過分なほどに」
嬉しそうにディアーヌが笑う。彼女の侍女は後ろで隠して溜息を吐いていたが、それは僕以外は見えていないらしい。
そしてディアーヌの謙遜に、そこまでは、と僕は内心呟く。
実際、実戦に近い鎧打ちを始めてからはめきめきと上手になっている。しかし、それもそれまでの積み重ねがあってのことだろう。
決して僕やジグの功績だけではない。彼女の才能と努力の成果だ。
才能と努力。
そんな言葉を思い浮かべた瞬間、違う光景が目の前に浮かぶ。
浮かんだのは勇者の顔。魔法を使えるようになったと喜ぶ、眩しい笑顔。
才能と努力が実を結び、使えるようになった魔法。僕とは違う種類の。
視界の端で小鳥が舞う。
こっちにごはんがいっぱいあるよ! と同胞に地面から這い出た蚯蚓を知らせている姿。
僕は同類だから、と彼らの言葉を手に入れた。それはなるべくして手に入れた力で、きっと生まれ持った力といってもいい。
しかし勇者は努力で。
「ルル様は、真剣を振れなかったと仰っておりましたの。ディアーヌ様はもちろん扱えるのでしょうけれど、どれくらいで?」
「……どれくらいでしょう? 兄の貰った剣を触らせてもらったときには、私も満足に振れずに悔しい思いをしましたわ」
「どういう鍛錬をするんです?」
ディアーヌの言葉に、珍しくルルが興味を示す。それが本当に珍しいのか、ディアーヌも一旦怯んだように首を傾げて拍子を取った。
「初めはやはり、木剣の素振りでしたっけ。毎日、隠れて手にマメが出来るまでやりましたわ」
それでも剣の話題になると饒舌なのか、ふふ、と笑いながらディアーヌも応える。
「初めはね、確かに振れないんです。振ってもこう、剣の筋が曲がってしまうといいますか、重さに引きずられるようになって、剣に振られてしまうという感じで」
そのジェスチャーは、確かに剣を扱う動作だ。けれども、その動作に形容詞をつけるとしたらやはり『優雅な』で、何となくいつもと違って新鮮に見える。
僕が会うときのディアーヌは、どちらかといえば騎士や衛兵たちのような印象だったのに。
「でも、次第に慣れてくるんです。お腹にしっかり力を入れるのがコツでした」
「そういえばディアーヌ様は腰も細いですわね。羨ましいくらい」
合いの手を入れるルネスは、剣のことなどあまり興味がないのだろう。お腹と腰、関連はあるのだろうが、少しだけずれた言葉。露骨に話題を逸らそうとしている。それをわかっているのだろう、ディアーヌも素直に頷いた。
「自慢ですわ。腰帯もあまり締め付けずともよいのは」
「私もやってみようかしら。もちろん軽いものから」
見様見真似、とばかりにルネスもそこにない剣を振る。利き手が下の上、何もなくても剣筋が曲がって見えるという不思議な振り方だったが。扱ったことがなければそうなるだろうか。
「もっとも、マメが潰れての繰り返しで、殿方の手を握るのは手袋越しでないといけなくなりましたけれども」
「あら、それではさすがに私は遠慮しておきましょう」
そしてディアーヌの言葉にオチがついたようで、ほほほ、と二人が笑い合う。
たしかに、ディアーヌの掌は一般的に思い浮かべる女性の手よりも分厚く固い。水仕事から遠ざかってもまだその影響が残っているルルの掌同様、あまり優雅とは言いづらい見た目だ。
しかしそれもやはり、僕としては謙遜するようなものでもないと思うけれど。彼らにとっては、そうなのだろう。不思議なことのように思える。
俄に、背後の方がざわめくように騒がしくなる。そして僕を追い越すようにルネスの家の使用人が駆けていくと、彼女に耳打ちをした。
「ティリー様、マーシャ様いらっしゃいました」
「あら。少し遅かったわね。まあいいわ」
そんなルルたちには聞こえないように発した言葉に違わず、足音が響く。
僕も一応と振り返ると、仲よさそうに女性二人が並んで歩いて庭に出てきた。
元から邪魔な位置にいるわけではないが、僕は端に寄って道を空ける。
ティリー・クロックスは一つ団子を作った髪の毛に、小さなシルクハットのような帽子を被せていた。
マーシャ・ポッター……ええと、伯爵家の彼女が、頬にかかる髪の毛を払いのけながら、静かに笑みを浮かべる。
「ルネス様、お待たせしました。今日の衣装が決まりませんでしたの」
「お待ちしておりましたのよ、どうぞこちらへ」
ルネスがそう言うと、侍女が椅子を二つ引く。ルネスの左隣にいたディアーヌの反対側、ルネスとルルの間に。
そこに座ろうと歩み寄るマーシャを置いて、ティリーのほうが歩調を緩める。
そして、……僕の顔を見ると、目を少し開いて眉を上げた。
ルルもルネスもそれに気が付いたらしい。何をするのかと、僕へ歩み寄るティリーを注視し、焼き菓子をとる手を止める。
嫌な感じはしない、が変な感じだ。ほぼ同じ身長で、多分年の頃は二十より少し下くらい。ディアーヌよりもまだ若いくらいの彼女が、僕へと顔を近付けた。
「君、……なるほど」
「……はい?」
何というか、何と返していいかわからずに、僕はただ聞き返すように返事をする。
一応失礼なこと、ではあるが泣きぼくろのある彼女は気にもしなかったようで、ただ笑ってルルたちの席へと近づいていった。
それから二人入ったお茶会は、先ほどとは全く違う雰囲気に変わっていた。
「ミルラ様が情けない。客同士の争いをまず止めなければいけないのは彼女だろうに」
ルルの事情はもう既に知られているらしい。おそらく最初はルネス経由だろうが、自分たちでも気になった、という感じだろうか。
まずティリー。彼女の言動は貶すわけではないが優雅さにかけ、なんというか衣装を無視すればそこはどこかの街の食堂のような雰囲気に変わっていた。そして彼女はルルの話を聞いて、王家へと批判的らしいその考えを全面に出していた。
「彼女は彼女で頑張っているのですから。……それでも、周りが力を貸したりしないのでしょうか。まず、そういう教育と権威が必要なのに、そのまま放り出すなんて」
そしてマーシャは少しだけおっとりとした雰囲気のまま、それでも言葉の端々に王家への批判が入っている。
先ほどから聞いていた言葉の応酬は、正直本来はジグとかには聞かせられない話だろう。
上でばっちり聞いているけど。
「……お二人とも、その辺にしておきませんこと? 誰かに聞かれてしまえば大事になってしまうかも」
「するならばすればいいんだ」
ジグのことを知っているルネスが止めるが、それは二人には関係ないらしい。ティリーの方は、ルネスと同じ侯爵家ということもあるだろうが。
「……と、だがこれも聞かれているのかね? ルル様には監視の目があるらしいじゃないか?」
「…………そうよ」
「よし、処罰されそうになったらお父様に泣きつこう」
今はまともに座っているが、なんとなく椅子の上に体育座りでもしそうな雰囲気。
なんというか、この中では特にティリーがルネスと仲がいいらしい。二人の間だけ、語調が少し砕けている気がする。幼馴染みとかその辺だろうか。
一応、呼ばれた客四人はこれで揃ったようだ。今ようやく気が付いたが、年齢層が高い。
大抵こういう場で集まるときは、年齢を揃えるのか、それとも年齢が揃ってしまうのか、同じような年齢の者で集まるのだと思う。
いつもルルが出ているものは、やはり同じようなもの。十台真ん中辺り。これは僕も同年代といっていいだろう。
そして今日の集まりは、ルルを除いた四人は見た目で多分二十歳前後。平均年齢が五歳も違うわけだ。
五十を超えるくらいになればまた違うだろうが、このくらいの年齢で五歳の差は大きい。
結果として、会話にルルが入れない。
時々ルネスが話を振ってくれているが、少し答えてまた焼き菓子をちみちみと囓る作業に戻るような、そんなお茶会。
ディアーヌがいるので、彼女とはまだ少し話が出来るし、混ざれていない、ということではないようだが。
いやまあ、その辺は僕には手助け出来ないし、ルル自身でどうにかして欲しいものだが。そもそもルルもこちらに助けを求めていないようで、それは僕としても心が楽だ。
しかし、こちらも少し居心地が悪い。
少しだけ、ちらりと周囲を見てみれば、その度幾人かの使用人と目が合う。いや、幾人かどころか、何度か繰り返せばルルとルネスの使用人を除くほとんど全員と。
何故だろう。すごく気にされている気がする。いや、明らかに注目されているのだ。こちらから見返すと、すぐに目を逸らされてしまうが。
何だろう。こういうことが起きると大抵確認するが、僕の身なりに何か不審な点はないと思う。それに、敵意があるようには見えない。もちろん、ルルにも。
そんな現状に気が付いたのだろう。少しだけさりげなく立ち位置を下げたサロメが、僕へと顔を寄せる。
「さすがに目立ってございますね」
「目立つ?」
こそこそと、囁き声で会話する。一応お茶会の面々には声が届かないようにしているが、用心のために小さく。
「僕何かしましたか?」
「いいえ。ただ、……見慣れていないのでしょう。私たちは、彼女らのお茶会には参加したことがございませんから」
「……ああ」
なるほど。ただ単に、目立っている、ということか。
いつものお茶会に、見慣れない生物がいる……それはさすがに言い過ぎだけど、見慣れない人物がいる。それに僕も有名とはいえ、見えるようにこの場にいる男性は僕とルネスの使用人の二人だけ。そんな性別のこともあるかもしれない。
結構長い間この城にいるのだ。食堂とかで話したことがある人もいるかもしれないし、そろそろ慣れてほしいものだけれど。
そうして特に危険のないお茶会を過ごし、そろそろ、という話になる。
ティリーが入ってからは、お茶会の主役が彼女に固定されたきらいはあるが、それでもその方がルルにはありがたかったのだろう。そんなに疲れも見せずに、解散となった。
帰りがけ。席を立ったティリーに声をかけられる。肩を両側から叩かれるような、馴れ馴れしい仕草と共に。地位が下の人限定だとは思うが、ちょっと距離が近すぎる気がする。
「しかし、いい男だね、カラス君」
「……恐縮です」
僕はルルを視界の端で納めながら、そう返す。なんと返していいかとても困る。
そんな困る僕を気にも留めず、腕を組んでティリーは頷く。何かに納得したように。
「私もな、破談を繰り返して嫁にいけずに困っていたから、こんな腐った王城へ来ることになってしまったのだが……」
「…………」
「いやはや、相手が君みたいな男だったら、私も破談しないよう頑張ったかもしれないね。我が家の使用人たちも君から目を離せない」
何を言うのか、と僕は黙って話を聞く。彼女の話を遮りも出来ないのだけれど。
「なるほど、嫌がらせを別にしても、ルル・ザブロック様が勇者に見初められても喜ばない理由がよくわかるよ」
「…………っ!!」
視界の端で、ルルが慌てるように口を開ける。
……もしかして、昨日、僕がここへ来ることを渋ったのはこういうことが原因だろうか。
近くに男性がいるからこそ起きる、からかい。悪評。
たしかに正直これも避けるべきことの一つな気がする。
なんと返していいかやはりわからず、それでもとにかく僕は言葉を絞りだそうと必死に考える。
「申し訳ありません。その類いの冗談は、ルル様に失礼ですので」
そして、多分この女性なら少々の無礼は大目に見てくれるだろう。そう甘い期待を抱きつつ、宥めるように窘める。
「おや」
泣きぼくろを掻くようにして、ティリーが目を丸くする。
「ルネス? 話しが違くないか?」
「貴方のその舌禍癖は、どうにかなりませんこと?」
「何も悪いことは起きないだろう。これくらい」
溜息を吐くルネスと目も合わせず、ティリーは「じゃ」と言い残し、帰ろうとする。
しかし途中で思い直したのか、皆の方へと向き直り、「ごきげんよう」と一言添えて頭を下げて去っていった。
彼女らはモブ1,2くらい