寝耳に水の話
いつもの応接用の膝までしかない机ではなく、食卓用の高いテーブル。その一番の上座と一番の下座に向かい合い、ルルとクロードが視線を合わせた。
僕やオトフシ、サロメは立っている。オトフシは立ち去ってもいいはずだが、今日はそういう気分なのか、サロメと共に壁際まで下がって腕を組んで壁にもたれかかっていた。
「ああ、そうかしこまらないでもらいたい。今日は、ただの連絡なんでな」
「連絡ですか?」
困った顔で、クロードはルルの言葉に頷く。それからちらりと僕を見た。
そして、いいづらいことを言うようにやや俯いてゆっくりと口を開いた。
「まず、前置きから。最近、ルル・ザブロック様に関わる陳情がいくつか届いている」
「…………?」
陳情。大抵は、誰かに迷惑をかけられた誰かが、官憲などに助けを求めて相談すること。それが、ルルに関わること、と?
不可思議なことに首を傾げるルルに、クロードは体をやや前に出した。
「いくつかの家の話によると、ルル・ザブロック本人、またはその家人から嫌がらせを受けたと」
「……!?」
絶句したルルは、クロードと反対にやや体をのけぞらせた。不満に眉を寄せながら。
「記憶にございませんが」
「でしょうな。やっていなければそうなるし、事実私もそうだと思う」
少しだけ、部屋の空気が乾燥した気がする。
不満げにオトフシが聞こえないように鼻を鳴らしたが、僕としては舌打ちでもしたい気分だ。もちろん、聞こえるように。
「私はそう思うし、……気を悪くしないでいただきたいのだが、警備に当たっている部下たちにも話を聞いた。誰もそんな兆候を感じたことすらなかった」
「私は、……私が、どのようなことをしたと?」
突然尋ねてきて、結構な言い様だ。クロード自身何も信じてはいないけれども、誰かはルルに迷惑をかけられたと訴えているとは。
戸惑うルルがその詳細を尋ねると、クロードは本当に言いづらそうに静かにまた口を開いた。
「単なる嫌がらせですな。廊下でわざと裾を踏まれた、挨拶したら睨まれた、食堂で食事を横取りされた、など」
「どれも心当たりがありません」
「使用人の薬師に薬を頼みに行ったら、ルル・ザブロックの命により無下にされ、断られた、なども」
クロードが僕を見る。僕に薬をもらいに来た人、というと簡単に絞り込めるのだが。
今度は僕に向けて、気怠げに口を開く。
「念のために尋ねよう。心当たりは?」
「そのような事実には心当たりありません。しかし……」
「しかし?」
「一人、断った方がいます。非協力的な態度だったため、正確な薬の調合も出来ないと私が判断しました」
この前来た口内炎の令嬢だろう。僕からすると、薬をもらいに来たのは二人。そして断ったのは彼女だけだ。
僕の言葉にクロードは笑う。笑うしかない、という乾いた笑いで。
「だろう。本人も、そう言っていた」
「本人も?」
「当然だろう。なにせ、その陳情を出してきた家と別人だったのだからな。事情も聞くさ」
ははは、とクロードは笑う。目も笑っており、目元に皺もある。唇もつり上がる、真正の笑み。だが、全く楽しそうに見えない笑みだった。
それにしても、『陳情を出した家』と当該人物が違う。
その事実に、僕の拳が握りしめられる。周囲の温度がやけに上がり、暑くなった気もする。
何となく事情がわかってしまった。
「色々とやっかまれているようですな。ザブロック様」
溜息をつきつつ、クロードが顔を真顔に戻す。手を膝の上に置いた、姿勢のよい姿になって。
「白状しますと、これは保身に該当する行為です。当該のルル・ザブロックから嫌がらせを受けた、もしくはそれを見たという方々は、侯爵家ならびに伯爵家の方々が主。何もしないと親たちがうるさいのでな」
クロードは、「うちの娘を信じないのかっ! と」と演技を交えて付け足す。爪を突き立てるように指を曲げて胸の前に出すそのジェスチャーは、どちらかというと獣に使うものだが。
「……私が、邪魔なのでしょうか?」
では、と本題に入ろうとしたクロードを遮り、ルルがそう口にする。悔しそう半分、楽しそう半分に。
そして顔を上げる。
「その方々は、本当は何をお望みに?」
「…………もう同じところに住みたくはない、と」
「その続きがあるのではないでしょうか?」
「…………」
沈黙に肯定の色が見えた。
言葉を出しづらそうに、クロードは微笑みを湛えたまま口を閉ざして顎を上げる。ルルが潔白だと思っているからだろう。嘘はつきたくない、と思っていると感じる。だが、全てを話したくはない、とも思っていると感じる。
言葉を発さないクロードを待つように、ルルが紅茶を一口含む。クロードの前に置かれたものと同様、もう飲み頃に冷めていた。
なるほど。
ここでもか。
そう端的な言葉が心の中に浮かぶと同時に、僕の肩にほんのわずかに重さがかかる。
そこに目を向ければ、オトフシの紙燕。音もなく僕の肩に飛び乗って、頬を突いてきた。
紙燕に感じた煩わしさへの抗議と、そして何か用かとオトフシの方を見る。
オトフシは口だけで、僕に「おちつけ」と口にした。
その言葉に、何か変わったのだろうか。僕は息苦しさに気が付く。
無意識に息を止めていたらしい。握りしめていた拳に痛みが戻ってきた感覚があった。
ふと気が付くと、紙燕が焦げたくちばしを僕の肩に擦りつけて直している。それくらい、紙を折るときの要領で直せばいいのに。
しかしまあ、反省だ。暑くなっていたのは気のせいではなかった。そして、熱を発していたのは間違いなく僕だった。一歩離れたルルには、全く届かない範囲のみだけれども。
ふうと僕は溜息をついた。隠す気もなく、わざとらしく大きくする気もない程度の音で。
……僕は、何をしようとしたのだろうか。
正直、何も考えていない。ただ、感情の赴くままに……。
本当に、何をしようとしたのだろう。考えていることの是非を問うているのではない。ただ考えも無しに、何を。
もしかすると、また僕は『殺してしまおう』とでも考えたのだろうか。関わっている人間全員を不審死させることはおそらく簡単で、名前さえわかれば僕ならば即日出来る。
しかしそうすると、皆に迷惑がかかる。利害関係が定まりすぎている。今その令嬢たちに何かがあれば、きっと魔法使いの僕を擁するルルに目がいく。
それこそが、一番避けたい事態なのに。
誰に対して覚えたのかわからない罪悪感。けれども、何となく腕を引かれた気がした。誰も何も動いていないのに。
その腕を引き戻すように、罪悪感に報いるために、僕は思考を展開させる。
まずは予測。ここで、僕が何も手出ししなければ辿り着くだろう当然の結末は……。
……おそらくこの『連絡』は、一方的に終わるだろう。クロードも、先ほど言葉を続けようとしていた。ルルとの問答は想定外だったと思う。
ならばここから一方的に何かを通告し、終わればいい。
クロードが言わなかった令嬢たちの続きの言葉。それはきっと、『だからあの娘を立ち退かせろ』だろう。もしかすると勇者に近付けるな、程度の穏健なものかもしれないが。
クロードの通告はそれ……でもきっとない。
以前、自由参加である昼餐会への参加をミルラ王女直々に打診してきた。それ以上に、勇者の態度や行動を見ても、まあ明らかに勇者はルルへ執心している。
ここで勇者の機嫌を損ねる行動は、ミルラ王女……ひいては王が許すまい。
ならばクロードは何を連絡に来たのだろうか。
連絡だ。命令でも指示でもない、何もルルの行動が伴わないもの。
保身のために来た、とクロードは言った。
ならば、クロードの保身に繋がるルルへの連絡、とは。
……ああ、なるほど。どっちでもいいや。
予行練習、というわけでもないが、ちょっとした嫌がらせをしてみよう。
僕の腹は決まった。クロードに仕事をしてもらい、相手方を牽制するために。
それから誰も言葉を発さない空気を壊すように、口を開いた。
「僭越ながら、意見をよろしいでしょうか?」
「…………」
クロードが僕を無言で見る。それから破顔しながら目を逸らす。ルルは、僕を見て無感情な笑みで「どうぞ」と口にした。
「問題を認めるわけではありませんが、私たちはこの城を退去してはどうでしょう」
「退去、ですか?」
「ええ。どうやらいくつかの家の方々は、お嬢様が何かに邪魔なご様子」
ルルが邪険にされる理由。
それはいくつも思い浮かぶが、クロードの言った『やっかみ』という表現が一番正しいのだろう。
ルルが関わっているものの中で、この城で目下重要なものはただ一つ。
勇者。オギノヨウイチ。
オトフシが言っていた。この城で現在行われている大規模な『お見合い』は、貴族の令嬢たちが本来行えない恋愛を疑似体験できる貴重な場だと。
だから舞踏会には着飾り、勇者の歓心を引こうと大勢の令嬢たちが見栄を張る。自分が選ばれようと、自分が勇者の一番になろうとしている。
だが、その勇者の一番が既に決まっていたら。
決まっておらずとも、有力候補が現れたら。
そしてその有力候補が、自分より格下の存在だったら。
先ほどクロードは言っていた。『嫌がらせについて陳情したのは、高位の貴族』だと。
正直、まだ何も被害がないに等しい小さな話だと思う。
ルルへの静かな嫌がらせ。このままエスカレートすればわからないが、まだ誰も傷ついておらず、僕の身に起きていたならばもう気にも留めていなかった話。
何故こんなに苛つくのだろう、と僕は一瞬悩んだ。
思わず手出しを選ぶほどの苛つき。そもそも放っておいても実害がない限りは気にしなくてもいいのに。
自分でもその理由がわからないままに、オトフシに咎められるほど怒りを周囲に出してしまったのは何故だろう、と。
寝耳に水の話だ。いつもならば僕はこういう話を聞いたときに理解できず、そして理解していないままに周囲が動いていく。
ルルとてそうだろう。
今クロードに話を聞くまで知らなかった話。理解できるまでに少しだけ時間をおいてもいいと思う。
けれど、僕は知っている。僕はこの身を以って知っている。
だから『ここでも』なのだ。だから、理解できた。
これはイラインでの僕と、同じ話だ。
令嬢たちを殺すのは、きっとあの時と同じ失敗だ。
未だにあれを、失敗とも思えないけれど。
「正直、まったくの無実のお嬢様がそのような扱いを受けるのは心底腹立たしい思いです。ですが、先ほどクロード殿が仰ったように、その方々は高位の貴族。事を荒立てるのは得策ではありません。ここは城を退去し、彼女らの顔を立ててみてはどうでしょうか」
壁際で、オトフシが可笑しそうに小さく噴き出す。
「そんな性急な……」
ルルのほうは、まだ僕の意図が読めない顔で止めようとする。だが、止めたくない。
「しかしおそらく、……クロード殿が先ほど口に出来なかった続きは、『お嬢様に出ていってほしい』でしょう?」
途中から、クロードの方を向いて僕は喋る。
何だろう。突然の出来事で、あまり考える暇もなかったのに、よく舌が回る気がする。
「……まあな」
「でしたら、利害は一致するはず」
そしてそこまで言って、ルルの表情が少しだけ明るくなる。
僕の意図が読めたらしい。ここは同意をしてほしい、という絶好な場面。
ルルは、いたずらを思いついたような表情をほんのわずかに浮かべて、深々と頷いた。
「……そうですね。不名誉を認めるわけにはいきませんが、そのような悪評を立てる方々と近くで生活できないことも事実です」
「あの、だな……」
「王命に従い、登城致しました。期限は切られていなかったはずです。その高位の方々の要請に応じ、これにて、今回のザブロック家からの奉公は終わりということでよろしいのではないでしょうか」
ルルの舌も回る。自分の立場を、彼女も理解しているらしい。
「待て」
「サロメさん、私たちは荷造りしましょう。今度は荷運びを私が全てやりますので」
「待て待て! 待てって!」
クロードが少しばかり大きめに叫ぶ。そして力が抜けたように俯いて、頭を抱えた。
「お前たちは、そう言えば俺が困ることを知っていながら……」
はあ、とクロードが俯いたまま溜息を吐く。
やはり。脅しに近いが、『機嫌を損ねるとルルが出ていくぞ』はそこそこ有効らしい。
いくつかの令嬢からは『ルル・ザブロックを何とかしろ』とでも言われ、おそらく、ミルラ王女からは『ルル・ザブロックに心配をかけぬよう』とでも命じられているのだろう。
この反応から見ても、おそらく板挟み中だ。
素を出して、クロードが手を体の横に投げ出す。そして姿勢を崩し、股を開いてその間に手を垂らした。
「ミルラ王女からの命令で、全ては今のところ不問になっている。だが、陳情のあったことに無反応でいるわけにはいかない。だから、監視の目を用意する……と言いたかっただけなんだ」
「監視? ですか?」
「ああ。一応この部屋の中は立ち入らん。けれども、外へ出たときは必ず誰かの目がある、と思って欲しい」
もはやクロードは取り繕うこともなく、丁寧な言葉も使わない。一応この中では身分が一番上なので、咎めることも出来ないのだが。
「反論材料を集めておきたいんだ。『あのときあれをされた』に、『そのときこれをしていた』と」
「なるほど?」
「もちろん、外へ出なければ出ないで構わない。いつも通り、自由にしてもらって結構だ。以上、連絡は以上ですー」
もうやだよ、と何かに文句を言うように、クロードが自分の左肩を右手で掴んで首を回した。
「はい、これで終わり、面倒な話これで終わり!」
もはや最初の態度は見る影もない。手刀で机の上の何かを遮るように、何度もクロードは示す。こういう態度が、中々信頼できない理由だと思う。
しかし僕たちの発言がもう何もないと察すると、机の上に出していた手刀をまた椅子の横に投げ出した。
「実はもう一つあるんだ。こちらはカラス殿に相談だが」
はあ、とルルが応える。そして部屋の視線が僕へと集まったが、正直少しだけ不快だ。
それでも、一応礼は尽くさなければ。目上だし。面倒だけれども。
「私になにかございますでしょうか」
僕が応えると、クロードが嫌そうな顔で目を逸らした。多分僕にではなく、話題に。
「……ミルラ様が、エウリューケ・ライノラットを城へと招聘しようとしている話、知っているだろうか?」
「…………いいえ」
そして本当に嫌な話題だった。
城へと招聘。招くだけでも招聘だが、一度招いて、礼を言って終わり、というわけではないだろう。
彼女をどこかで働かせようというのだ。どこで?
「まあ、知らんでも無理はない。……率直に聞くぞ。ライノラット殿を客分として招くことが、この国にとって有益だと思うか?」
「何をさせたいのかによります」
問題は、エウリューケに何をさせたいか、だ。呼ぶだけではない。呼び出し、何かをさせるのだろう。
仮に戦争に出すのならば、上手く使えば脅威だ。彼女の性格上、戦場が実験場に早変わりするだろうが。
何かの研究をさせてもいい。適切な設備と材料を与え、彼女の興味ある何かを探究させれば、この国の技術はさらなる進歩を見せる。だが、性格上、その『興味』がわからないし、突然飽きたとやめることにもなり得るだろう。そこまでかかった莫大な予算も、彼女はきっと考慮しない。
「だよな」
「もちろん、何の仕事を与えるにせよ、有益ではない、とはいえないでしょう。ですが、性格的に……」
いくつかの分野の技術面では他の追随を許さない彼女。扱いを間違えなければ、国家規模で有益な働きが出来るだろう。
数十年あれば、新たな勇者召喚陣を作り上げてもおかしくはない。
有能で、国家からすれば喉から手が出るほどの価値があるとは僕も思う。しかしそれは、技術面に対してだけだ。
「無理だろうなぁ……」
「でしょう」
クロードが頭を掻いてぼやくのに、僕は同意する。
性格が悪いというわけではない。向いていないのだ。もちろん最終的には本人の意思によるのだろうが、しかし彼女は間違いなく、集団の一人になるのは向いていない。
「そのライノラット殿に連絡手段などはあるか?」
「今のところありませんね。家を訪ねるくらいで」
「訪ねられるか?」
「非番の時なら」
僕の本分は、ルルの警護だ。その最中に抜けることは出来ない。ルルを伴ってあそこに向かうか、もしくはオトフシの担当中ならば。
しかし。
「……家ならご存じでしょう?」
仮にその訪ねさせる理由がエウリューケへの伝令係ならば、僕を使う必要はない。クロードにも部下は何人もいるし、そちらを使えばいい。僕なんて経由せず。
ならば何故。そんな僕の疑問の言葉に、クロードは大げさに首を傾げた。
「何故か知らんが、ミルラ王女に固く禁じられてな。聖騎士はおろか、衛兵なんかも含めて、誰もそこに訪ねさせるなと言われているんだ」
「それは、私ならばよいと?」
「いや、言われてない。だが、友人のお前ならば訪ねても不思議ではあるまい?」
ようやく冷めた紅茶を一口飲んで、クロードは頬を綻ばせる。先ほどまでの話と違い、楽しそうな笑顔で。
「手紙とかは……」
「招待状ならば既に出した。返事もなかったそうで、清々しく無視されたようだが」
「…………」
つまり、やはり僕に呼んでこいと。人を小間使いのように。
しかし彼女、城にあげてもいい身分だろうか。
「何のために……先ほどの招聘の話ですか?」
「それについては関係あるようでない。勇者のほうだ」
「勇者が?」
「この前、勇者が魔力を投射させることに成功したというのは知っているか?」
「どこかで聞いたことある気がします」
どこかで聞いた、とは思う。勘違いかもしれないが。そもそも、今聞いただけかもしれない。
「その礼だよ。ミルラ王女が彼女をお茶会に招きたいそうだ。本来勇者が出向くべきとも俺は思うがな」
クロードは椅子の背もたれを背中で押して、椅子を斜めに揺らす。頭の後ろで組んだ手が、彼を暢気そうな顔に見せていた。
「その時は俺も同席しろだと。どうせ茶も飲めないのにな」
「そもそも誘って出席する方ではないと思います。お茶会にも、王族との顔つなぎにも興味は示さないでしょうし、勇者の成長もあまり気にはしていないでしょう」
ほとんど僕の想像、だがそうだと思う。勇者の体のデータは取り終えている。その上、気になるなら呼ばずとも来る。なのに今来ていないとしたらそこにも興味がなく、そして何も楽しいことがないのに、『行くよー』などと言わないことは想像がつく。
もしも、彼女を招く……言い方は悪いが、おびき寄せるとしたら……。
僕が考えると同時に、椅子を戻しながらクロードが僕を視線で射貫く。
「では、どうすれば来てくれると思う?」
「……興味があるものを見せるのであれば、来るでしょう」
「興味があるもの、とは?」
興味深げに、クロードが今度は僕の方へと身を寄せるように前のめりになる。
だが、多分期待には応えられないだろう。
「たとえばこの城に納められている神器、または魔道具とか」
「無理だな」
はっはっはー、とクロードが笑う。
そして、その意見は持ち帰らせてもらう、と言い残し、最後は礼儀正しくルルの部屋を出ていった。