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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
探索者

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昇進したら

 


「最後に、これから依頼を斡旋するに当たっての情報を頂いてもよろしいでしょうか」

「というと?」

「得意なことや苦手なこと、活かしたい技能や依頼に対する希望などあればお聞かせ下さい。もちろん強制ではありませんが、あればこちらも便宜を図れますので」


 紙と筆記用具を用意しながら、受付嬢は僕の返答を待つ。

 最初に登録したときの無関心さとは全然違う。これがギルド内で昇進するということか。



 しかし、得意なことと言っても、何があるだろうか。

 困った。魔法が使える、闘気が使える。レシッドから聞いた条件は満たしているものの、その他に技能と言っても思い浮かばない。


 動植物や人体に対する知識は、どの程度まで習得していれば技能として認められるのだろうか。というか、僕の人体や科学に対する知識は、この世界においてはそれなりに異質な物らしい。認められるかどうか、それすらもわからない今では、その名を出すことも憚られる。


 魔力を扱うことが出来、さらに闘気も操れる。そんな存在を未だ僕以外に確認出来ていない以上、それは大きな武器になるとは思う。だが、僕以外に確認出来ていない、それ自体が問題だ。実証自体はすぐに出来るが、それでもその機会が与えられるかわからない。それになにより、弁解がめんどくさい。

 とりあえず、魔力か闘気のどちらか……、レシッドの前で何回も使った闘気でいいか。それを使えることだけアピールして、あとは、サバイバルの経験がある。それくらいでいいだろう。


 そう少しだけ考え込み、顔を上げて受付嬢に答える。

「闘気が使えます。あと、野外での生活に慣れていますので、聖領内での長期滞在が可能です」

「そうすると、探索依頼が多めになるとは思いますが、よろしいですか?」

 ……探索依頼が多め、ということは、レシッドやニクスキーさんのような対人の依頼は少なくなるのだろう。それならば、望むところだ。

「はい。大丈夫です。素材採集の場合は場所と素材の特徴を教えて頂ければ行けますし、討伐依頼もある程度平気です」

「わかりました。ただ、最初のうちは能力や適性を測るような依頼を多く発注すると思いますので、そこはご了承下さい」

「努力します」

 力強く僕は応える。ニッと笑うと、受付嬢は頷いた。


「それでは、カラス様。これにて探索ギルドへの登録を完了します。貴方がたの活躍を心よりお祈り申し上げます」

 そう言って受付嬢は、最後にまた深々とお辞儀をした。



「登録の話は終わりですが……ああ、ちょうど来ましたね」

 受付嬢は何かに気付いたかのように振り返る。その視線を追うと、先程の男性がトレイをもって歩いてくるところだった。


「査定が終了しましたので、代金をお持ちしました。こちら、銀貨五枚ですご確認下さい」

 そう差し出されたコインを言われたとおり数え、鞄へとしまう。

「はい。大丈夫です」

 相変わらず物の相場がわからないが、魔道具でもそんなものなのだろう。

 あの懐炉を五つ持って帰ってくれば、一家族を一月、余裕を持って養える。そう考えると妥当な気がした。




 さて、これで裏昇進試験も完了だ。

 他に細々と聞いた話によると、掲示板にある依頼も中抜きされる額が少し減るようで、そちらも少し割がよくなるようだ。

 それでも石ころ屋の方が効率が良い物は多々有るものの、割に合う物も多くなったので不満は大分解消された。


「書いてある報酬部分の、貨幣を一枚増やした分増える……ってことは」

 昨日文句を言いながら眺めていた掲示板を見てみると、違う景色が見えてくる。

 ヒン草は一株当り半銅貨一枚。であるならば、今の僕なら銅貨一枚で買い取ってくれるということになる。石ころ屋よりは安いが、それでも待遇はよくなった。


 石ころ屋より安いと感じさせず、それでいて妥当だろうという報酬の依頼を探す。

 しかし、目移りしてしまって選びづらい。


 魔物の素材採取を兼ねた討伐依頼は時間がかかるものが多い。それは僕の経験上からもよくわかっている。

 目当ての魔物を探して、何日も何日も森を彷徨うこともあった。ようやく見つけても、体内に目的の物が無かったりすることすらあった。

 というわけで、魔物討伐依頼は受けることは出来るが積極的に受ける気が中々湧かない。


 それならば素材採取か。と思うが、今までグスタフさんからの指示を受けつつ採りに行っていた弊害か、どれを採ってくるのがいいか判断出来ない。

 場所を知っている物は多いが、時間効率が一番良いのはどれだろうか……。計算が面倒くさい。



 しかし、これからはこういった所から自分で選ばなくてはいけないのだ。もう独り立ちをしている。そう思うと、今ここで何か選ばなければいけない気がした。

 素材採取に限っても良いが、それでも違う依頼をやってみるべきだろう。

 魔物を狙いにいくようなものは避けて、採取以外というと……。




「……これ、行ってみよう」

 悩み、何とか手に取った依頼は、山中にある打ち捨てられた砦の掃除だ。

 紙を掲示板から剥がし、受付カウンターに持っていく。当たり前ではあるが、先程のカウンターと違う受付嬢が座っていた。


「はい。こちらの砦の再開拓ですね。承りましたが……」

 そこで受付嬢は言い淀む。

「お一人でしょうか。本来なら、何人かで組んでやっていただく依頼なのですが……」

「すいませんが、一人です。受けられませんか?」

「いいえ、そこは条件に入っていませんので……」

 そして、僕の登録証を確認すると静かに頷いた。

「失礼いたしました。問題はありません。こちらの依頼に期限はありませんが、あまりに長期間請け負ったままですと失敗扱いになる可能性もあるのでご注意下さい」

「大丈夫です。前見たことはありますが、一日で終わると思いますので」

「……わかりました。では、よろしくお願いします」




 これで受付は終了だ。初めての受付だったが、滞りなく終わって少しホッとした。


 ギルドを出て、歩き出す。これから砦に向かっても良いが、まずは装備を調えよう。

 具体的には、新しい服を買おうと思う。埃まみれを嫌がった今のテンションのままでもないと、服を買わないのだから今行くしかあるまい。

 期限は無いと言っていた。砦は、明日でいいか。



「といっても、服屋ってどこにあったっけ……?」

 服は石ころ屋でしか買ったことが無い。あまりに印象が薄いため、街では何処にあるかすらわからない。

 一つ覚えているところがあるが、そこは布を買い、ワンピースのような服を仕立てる店だ。そこでも服は買えるが、野外で体を保護する用途ではないだろう。


「武器屋みたいな店……どこにあるかな」

 そういった武器を扱う店といったら、職人達の集まる五番街のあたりだろうか。

 良い思い出は無いが、探してみるのもいいだろう。途中で見つけたら、そこに入ってもいいのだ。

 嫌な思い出しか無い街なのに、歩みに躊躇いは無かった。

 

 今日は、嫌なことが起こりませんように。



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あの懐炉を五つ持って帰ってくれば、一家族を一月、余裕を持って養える。そう考えると妥当な気がした。 妥当じゃあないと思う、魔道具は今のところ開示されてる情報からすると生産されてない理由で遺跡も無限にあ…
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