座学の時間
舞踏会の次の日、僕はルルと一緒に王城にある魔術研究棟、その一室にいた。
規模は小さいが、四段ほどの階段状になっている教室のような部屋。部屋の形的には扇形といった感じだろうか。
一段一段机が並び、中央には大きな壇がある。……昔入ったオークション会場がこんな形だった気がする。あの時よりもずっと小さいが。
その一番前の席。教壇のすぐ前に座っている勇者と、それに並ぶミルラ王女。僕とルル、それにジグはその二段上の端の席にちょこんと座っていた。
目的としては、勇者の魔術訓練の見学だ。昨日プリシラに言われてきたからということもあるが、まあまず一番は僕の興味を満たすためである。
そしてルルは、僕が行くと言ったらついてきた。さすがに一人では勇者の許可があっても見学も出来なかったようなので、ルルにより身を隠さずに入れたのは嬉しい誤算だった。
「……貴様は、団長がせっかく休みをくれてやったというのに……」
「ですから私用でここに来ています。ルル様にはご足労頂きましたが」
「いえ、そんな……」
警護としてのジグはもちろんついてきていた。僕は休みで、今はオトフシも休憩中。
……朝話していた限りでは、食事の時間と限られた隙間の時間以外はほぼジグの担当になっているようなので、オトフシもほぼ休みと言っていいだろう。
体よく全て押しつけられたわけだ。まあ、可哀想とも思うがそれこそ団長の命令なので頑張ってほしい。
ざわめきは止まない。見学は僕らだけではないのだ。僕らと同じように、部屋の中にはいくつかのグループがあり、それらがやはり勇者を見ている。三人ほどの塊が、三つ……かな。それは令嬢たちのもの。そして、魔術師らしき男女のグループが教壇の近くに数人立っていた。
そんな空間の中、一つ、咳払いの声がする。
教壇に立つその男性が、その一声でざわめきを止めたのだ。
黄色いマントに白い袖が見える。ひっつめのような髪型で、まとめた髪を全て小さな帽子のようなものに閉じ込めた彼は、三十代ほどの見た目で少しだけ神経質そうに見えた。
魔術師や治療師の例に漏れず、小柄で細身。少しだけメイクすれば老人にも簡単に変装できそうなほどだった。
「そろそろ始めてもよろしいでしょうか」
「……お、お願いします」
一瞬シンと鎮まった空間の中で、その男性が勇者に話しかける。その他の人間は一切眼中にないらしい。
「名乗りを後にした非礼を詫びます。王城魔術師長、ヴァグネル・ラルスナー、勇者ヨウイチ・オギノ様に拝謁いたします」
「……ぇと……」
ルネスが昨日クロードに取った礼と同じようなもの。こちらは男性らしくカーテシーはしないが、本を片手に、もう片手を胸に当てて会釈をする簡易的な礼だった。
それに一瞬答えられずに勇者はたじろぐが、思い出したかのように座ったまま言葉を吐いた。
「礼を、受け取りましょう……? ラルスナー殿」
自信なさげな言葉。しかしそれでも一応の挨拶は完了したようで、満足げに魔術師長は頷いた。
「今日は魔術のことを知りたいと仰られたそうで、ご足労願いまして申し訳ありません」
「……あ、はい」
「それで、まずはこちらをと、オギノ様のために私どもの使っている英雄譚……正式名称は『魔王戦役における戦史、また志士たち』をお持ちいたしました」
魔術師長は、束ねて持っていた二冊の本のうち、一冊を勇者の前に置く。
国語辞典のような分厚い本。緑色のハードカバーのような装丁で、表紙には読みづらい銀の文字が描かれている。
それは僕も一冊持っていた。紙の厚さはさすがに前世のものよりは厚いのでページ数は少ないが、中身の文字の細かさや文章の難解さは負けていないだろう。……いや、国語辞典は別に難解でも何でもないが。
「そちらは差し上げます」
「はー……」
にこやかに魔術師長は勧めるが、勇者はそれを何回かめくり、読んでもいない速度で中をパラパラと見てすぐに閉じた。
「あの、これは」
「よろしいです。読めない、との由も承っております。出来れば原文を、とも思ったんですがな」
まだほとんど何も話していないというのに、自分用らしい英雄譚を教壇の上の大きな机に置き、疲れたというような溜息を小さく吐く。呆れ、ではないと思う。
「先に申し上げたいのですが……」
「…………」
「私どもには、オギノ様へと魔術教育を施す準備がございません。そのこと、ミルラ様から伝わっておればよろしいのですが」
「それは……あの……、聞きましたが……」
え、と思わず僕は声を出しそうになった。表情には出してしまった。
王城魔術師は、魔術ギルドからの出張組織と言ってもいい組織だ。当然、魔術の研鑽を行い、研究の成果物を共有し、時には互いに教育し合う魔術ギルドの機能も併せ持っている。
騎士団とは別組織だが、兵としての魔術師団を組織し、その教育も一部受け持っている。そんな彼ら、その最上位が、準備がない、と……?
「なら、あの皆さんはどうやって……」
「魔術を扱うのは、まず魔力使いでなくてはいけません。そして魔力使いかどうかは、七才ほどまでにわかってしまうのです。遅くとも、十才を越えて魔術師になる例は未だかつて存在しない」
魔術師長は教壇の上で机に手をつき寄りかかる。想像だが、まるで大学教授の授業のように。
「当然、魔力使いはその時には既に体内の魔力を操ることが出来る……その巧緻性はともかくとしてね」
魔術師長が、掌を上に向ける。そして小声で、呟くように声を発した。
「根源にして滴る水よ我が手に宿れ。形取るのは完全なる円。《水球》」
呪文を発すると同時に、掌の上にわずかな水滴が浮かぶ。そして言葉を続けていくうちに、その滴が踊るように動き回り、大きくなり、そして握り拳よりも大きな玉になった。
水晶玉のような純粋な水。それが、震えるような波紋を作りながら魔術師長の手の上に収まった。
「そして、呪文を覚え、その効果を発揮できるのはその後早い者でも数ヶ月、遅い者では年単位でかかります。よろしいですか? 現在オギノ様は、魔力使いですらない」
「いえしかし、お、私も魔力を持っていると」
「そのようですね。そちらは、タレーラン団長から報告が上がっています。しかしまだ、制御が出来ていない」
ふと力を抜いたように手を落とすと、魔術師長の水球はまるで支えを失ったかのように形を崩し、そして床に落ちるまでに蒸発するように消えていった。
「故に、難しい。それだけは覚えておいてもらいたい。よろしいですか? オギノ様は、……たとえ勇者であれども、簡単に魔術を行使できるようにはなれないでしょう。私はそう思います」
「…………」
まあ、そういうことか。
僕は少しだけホッと胸を撫で下ろす。
要は、前例がないから育て方が存在しない。だから無理ということでもないが、難しいだろうから覚悟しておけ、ということだ。
無理だから諦めろ、という方向に話が進まなくて良かったと思う。僕の勘ぐりすぎか、それとも魔術師長の話し方の問題かわからないが、紛らわしい。
少しだけ俯いた勇者が、顔を上げて声を上げる。
「だったら、あの、以前いた勇者は……」
「勇者様……失礼、先代の勇者様は魔術の行使はなさいませんでした。そのことも含めてお話ししましょう」
ふと魔術師長が周囲を見る。初めて、といってもいいが、それでも居並ぶ僕たち『令嬢様ご一行』を牽制するように見た。
それから一瞬忌々しげに目元を歪めたが、その視線もそこそこに勇者に向かう。
「魔術ギルドの門を叩いた三等魔術師以下……位階を授かる以前の魔術師の卵たちが最初に学ぶのは、この先代勇者様も登場する英雄譚です。それこそ暗唱できるように」
魔術師長は言葉を切り、端で待機していた魔術師らしき男性に視線を投げる。見られた魔術師は、どきりと肩を震わせているように見えた。
「百三十五頁、紡績」
「……それは糸のように固く結ばれた。解けることはなく、赤い糸の肉は地面に倒れ伏した。小鳥のたかるそれを眼前にしてウルは二本の歯を見せる。その……」
「よろしい」
まだまだ続く文言を魔術師長が止めると、魔術師はホッと息を吐く。
躓いていたわけでもないが、自信がなかったのだろうか。
「それは、どういった意味で学ぶのでしょうか」
「魔術の効果と実際に使われた場面の暗記ですな。……もっとも、たとえがよろしくなく申し訳ないが、さきほどのウルの節の記載は我々の間でも解釈が分かれていまして、どういった魔法を使っているのかわからんのですが」
「魔法が、……わからない?」
「赤い糸が何を表しているのか、ウルがどういった動きをしているのか、ということです」
今度は魔術師長は、右の人差し指を立てる。
「蝋を呑み広がる炎よ我が手に宿れ。原初の炎、初めの初め、《種火》」
そして詠唱が終わると、無重力空間で見られるという球状の炎が指先に現れる。今度はビー玉サイズと小さいが、オレンジ色のそれはきちんとした炎として揺れていた。
「こちらは?」
そしてまた魔術師の集団を向いて、今度は視線からして左から二番目の女性に向かって問いかける。質問も曖昧だが……。
「ご、五十三頁、敵地での野営、です」
「よろしい」
女魔術師の答えに満足げに頷き、魔術師長はまた勇者の方を向く。
「『ここが最初の地だと彼は言った。火口に指先を近付けると、彼は丸い温かさで満たされた。そうして彼は食も明かりも手に入れる』という項です」
「……だから、指先で?」
「飲み込みがよろしい。この術の肝要なところは、指先に火を灯すということ」
魔術師長が火を握りつぶすように指を閉じる。するとまた、たちどころにその火は消えた。
「魔法とは、各個人によって違うもの。しかし『術』たる魔術は、魔術師ならば全ての人間が使えて然るべきもの。そのために、魔法の根源を明らかにし、その要素を抽出するのが魔術師たちの研究であります」
ビシ、とまるで見得を切るように魔術師長は姿勢を正す。
その言葉は少し格好いいとも思うが、しかしその研究方法は……。
「故に、よろしいですか? まずは四書八編の英雄譚を諳んじられるようになること。それこそが基本であり、発展であり、大魔術師に近づく唯一の方法なのです。……ですが」
だがそこまで言うと、魔術師長が首を横に振った。
「……ですが……文字が読めねば先人たちの知恵に近づくことは出来ません」
「…………」
勇者の隣にいるミルラの足が、後ろから見ても不機嫌そうに揺れる。前から表情が見えれば更にそれははっきりと映るのだろうが、魔術師長はそれを見ているだろうか。……見てないな。
「先代の勇者様も、文字を読むのには大分苦労されたそうで。文献によれば、魔王戦役を終えてしばらくしてようやく片言で読めるようになったそうです」
「じゃあ、先代は、魔術は……」
「使えなかったそうです。竜の血を吸う剣を用いて大地を溶かし、魔物の牙を魔物自身に食い込ませ、天と地を分けるほどの斬撃を用いたとされる勇者も、彼はただの魔法使いだった」
ただの、と強調された気がする。そしてその際に、こちらをちらりと見た気もする。自意識過剰であってほしい。
「オギノ様はおそらく読めるのでしょう。彼の名前の読みは憚り伝わっておりませんが、数々の資料で彼の使っていた文字はいくつか、……特に、その名前は伝わっております」
また魔術師長が指先に魔力を込めて、呪文を呟く。
エウリューケが以前やったように、その指先に光が浮かんだ。
「みとり……いや、しま……? なおみつ……?」
「私には恐れ多く、その名を口には出来ません。しかし、そういった文字の知識もおありだったために、かえってこの世界の文字は読めなかったのでしょう」
三島直光、かな。鳥と島が混同されている……というよりも、れんがとやまの区別がついていないのだろう。他の文字も若干あやふやだし、この魔術師長もきちんと覚えられていないのだろうと思う。
漢字。久しぶりに見たが、この世界の文字とは全く違う。……何故だろうか、随分と懐かしい。
「だから先代の勇者様は魔術が扱えなかったんですか? ……俺と同じように」
「それもあります。しかし、それだけではない」
魔術師長は、持っていた英雄譚の表紙を叩く。
ああ、なるほど。
「魔術ギルドが発足され、私たちの学んでいる魔術が体系化されたのは、魔王戦役後のこと。それ以前は今はほとんど資料の残っていない古来魔術と呼ばれるようなものが、細々と各地に受け継がれていただけなのですよ」
「そもそも魔術がなかったということですか?」
「そう捉えてもよろしい。もちろん、先代勇者に付き従った『獣人』ドゥミ・ソバージュは魔法使いにして古来魔術師でもあったので、そちらから教授されたものはあったようですが」
ここでドゥミの名前か。
先代勇者に付き従い、魔王を打倒した仲間たち。『獣人』ドゥミ・ソバージュに『妖精』アリエル。さらには『聖女』フィアンナ……だったっけ? それと『武闘家』もいたと思うけど……女性に偏っている気がする。
今の勇者と同じ気苦労でもあったのだろうか。三島さんにも。
「話を戻しますと、よって先代勇者が魔術を使えるようになったということはなく、そしてオギノ様が習得なさるという保証は出来ない。改めて、よろしいでしょうか?」
「何か手立てはないのでしょうか?」
勇者が答える前に、今度はミルラが声を上げる。魔術師長は不満げにじろりとそちらを見ると、わずかに溜息をついた。
「まずは、体内魔力の巧緻性を引き上げる訓練から、でよろしいでしょう。魔力を持つとして魔術ギルドに加盟しても、自分では上手く魔力すら扱えない者もいる。そういう者のための訓練です」
「魔力の投射ならば、既に出来ると……」
「魔法使いは手足のように、魔術師は道具のように」
本を立てて上下させ、それで魔術師長は机を鳴らす。ミルラの言葉が止まる。
「意識的に行えなければ意味がない」
本が、まるで裁判官の持つ木槌のように見えた。
「香室の準備を」
「はい」
魔術師長に命令された部下が、頭を下げて部屋を出ていく。
それを見送りつつ、勇者は魔術師長に問いかける。
「何をするんですか?」
「簡単に言えば瞑想です。ただし、これから香を焚きますので、しばしお待ちいただきましょう」
「香?」
「精神を落ち着かせ、内なる感覚に耳を澄ませるのによろしい。アウラで採れた竜涎香を」
勇者と魔術師長の問答を見ていた僕。
ふと僕に向けた視線があることに気が付く。
「……?」
「聞いたことないのですけれど、そういう香が?」
その視線に応えるように顔を向けた僕に、ルルが問いかけてくる。知らないのだろうか……と思ったが、それはむしろ僕の専門か。
「ええ。アウラの方で、呑雲という魔物から採れるものです。持っている個体も少ないので、価値があるとか」
呑雲は、よくは知らないが羽の生えた鯨らしい。
価値の方は受け売りだ。見分け方も匂いも習っているし、参考としてグスタフさんに見せてもらったこともあるし、多分見分けはつくと思うが。
たしか前世ではマッコウクジラから似たようなものが採れたと思う。
「ただ、安息の効果はあったと思いますが、そういう用途は知りませんでした」
たしかに感覚は少し鋭くなると思う。ただ、目は多分鈍る。
そしてその感覚の鋭さも、少しばかり不快な程度にはなる。目を閉じても、眠れなくなる程度には。
「しかし瞑想ですと、ここから先の見学は出来そうにないですね」
大人数の見守る中で、というとそれだけで難しくなるものだろう。僕も出来ないし。
そもそも僕は、そういう修行もなしに魔力を扱っているということもあるが。
「ただじっとしているというあれですものね。……私ああいうの苦手です」
「そうなんですか?」
「ぼーっとしているの苦手なんです。頭が空に出来ないというか、だからついつい暇になると本とか読んでしまうんですけど」
唇を引き締めて、自分に呆れるような顔でルルは呟く。
「……昔なら、やることなんていっぱいあったのになぁ……」
「本を読むの、嫌いですか?」
ぼやくルルに、僕は密かに伸びをしながら言う。魔術師長の話はそこそこ興味深くはあるが、黙って聞いているのには肩が凝る授業だった。
ルルの悩みがどうでも良くはないが、それでも話を切り出すのにはちょうどいいか。
「そんなことはないですけど」
「僕……私も結構好きなんです。読み終わった本があれば、貸していただきたいですね」
暇つぶしにはちょうどいいだろう。多分ちらりと見た感じ、難解な歴史書が多かったと思う。しかし、何かの戯曲もあった気がする。写本だろうし、価値的にはそうないし……駄目だろうか。
「もっとも恥ずかしながら『お勉強』的なものは苦手なので、物語のあるものでお願いしたいですが。私、明後日まで仕事はありませんから」
貸してほしい、と告げた僕を、きょとんとした顔で見ていたルル。しかし、僕が言葉を吐き終えると、クスと噴き出すように拳を口に当てた。
「では、後ほど……」
「お願いします」
了承は得たと、僕は椅子に座り直す。
これで王宮書庫から本をくすねる必要もなくなったわけだ。面倒ごとの種は、少ない方がいい。
「残念ながら」
「む、無理なんですか?」
座り直した直後、勇者が少しだけ声を上げる。抗議というか、驚きのような声。聞いていなかったが、何だいったい。
「《壁透かし》……と私たちは呼ぶ事象で、歴史上もまま使い手は現れますが、資料がほとんどないのです」
「でも、あったんですよね?」
「スヴェン・ベンディクス・ニールグラント……現在確認されている使い手も存在します。彼を捕らえ……いえ、彼に協力を仰げれば何とかなるかもしれませんが。また、遠く離れた位置へと移動する《空間転移》は現在研究中ですが、ほぼ不可能と言ってもよろしい。もしも出来る者がいるとしたら、それこそその者は英雄譚のさらなる一頁となるでしょう」
「ましてやそれを同時に行えるようになど……」と言いながら、魔術師長は首を横に振る。それを見て、「そうっすか」と落胆した様子で勇者は肩を落とした。
何だろうか。
そこから先に一応、と解説を加える魔術師長の話を僕なりに聞けば、勇者は壁をすり抜けるようにして別の場所へ行く門を作りたいらしい。
空間転移の門はわかるが、壁に埋めて見えないように隠す必要などあるだろうか? 戦争中の抜け穴とか?
ガラリと教室の……いや、教室でも何でもないが、それでも教室の扉が後ろで開く。
「準備整いました」
「よろしい。では、勇者様も」
促し、教室にいる僕たち部外者に向けて、魔術師長は咳払いをする。
「申し訳ないが、ミルラ様も含めてこれから先はご遠慮いただきます。魔術ギルドの秘術も含む修行内容故に」
まあ仕方ないだろう。座学の時間は終わりか。
「よろしいか?」
誰も返答しないまでも、了承の空気が部屋に満ちる。それからまた勇者を促すと、勇者を伴い魔術師長は教室を出るべく歩き出す。
勇者も僕たちの横を通る。そんな彼に、僕は口の動きで応援の言葉をかける。
「頑張ってください」
その言葉が聞こえたのかはわからないが、ともかくとして、勇者はこちらを見て自信なさげに頷いた。