ギルドで評価されるために
不穏な言葉に警戒心が惹起される。
「怖いんで、ひとまず他の依頼に慣れてからにして下さい」
「構わねえけど、お前、その他の依頼が不満だったんだろ?」
「そうですけど……」
たしかに、報酬に不満はあった。
しかし、まだ一つも依頼を受けていない僕が、昇格というのも違う気がする。
というか、昇格って何だ。
「そもそも、昇格って何ですか。一応、ギルド員に役職や格付けは無いはずですが」
そんなことは規則集には書いてなかったし、登録の時の説明にも無かった。登録の時に、ろくな説明を受けた記憶も無いが。
もしかして、実は何かランクでもあったりするのだろうか。
「明確なものは確かに無え。けど、ギルドから依頼斡旋される奴とされない奴がいる。そういう区別はされてんだよ」
「そういうのは、普段の働きぶりとか見て決めるもんでしょう」
「ジジイのとこにいた割には、ずいぶんと優等生な答えだな」
ハン、と鼻で笑うレシッド。そういうのはいいから、答えを教えてほしい。
「考えてもみろよ。働きぶりってのは、どう評価してんだ? 依頼を受ける頻度か? それとも、客からの評判か? 達成した依頼の難易度か?」
「そういうのもひっくるめて、総合的に……」
例えば依頼にポイントを設け、そのポイントの取得状況によってとか、取引金額によってとか色々とあると思う。
「そう思っても仕方ねえよな。でも、探索ギルドは違うんだ」
「評価部門が無いとかでしょうか」
そういうのを集計する係がいないとか……。すこし無理があるかな。
「探索ギルドの発足理由は、『遺跡の探索をして魔道具を集めてくること』だ。依頼なんざ、後付けなんだよ」
「その発足理由はもう、形骸化していると聞きましたが」
「ジジイにか?」
「ええ、まあ」
僕は頷き、グスタフさんとの会話を思い出す。遺跡はもう探索されつくし、魔道具の発掘もほぼ無いと言っていた。
であるならば、もう遺跡探索をする意味も無いだろう。
依頼により動く、今の形態に移行したというのも納得出来る。
「形骸化しているのは正しい。だがそれは、金稼ぎに関してだ」
「金策以外の理由……。まさか、能力の査定……」
「察しが良いじゃねえか」
レシッドは満足げに笑う。僕を乗せられたのが嬉しいのか。
「依頼を斡旋される探索者になるには、二つの条件がある。一つは闘気、もしくは魔力を扱えること」
突き出した手の親指を曲げて、レシッドは僕に示した。そして次に、人差し指を折り曲げながら続けた。
「もう一つが、魔道具をギルドに売却することだ」
「売却、ですか」
発掘してくる、ではなく。
「発足当時、魔道具を発掘してきてもギルドに売らない奴らがいたらしい。何故かはわかるよな?」
「便利な道具なら、まず自分で使うから、ですか?」
「そうだ。勿論、そうすりゃまた探索も捗るし、上手く回れば利益が上がる。別にそれ自体は間違っちゃいない」
肯定はしているが、この話の流れだ。何か欠陥があったんだろう。
そう思ったが、問題は考えなくても明白だった。
「でも、もしもそこで独占してしまえばギルドの利益にはなりません」
「……ギルドのほうにも何か利益があれば良かったんだろうけどな。そういう奴ばかりになって、ギルドの運営に差し障るようになった」
「だから、取ってくる探索者よりも、売りに来る探索者を優遇するようになった」
「そういうことだ。それはもう遙か昔の話だが、それが連綿と受け継がれてきて、あの様だ」
レシッドは意地悪く笑いながら、掲示板を指さす。
「じゃあ、かなり中抜きされてるんですか」
「かなーりな。あの掲示板の依頼だけなら、ギルド側は高笑いが止まらないだろうよ」
それであの報酬の安さに繋がっているのか。
「なるほど。では、さっき言っていた裏昇格試験というのは……」
「非公開の審査だから、裏。待遇を上げる条件を達成、だから昇格試験。間違っちゃいないだろ?」
たしかにそうだが、それでは試験とは言わない。しかし、それを指摘して機嫌を損ねては面倒だ。
僕は黙って頷いた。
「つまり、僕に魔道具を手に入れてこい。と」
「そうすりゃ、もっと条件の良い依頼が入ってくる。やらないほうが損だろ」
「そうですね」
それならば、依頼の合間に出来ることだ。
だが、そうすると次の問題が湧いてくる。
「魔道具の入手って、買ってきちゃ駄目ですかね」
「探索で手に入れたもんじゃねえと意味がねえから、さすがに駄目だろうなぁ……」
頭をボリボリと掻きながら、レシッドは応える。
ならば、遺跡の探索に行くしかないが、魔道具が残っている遺跡なんてあるんだろうか。
「でも、採りつくされているというのなら、もう魔道具は探索で手に入らないでしょう?」
「もしそうだったら、俺はこんな提案しねえよ」
「まあ、そこまで意地悪くはないですよね」
ジト目で見ると、疑われたことが不本意そうに唇を尖らせた。かわいい系の顔ならばいけなくもないだろうが、ワイルド系の顔でそれをやられても似合わない。
「探索者だけが知っている遺跡がいくつかある。難易度は高いが、そこなら何とか手に入るだろう」
「グスタフさんが知らなかった遺跡ですか!?」
僕が驚いて反応を返すと、レシッドは楽しそうに笑う。
「ギルド内部で秘密にしてっから知ってる奴は外部にはいねえんだよ。探索者で知らない奴も多いしな。それにしても、やっぱりジジイも知らなかったか、そうか、そうか」
内心舌打ちをする。
ここまで聞いてようやく気がついた。僕の言動から、グスタフさんが探索ギルド内の情報を持っていないとレシッドは判断したのだ。
グスタフさんの評判を、僕が不当に下げてしまった。
小さな事だが、少し胸の中がざわついた。
グスタフさんがあえて僕に言わなかった可能性もある。知らなかったとするのは早計だった。
治療師達の内部事情を知らなかったこともあったから、探索者についても知らなかったのかもしれない。いや、ニクスキーさんもいるのだ。
やはり、あえて僕には言わなかったのだろう。
ヒヒヒと笑いながら説明を続けるレシッドの頬を張りたくなったが、堪えよう。今のは僕の失言だ。
「……その遺跡を知らないのに、魔道具を入手出来る人もいるんでしょうか」
ふと気になった。知らない探索者もいるということは、あえて広めていないのだ。もしそうであれば、新米探索者が上に行ける可能性はほとんど無い。
「いねえな。だから、この情報を先輩に聞くのが第一の壁だ。今日俺がいてよかったな!」
バンと肩を強く叩かれる。悪意ある物ではなく、その痛みも少し心地よかった。
なるほど。急な話だったが、決心はついた。
「じゃあ、場所教えてもらえますか? 他の依頼のついでに取ってきます」
挑戦してみようじゃないか。裏昇格試験とやらに。




