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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
副都イライン

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運命は追ってきた

 


 とはいえ、出来ることはそう多くはない。

 単純な魔法では、肌に触れただけで溶けてしまうだろう。



 距離を取り、火球をいくつも打ち込んでみる。

 鬼がゆっくりとこちらに振り向くのに合わせて、顔を狙う。


「グルアアアア?」

 やはり、顔に到達する前に溶けるように消えてしまう。

 それでも目隠しにはなるようで、何発も打ち込みながら僕は背後に回る。


 では次に、狙うのは首だ。

 鬼の形は人間と同じような物だ。ならば、人間と同じ急所があってもおかしくはない。


 背後の木を足場に使い、後ろから全力で叩く。

 闘気を活性化すると、右腕の鎮痛が解けて、痛みが戻ってきた。


「っ……!」

 しかし、そんなものは気にしていられない。

 痛みを気にして殺されてしまっては、元も子もないのだ。



 首と僕の拳の激突。

 やはり、勝ったのは鬼の首だった。



 僕の腕がミシリと音を立てた気がした。

 肩まで届く強い衝撃に、僕の体勢が崩れる。


 そしてそこに、鬼の豪腕が振われた。


「ガアアアァ!」

 咆哮と同時に、僕の腹部を強い衝撃が襲う。

 一応、反応は出来たが、ガードとして挟んだのは同じ腕だ。

 罅がまた広がった。




 僕の体が後方へすっ飛んでゆく。

 スローモーションで景色が流れる。空気が濃い。視界が眩しい。

 そう時間もかからずに、僕の背中が木に激突する。

 何故か衝撃は感じなかった。





 一瞬視界が暗くなる。そして、すぐに目が覚めた。

 やばい、きっと意識を失っていた。記憶が少し飛んでいる。


 見れば、鬼との距離がだいぶ離れてしまっている。間には、いくつも木が倒れていた。

 きっと、僕が飛ばされたときに激突した木々だろう。

 しかし、何本も木を突き破って飛ばされた割には、体に痛みはない。


 闘気の強化のおかげで、あまり損傷も無いようだ。戦闘は続行出来る。

 そう思ったのもつかの間、立ち上がった僕に異変が起きた。


「……ゴボッ…………」


 口から何か溢れてくる。

 粘り着くその液体を手で受けると、それは血の塊だった。


「うわぁ…………」

 鉄の匂いのする口から、呟きが漏れた。

 久しぶりに感じる、明確な死の予感。

 ここに至るまで、きっと僕は真剣に考えていなかったに違いない。


 何が、「デンア達が来るまでに狩る」だ。

 そんな手立ても無く、ただ強がっただけじゃないか。




 自責の念が湧き起こる。

 やはり、逃げていれば良かった。

 レシッドを見捨て、一人で逃げればきっと逃げ切れただろう。

 僕が死なないために行動するべきだった。そのためなら、犠牲など厭わずともよかったのに。



 歩いてくる鬼が視界に入る。

 そうだ、逃げていればこんなに怖い敵と戦わずに済んだのに。

 索敵なんて出るんじゃなかった。

 一目散に逃げていれば、レシッドも僕も無傷でイラインへと帰れただろうに。


 この戦闘自体が、無駄だったのだ。




 気付けば、弱気な考えが頭を支配していた。

 違う、そうではない!


 頭を振って、考えを打ち消す。

 そうじゃないだろう!


 何を諦めているんだ。

 今考えるべきは、目の前の鬼を倒す手段だ。

 後悔や反省など、終わってからいくらでも出来る。だからまずは、生き残らなければならないのだ。そして、目の前で嫌な笑みを浮かべる鬼の奴の顔を、苦痛で歪めてやる。そこまでやってようやく及第点だ。


 こんなところで諦めるなど、僕失格だ。

 諦めるな。

 デンア達が来るまでに倒すと決めたじゃないか。




 血に塗れた手を力強く握り、自分を叱咤する。

 その視線に何を思ったのか、鬼が走り出す。また、こちらに向かって一直線に走ってくる。


 今度は、止まらない。



「……!」

 もはや声も出ない。超高速のタックル。

 まともに受けた僕ははじき飛ばされた。


 草むらを背中で滑り、藪に突っ込んで止まった。

 痛い。


 痛みを取り除こうにも、鎮痛魔法を使ったところで、闘気を帯びればすぐに効果は切れるのだ。無駄だ。

 治療しようにも、その時間はなさそうだ。

 今度は追撃が来る。


 僕の頭のあった位置を正確に捉えるストンピング。足が地面に突き刺さり、小さなクレーターが出来た。

 間一髪躱すことが出来たが、当たれば死ぬ。

 慌てて跳ね起き、距離を取る。

 が、それも逃げられない。

 飛びかかってくる巨体から振われた拳は、僕の体を地面に叩きつけた。


 トランポリンのように体が跳ねる。

 もちろん地面は硬く、跳ねたのは僕の体の弾力によるものだ。


 当然、痛いはずだ。

 しかしその痛みは、すぐに訪れる次の痛みによって相殺された。



 また横腹に木が激突する。いや、激突したのは僕の方だ。

「~~~~~~~!!」

 嘔吐物が吐き出される。血が混じるそれは、内臓に損傷があることを明確に示していた。



 全身が痛む。

 もはやどこが痛いのかもわからず、むしろどこも痛くないとさえ思える。

 そのくせ、体に力が入らない。

 地面を掻きむしるように握られた手には、何も握られることは無かった。




 ……離脱せねば。それだけ思った。


 萎えた四肢はもう頼りにならない。

 飛行して逃げよう。


 とりあえず、煙幕を張る。そのために、大量の火の玉を用意した。

 先程と同じ手だが、今はこれしか浮かばない。

 ありったけの火の玉を、鬼の頭部に打ち込む。

 視界が遮られるならば、それでよし。何かの間違いで、傷が付けられればそれは嬉しい誤算となる。


「アアアアアアアアァァァァ!」

 しかし、そんな嬉しいことが当然起きることもなく。

 鬼が一声叫ぶと、鬼に殺到しつつあった火の玉が弾ける。

 デンアのように攻撃で散らしたわけではない。

 叫ぶと同時に、闘気が波のように広がったのだ。それを受けて、火の玉は掻き消えた。


 闘気の拡散。そんなことも出来るのか。

 焼け付く喉が気になる今でも、僕はそこに感心していた。



 それにしても、飛行で逃げるという案も潰されたようだ。

 本当に手詰まりだ。

 苦笑いしか出ない。




 ゆっくりと、死が鬼の形をして歩いてくる。

 体が動かない。

 考えてみれば、生まれてすぐに犬に襲われたのもこの森だった。


 あのときは魔法のおかげで生き延びることが出来た。

 今度は、魔法でもどうにもならない。


 

 空が青い。

 あれから約六年。あの時から今までが、猶予期間のようなものだったのかもしれない。

 本当は、死ぬのが運命だったのかもしれない。

 魔法で何とか生き延びてしまったために、死の運命が力を増してまた迫ってきたのだ。



「アハハ……」

 失笑が漏れた。

 運命。そんな妄想が溢れてくるほど、追い詰められているのか僕は。


 というよりも、かなり情緒不安定になっているらしい。

 何を諦めている。

 僕はもっとあがけるだろう。


 野犬に襲われた時を思い出せ。

 諦めなかっただろう。まだ魔法も無く、何も反撃の手段が無かったあのときでさえ。




 手が伸びてくる。

 僕の頭をひしゃげようと。僕の命を奪おうと。


 ふざけるな。

 まだ、終わっていない。まだ、出来ることはある。


 腰の鞄から、解体用の小刀を探り出す。

 闘気で強化し、鞘ごと鬼の掌を貫く。鞘が割れ、刃が手の甲から突き出した。




「ギイィィィィィ!」

 初めて聞いた、鬼の悲鳴。


 ナイフを通した僕の渾身の力は、鬼の皮膚より強かったようだ。





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