表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
勇気の証明

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

470/937

工夫を重ねて




 蝋で固めた翼はない。

 僕の足がふわりと浮き上がる。いつもの空を飛ぶ感覚。エネルジコがこれを求めているとしたら、何となく申し訳なくなってくるけれど。

 暑い熱気を切り開くように、少しずつ高度を上げていく。

 すぐに簡単に街が見下ろせるところまで来た。エネルジコの作業場も同じ高さだ。


 それから下を見て、人を探した。

 少しだけ判然としなかったが、それでもこの高さから見れば探している人物の居場所はよくわかる。

 僕を見失い、それとなく僕のいた辺りを探っている人物。見た目は細身の男性……、いや、女性だろうか? フード付きの木綿らしき外套で顔や体型を見せないようにしているが、なんとなく腰にくびれがある気がする。

 まあ、彼もしくは彼女の仕事の邪魔をしたようだが、実際に彼らの仕事に関わることはないし別にいいだろう。

 エネルジコの監視員は怪しく潔白な僕を監視しようとし、見失った。それだけだ。



 視線を下から上に向け、目指すべき標を見る。

 

 もはや上空といわれている場所に来ているのだろうが、全く近づいた感じがしない。

 だんだんと濃くなってきた空の色。そこに溶け込むように黒っぽい標が見えづらくなっているが、しかしそれはたしかにそこにある。

 そんなに遠くにあるのだろうか。



 この暑い国にあっても上空はそれなりに気温が下がるらしく、生温い程度の風になってきた。強い風に僕の髪の毛が乱れる。

 もはや街は見えず、ただのオレンジ色の砂漠が眼下に見えた。

 

 しかし、不思議な感覚だ。

 もう上を目指し始めてから随分と経つ。リドニックで高い山を登頂したときよりも既に高い位置にいるだろう。

 雲がないため判別しづらいが、それでも上昇は続けている。

 それなのに、未だ空の青みが残っている。

 たしか地球では、高度一万メートルを越えると上空はもう黒くなり始めるはずだ。だが、ここではそれがなく未だに真っ青の天上のまま。地平線らしきものも見えるが、その大きさも変わらない。まるで地面から離れているとは思えないほど。


 もしかして、標も月と同じ類いのものだったのだろうか。

 そこにあるように見えるだけで、本当はそこにはないもの。


 そう考えたが、次の瞬間にはその考えも否定される。近づいた魔術師もいたはずなのだ。そして彼らは雷に打たれて亡くなった。

 エネルジコの部屋で見たスケッチは、きっと近づいた魔術師が描いたものだろうと思う。

 

 しかし、ならば近づけてもいいはずなのに。

 まだ上を見ても標は小さいままだ。

 ……いや、若干大きくなってきている……かな? それこそ誤差くらいの範囲な気もするが。


 戻ろうか?

 そう思えてきた。それなりに高いところまで飛んで未だに到達しないのだ。

 まだまだきっと遠くにはあるし、到達する頃には日が暮れているかもしれない。もう、この辺りに用事などないのに。

 止まりかけて、手が宙を掻く。それから完全に静止すれば、大地も空も単色で、ただ僕がぽつんと頼りない足場に立っていた。反作用のない念動力で体全体を持ち上げているから、足場でもないけど。

 

 戻るか行くか。このまま進んでも、正直何も得るものはないと思う。この世界における不思議なもの……ではあるが、それを僕が見ても詳しくはわかるまい。

 ここに来るべきはエウリューケやモスク、エネルジコたち探究者だ。死んでしまったアブラムも含めて、本当は彼らのような人が。

 

 ならば、戻ろうか。

 この念動力を切れば、僕の体は大地に引かれてストンと落ちていくだろう。そうすれば手間なく戻れるし、墜落直前にまた浮遊すれば怪我もしまい。

 大地から離れただけで、僕は不安になっているのだろうか。そんな誘惑が心に溢れた。


 だけど。


 僕は手を握る。

 せっかくの機会なのだ。

 何をすればいいのか漠然としていた僕が、気になった。それだけで、僕があそこを目指すのにはきっと充分な動機だ。

 何も得られるものがなくとも、行く。

 そう決めたのだ。そうしよう。



 

 まだ進む。もう既に、視界の中は真っ青だ。

 雲一つない視界。多分気圧は相当下がりつつあるのに、空の濃淡の変化もほとんどなく、聞こえる音も風と僕の衣擦れだけ。

 なんだか、リドニックの雪原でも似たようなことを感じた気がする。

 まるでこの世界に僕だけしかいないような感覚。こんなに騒がしい世界なのに。


 

 それからもしばらく飛ぶ。

 無心になりつつも、ぼんやりと僕は考える。


 そういえば、今は空にいて、眼下に見えるのは大地だけれど、その境目はどこなのだろう。いや、大地とそれ以外の境目は明白だ。だが、空とそれ以外は。

 今僕は空にいる。それも明白だ。

 でも、その『空』というのはどこからなんだろうか。

 上は宇宙までだろう。この世界にも宇宙があるのかはわからないが、とりあえず月もあるし多分ある。薄くはなっているし、空気がなくなるまでと考えてもいいと思う。

 だが、下は?

 地上何メートルから空か、というような明確な基準はあっただろうか。


 地上から見上げて、上にあるのは間違いなく空だろう。だがエネルジコの作業場のように見上げる高さの建築物もある。その建築物が空にあるともいえないだろう。

 仮に、エネルジコの作業場が何らかの作用で宙に浮かんでいれば、それは空にあるといってもいいかもしれない。しかし、浮かんでいれば空にいるというのも多分違う。やはり距離が必要な感じがする。少し跳ねただけで空にいるということにもならないと思う。


 ……結論はきっと出ないし、議論にもならない。益体もない話だ。

 だが、人間無心になるとどうでもいいことを考えてしまう。そんなことを思って、僕はふと笑った。

 



 それでも近づいてはいたらしい。 

 標の八面体がだんだんと大きくなってきていた。上昇する速さはあまり変わってはいないはずだが、大きく見えるようになる早さは増している気がする。これは視差とかそういうものの関係だろうか。

 比較物がないので距離も大きさもわからないが、それでも表面の柄まで見えてきた。エネルジコの研究室にあったスケッチと同じような、黒い石のような表面。そこに刻まれた幾何学的に広がる白色の溝のようなものまで。

 

 これは、そろそろ警戒すべきだろうか。

 僕は魔力を再度展開し直し、プリシラ除けに少しだけ考えてあった魔法を使う。

 障壁もあるが、これで効果があればいいけど。





 もう少し近づけば、ようやく大きさも推定できるくらいにはなってきた。

 なってきた……が、……。

「大っきいなぁ……」

 僕は空中に体を預けるように静止し、見上げながらぼやくように呟く。本当に大きい。おそらくまだ山一つ分は離れているのに、首を動かさなければ全体像が見えない。

 

 とりあえず観察はしてみても、可動部分は見えない。宙に浮かんではいるが、プロペラなどで揚力を得ているわけではないらしい。

 そもそも、今のところ開口部も見えない。正八面体のような黒い石に刻まれた、白いひび割れのような溝は、やはりただの溝のようで中に入れそうなものでもなかった。

 

 どこまで近づけるだろうか。

 一応もう目の前にあるので、雷とやらが飛んできてもおかしくはない。障壁で防げる規模だといいけれど。

 ここからはゆっくりと近づいていく。障壁を張り、電撃に備えながら。


 そして、もう標への着陸がすぐそこにまで近づいた頃。

 轟音が響いた。




 ガン、という鋭くとても大きな音とともに視界が真っ白に染まる。


 それは全力ではないがそれなりに力を入れて張った障壁に浸透するように伝わり、僕の体を黒く焦がす。

 それから炭のように縮んだ体が、地面に向けて落ちていき……。

 

 僕の魔力圏を出たところで消滅した。


「本当に雷だった……」

 僕の口から感嘆の言葉が漏れる。

 僕は消えた囮の体から得られた情報をいくらか精査する。

 雷を受けたのは対プリシラに作ってみた擬人体だが、素材の耐久的には僕の体と変わりない。それが黒焦げになって落ちたということは、僕も同じ程度の障壁ならばそうなるはずだ。


 魔術師が打たれたということは、とりあえず生物には反応するのだろう。けれど、反応するのは生物に対してだけだろうか?

 僕は背嚢から一枚の貨幣を取り出す。適当に手に取ったのが銅貨だがこれでいいや。


 銅貨を標に向けて投擲する。石相手ならば食い込むくらいの速度だ。

 飛んでいった銅貨は、やはり今僕の体が打たれた辺りで雷と衝突し、破壊された衝撃で落ちていった。

 雷の出所は、標表面の溝にいくつかある丸い場所から。それがわかったところでなんだという話だが。


 生物以外にも反応する。動くもの全般に対してだろうか?

 静止したものに対しての反応は、標が動かないため実験できないが。

 

 

 人体に反応してしまうのであればなかなか近づけないけれど……。

 ならば、もう少し強めに障壁を張ってはどうだろうか? それこそ、全力で。


 もう一度僕は擬人体を作り出す。

 髪の毛も肌も目も、タンパク質様の物質を魔力で作り出し、外見はほぼ僕と似せている擬人体。服もほぼ再現した。内臓や骨や血管は若干荒いが、これはまだ改良の余地があるだろう。

 改めて間近で見ても……僕が透明化した上でこれを出し、プリシラ相手に囮に使えないかと思ったがやはり無理か。


 違和感がある。動かすことは出来るし表情も作れるが、どこかおかしい。

 多分原因は、魔法の使い方というよりも僕の心理にある。

 

 なんとなく、やはり自分の顔や体を作り出すのは忌避感があるのだ。自分の顔というのはどういうものか、目の前に再現するのは気持ち悪いといってもいい。

 別に僕は自分が嫌いなわけではないけれど、不思議なものだ。



 欠陥だらけで改善の余地もあるが改善する気にもならない囮。

 だが、こういう場合は重宝しそうだ。


 同じように、僕はもう一度擬人体を標に近づける。ただし、障壁は先ほどよりも強めに。


 絶縁体の障壁のはずだが、電圧の関係だろうか。電気なのは間違いないと思うが、僕の障壁を絶縁破壊するほどの強力な雷。

 なるほど、これは高名な魔術師も落ちるわけだ。魔術師ならば、僕の知らない雷除けの方法を知っていてもおかしくはないけれど。


 また雷が落ちる。

 だが僕の体は原形を留めており、無傷……でもないな。実際の僕の体ならば若干の火傷と痺れがある。それくらいなら平気ともいえるが、それでも念のため、今回力押しは難しいようだ。


 ならば、避雷針のようなものでアースして……も難しいか。

 地面に接地しようとしてもその大地は遙か下方だ。宙に浮かんでいる以上、電気の逃がしようがない。


 浮遊している物体の雷はそれなりに厄介なものだ。逃がしようもなくて、出力の関係でまともに受け止めるのも難しい。

 いや、多分雷自体が。

 アリエル様も戦場に無数の雷を落としたと伝えられているが、大群相手に使えば、直接の感電と側雷と地走りとでそれはそれは凄惨な現場となったことだろう。肉の焼けるいい匂いがしそうだ。



 しかし、どうしたものだろう。

 僕は腕を組んで考える。

 力押しは難しいが、出来ないわけではないと思う。だが何発も雷を受けていれば僕の魔力の限界への挑戦になってしまうし、挑戦に失敗すればさすがに死ぬだろう。そこまで命は賭けられない。

 

 他に試していない手は……。

 では、一度に二つのものに雷は落ちるのだろうか?

 やってみればわかるだろう。調整が難しいけど。

 

 また僕は適当に貨幣をつまみ出す。鉄貨と銅貨で分かれたけどまあいいや。

 二つ同時に投擲する。ある程度離れた場所だが、どうだろう。



 

 また雷が落ちる。

 やはり、二つ同時に、二つの雷が正確にコインを焼く。


 本当にどうしたものだろう。エネルジコが仮にここまで来られたとしても、この雷は攻略できなさそうなんだけど。

 僕も越えられそうにない。まさか雷を避けるわけにはいかないだろうし、魔法由来でもなさそうだから闘気でも消すことは出来ないし……。

 

 ……そうだ。魔法由来ではないのだ。

 ならば、この雷の挙動は何故だろうか?


 あまりにも正確すぎる。コロナ放電などもなく、投擲した小さなコインに正確に一本だけ落雷させる技術はどうしたものだろうか?

 雷雲があっても、飛んでいる鳥に落雷はほとんどしない。アースもされておらず、周囲との電位差が小さいからだ。

 きっと今の僕やコインも同じような状況のはず。なのに、小さなコインを正確に雷は狙い撃っている。

 

 これが魔法の雷であれば別だ。ある程度術者の意図通りに動く。しかし、先ほどから僕らが受けているのは普通の雷。

 本来指向性のないもの。それが、僕らを狙い撃っている。

 つまり、狙うために何かをしているはずだ。



 飛行機にも雷は落ちたはず。たしか、あれは空気との摩擦で静電気が溜まっているからだったと思う。

 ならば、静電気? それを帯びさせるような何かを出している……?

 今のところ、その何かは僕には感知できていない。それが直線状に飛んできているのか、それとも波状に広がっているのか、それすらも。


 というか、その仮説にはなんの根拠もない。飛行機がそうだったからそうなるとしか。

 しかし他に雷を狙った場所に落とす方法が思いつかない。

 もしもそうであるならば、それは空気中で使える電子線照射兵器に他ならない。真空中でもないのに、使えるとも思えないけれど。


 静電気対策。何かあっただろうか。通常は、地面や金属に触れて放電すればいいはずだ。でも、今それは出来ない。

 僕はまた腕を組んで考える。


 先端放電を防ぐために、障壁を出来るだけ正確な球状にする。それも効果は薄いどころかない気がするが、手間ではない。一応やってみよう。

 あとは、静電遮蔽の原理はどうだっただろう。

 他にもいくつか仮説を立てて……。





 それからも幾度となく試したが、障壁の形を変えてどうにかは出来なかった。障壁の形が丸でも網状でも立方体でも関係なく雷は落ちてくるし、電撃は浸透してくる。

 本来ならば魔力切れを起こしそうなほどの試行回数。だが、そんな実験を繰り返しても、不思議なことに魔力切れの兆候は見えなかった。これは、エウリューケと同じようなことだろうか。あまり自分で言いたくはない。

 

 標の方のエネルギー切れの兆候もない。というか、可動部も何もないし外見からは判別できないだけかもしれないけど。

 そういえばエネルギー切れもあるけど、ここから攻撃して破壊してみるという手もあるか。外殻があるのか、それとも中まで均質な石様の物質なのかはわからないが、それでもあの雷を出す部分を破壊すれば近づけるようになるかもしれない。

 ……駄目か。一応この国で人が生活するための大事なものだ。壊すことは出来るかもしれないが、大惨事になる可能性もある。破片一つでも、ミールマンに飛んできた石を落とすのと変わらない。


 それに、この国に昔からあるものだ。水煉瓦のような不壊の物質かもしれない。近づいて見てみたいが、それが出来ないのがもどかしい。

 水煉瓦といえば、あのリドニックの《災い避け》ならばなんとかなるかもしれない。……こんな私事に『国宝を貸してください』とはいえないか。 

 一度戻って、電線を下から引っ張って……駄目だ。既に地球における成層圏よりも高い場所だ。電線の重さもあるし、そもそも長さがものすごいものになる。

 


 他に何か手はないか。

 僕は頭を掻き毟る。しかし悩んでも解決しない。ここにエウリューケやモスクやエネルジコがいればいいのに。彼らならば、きっと他にも解決策を浮かべてくれるだろうと思う。

 ここまで悩んだのだ。力押しはしたくない。いや、力も僕の一部だ。それを使うのに躊躇はないし、幾分か力押しの要素はあってもいいけれど、知恵と工夫で何とかしたい。知恵がないのが悔しい。


 相手は何かが意図的に起こしているが、それでも自然現象の一部だ。

 雷、電気。自然を制して生きている人間の僕が、それを制せないのは悔しい。


 そもそも、飛行機でエネルジコがここにきても……。



 ……いや、あれ?

 僕の思考がふと止まる。そうだ。おかしい。

 

 飛行機には雷が落ちる。静電気を帯びているから、雷がそこをめがけてくるのだ。

 なのに、中には浸透しない。乗客が感電することもないし、それにより墜落することもない。

 では、何故だっただろうか?

 思い出せ。こめかみをぐりぐりと押しながら僕は考える。

 そうだ、彼らにある知恵が僕にはない。だが、知識はある。エピソード記憶はなくなってしまっても、人には言えない秘密の意味記憶が、僕の頭にはまだ詰まっている。

 そのはずだ。

 

 思い出せ。何故飛行機が落ちないのだろう。雷に打たれても、問題ないのは何故だ。


 機体表面が金属だから。それはたしかそうだ。ファラデーケージになっているから、雷に打たれても内部には入らない。

 いや、だがそれならば僕も試した。金属ではないが障壁を網状に組んで……。


 網状に……?

「ああ!!」


 僕は思わず大声を上げる。誰かが聞いていたら恥ずかしいが、誰も聞いていないから構うまい。

 

 違う。僕は正確に静電遮蔽をしていなかった。

 障壁は絶縁体で作っていた。あれを形作るのは、導体だ。


 

 雷を怖がりすぎていた。

 電気を通さないから絶縁破壊が起きるし、障壁内の僕にも落雷してくる。そこが逆だったのだ。


 思い立った僕は、また擬人体を作り上げる。

 そして、その周囲の障壁は金属様の物質へと変換し、網状に組み上げる。

 それから先端放電はさせないべきではない。むしろさせなければ。電荷の逃げ場がない。



 作り上げた障壁は、まるでサーカスでバイクが走り回る見世物のような網籠。余裕を持って、僕よりも大分大きく造り、そして所々に棘がある。正直不格好だが、不可視化してしまえば問題ない。

 それよりもまずは実践だ。 


 先ほどまでと同じように、僕は作り上げた囮を標に近づけていく。

 ゆっくりと、だが自信を持って。


 そして、先ほどから雷に打たれている場所まで行き、一度止めて唾を飲んだ。

 思考した試行とその結果を待つ瞬間。

 まるで、試験勉強の結果を捲る瞬間のようだ。試験を受けた覚えはないし、多分受けたこともないけど。


 もう一歩だけ擬人体を前に押し出す。そこでは、やはり先ほどまでと同じく一瞬チリと音が鳴った気がする。

 次の瞬間、やはり雷は落ちた。


 だが。


「…………!」

 グッと拳を握りしめる。中の人体は無事だ。落ちた雷は、無事に放電されていった。

 さすがにあの障壁に触れば感電はするだろうが、径を大きくして更に僕を絶縁体の障壁で覆えば問題ない。

 導電体の障壁と絶縁体の障壁。二重構造にすればよかったのか。

 

 やはり、工夫とは大事なことだ。わずかな工夫で大きな効果を出すことが出来る。

 今回僕はズルしたけれど、これが本当に自分の頭で考えたものであればどれだけ嬉しいことだろうか。


 僕は大きく溜め息をついて、それから体勢を立て直す。

 実験は完了した。念のためもう一度やってみてから、標に近づくとしよう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ