受け取ったもの
12/8 作者の仕事の事情で更新間隔が大分開いております。
申し訳ありませんが、8日の深夜には投稿できると思いますので見捨てないでください。
「さて、行きましょうか」
グーゼルに歩み寄り、背中に手を当て起こす。しかしその脱力した身体は重たいようで、僕が手を離せば簡単に背中から落ちそうになった。
ほとんど唇を動かさず、グーゼルは言葉を吐く。吐息が掠れたように響いた。
「あたしも、いいよ……」
「そういうわけにはいきません。波以外にも、まだ問題は残っている。……波すら、まだ解決はしていないんですから」
今の僕の耳ならばグーゼルの声もよく聞こえる。解像度ではなく音量の問題だが。
うめき声のようなその震える声に、一切力が入っていなかった。
だが、今戦力を欠けさせるわけにはいかない。引きずってでも連れていく。まだ、彼女を死なせるわけにはいかない。
「魔物への対処は、ヴォロディア王だけでは少し厳しい。貴方も、回復していただかなければ。この国のために」
「いいや。さっきのアブラムの言葉聞いたろ。魔力の多いあたしが波に飲まれれば、それだけで波は多少鎮まる。そうしろよ」
「しかし……」
「……まだ嘘があるな……、そちらも、直した方が身のためだ……」
聞こえてきた声に、僕は振り返る。まさか、あれだけの攻撃を加えたのに。
「……そう驚くこともないだろう…………仙術の神髄は……自らの身体を律し、正し続けることだ……もちろん、意識の回復も早い……」
途切れ途切れで力のない声だ。しかし、やはり意識は鮮明らしい。動けないのは、混沌湯の効果だろう。
こちらを向かず、ただ声だけが口から漏れている。そんな雰囲気だ。
「嘘などついていませんが」
「……私はお前の合わせ鏡だ。二度しか見ていない。けれど、やはり私と同じ問題があるのだ。同じだからこそ、察することが出来る……」
ぽつぽつとアブラムは語る。その声に、グーゼルが唇を歯に当てた。悔しそうに。
「波も迫ってきていますし、貴方の言ったとおり今はあまり時間が……」
「……それについては、……問題ない……私が飲まれれば、少しの猶予が出来る……」
「何を根拠に」
「……私の懐を探れ……」
仕方なく、一度グーゼルを寝かせてから、示されたアブラムの懐を探る。そこには、紐で綴じられたそれなりに分厚い紙の束があった。
大判の本。そんな感じだが、中にはぎっしりと文字が記されている。角ばった字体に、これを書いたであろうアブラムの几帳面さが見て取れた。
「これは?」
「……北壁に関する……実験資料だ……。使い方は任せる……」
「それが本当なら、使い方は一択ですね」
本当に使えるかどうかはわからないし、結局有効な手立てがあるかどうかはわからない。けれど、これは今の事態に収拾を付けるために使うべきだ。
「それは、違うだろう……。それを、ヴォロディア王に売りつける……、それをたてに、私を殺したという名声を得る……、使い方は一つだけではないし、また択一ではない……」
笑うように咳き込みながら、アブラムはそう言う。
まだ何が言いたいのかはわからないが、言っている意味はわかった。
「その『一択』の内容はわかる……それを使って、この北壁をなんとかする……だが、それはしなければいけないことではないのだ……」
アブラムは口の端から血を流す。先ほどの覆面の内側といい、手加減はしたが、やはり内臓を痛めていたか。
「今、グーゼル様に吐いた嘘も、同じこと……、もっと正直に、羞恥心は時には毒だ……、私のように、国を殺すほどに……ッ」
血の塊が気管に入ったのだろう。しかし、その咳も血の塊を押し出すほどの力はなく、ただ苦しみが長引くだけだった。
やがて、肺の奥まで入ったのだろう。だがもはや吐き出すことも出来ないようで、少しだけ顔が青くなって見えた。
喘鳴音が微かに聞こえる。
「しなければいけないことにこだわるな。いつしか己を見失ってしまうぞ」
「国を守るために、グーゼル殿を助けるのがいけないと?」
「……それが本心なのであれば、……構わないだろうな……」
アブラムは、自らの袖の中を探る。
僕は驚き、アブラムの顔を見つめる。何故、先ほど自分の懐を探らせたのか。
そして、そこから何を出そうというのか。危うい。手首ごと引きちぎってしまおう。そう思ったが、アブラムはなんとか首を横に振って僕をおさえた。
「勘違いするな。もう、抵抗はしない」
「……動けるんですね」
「私も、何度か薄めた混沌湯を含み耐性を付けてある。いずれ死にはするが、腕程度動かすならば、どうにか、な……」
左手で探り出したのは、小さな瓶。短い試験管のような液体の入ったその瓶を口にあてがうと、栓を噛み砕き中の銀色の液体を口の中に流し込んだ。
「革命で失伝してしまったが、リドニックのとある貴族に伝わっていた秘薬だ。わずかながら、魔力を復活させる。混沌湯の中にあっても……」
ふらりと力を抜いた腕を床に落とし、アブラムは息を吐く。魔力を復活させる薬……、興奮剤とかそういう類いのものだろうか。
「……先ほどグーゼル様に吐いた言葉、あれは嘘だろう」
「国のために、というところでしょうか」
咄嗟に否定してしまったが、身に覚えはある。これも、あの少女の死と無関係ではないのに。
そして、やはり急に変わることなど出来ないのだ。今まさに、同じことをしてしまうなど。
まあ、自覚はした。これからゆっくりと直せればいい。
「……わかっているか。そうだ。理由を探すな。つけるな。目的のために、理由を作るな」
先ほどよりも少し楽になったのか、流暢に、滑らかにアブラムはそう言葉を口にする。
「お前は、理由がなければ動けない。私と同じように……」
「それ自体は悪いことではないと思いますけどね」
どんなことであれ、動機は必要だ。けれど、問題だということもわかっている。
その理由をどこに求めるのか。それを、僕は間違っていた。
「私もそうだった。だが、理由など簡単に消えてしまうのだ」
アブラムは目を閉じる。遠い過去に思いを馳せるように。
「仙術の門を叩いてしばらくは、私は使命感に燃えていた。尊敬する師の下で、研鑽しよう。この力で、この国を守ろう、と。思えば、その時が一番幸せだったのかもしれない」
泣きそうな顔で、唇を歪めた。
「だが、十年以上前から、寿命が知れなくなった頃から、私はその理由を見失っていた。何故民を守らなければいけないのか。何故この身を危険に晒し続けなければいけないのか。何故だかわかるだろう、お前なら」
その問いに、僕は頷いた。
なるほど、本当に同じだったのだ。
「守る理由を国に求めていたから」
「……そうだ。守るべき民、守るべき国であってほしいと、そう願い始めたからだ」
アブラムは、よろよろと立ち上がる。そこまで魔力が回復したのか。
……そういえば、先ほどから一切呼吸していない。これは、回復した魔力で穴埋めしているのだろうか、とにかく混沌湯を取り入れていない。
「そこまで言えば、もうお前ならわかるだろう。自らの吐いた嘘について。そして、これからどうすればグーゼル様を説得できるか……。いや、説得すら必要ないことを」
振り返らずに、砦を出ていく。その前方に、迫ってくる波が見えた。
何かを求めるように、奪い取るように伸ばされる腕。
助けを求めるように、叫ぶように開かれた口。
白い人形の群れが、一塊になってこちらに迫ってくる。
逃げなければ。
アブラムの意図はわかった。だが、それでも行動に出なければ手遅れになる。
僕は、改めてグーゼルに駆け寄る。そして、抱き起こし、グーゼルの腕を僕の肩に回した。
「あたしも……」
「いいえ。助けます。親切にしていただいた人が死ぬのは、僕が嫌なので」
立ち上がれないその身体を、引きずっていくのも悪いか。
というよりも、それでは速く走れない。その膝と肩を抱き、抱え上げる。
「……おま……」
「今グーゼル殿の意見は聞けません。僕が助けたいから、助けます」
これでいいのだろう。
真情の吐露は恥ずかしい。けれど、今は必要だ。
視線の先でアブラムが振り返り、微笑む。
「惜しいな。あと一日お前に会うのが早ければ、このような間違いなど起こさなかったかもしれないものを。だが、まあ、悪くない気分だ」
アブラムの顔に異変が起きる。
いや、顔だけではない。おそらく、全身に。
「……っ」
僕とグーゼルは、揃って息を飲む。急激な変化だった。
「そうだ。しなければいけないことなどない。一言、自分の思いを吐けばそれでなんとかなるものだ。私は、少し遅かっただけで……」
言葉を続けるアブラムの髪の毛が細く、艶がなくなっていく。
額に皺が出来る。染みが広がっていく。
頬は少し垂れ、法令線が強調され、口の横にはマリオネット線が作られる。
口の周りは萎れたように窄まり、顔全体に張りもなくなっていった。
肩に人生の重みがかかったように、背中が丸くなる。
指は、節くれ立っていった。
老いていく。まるで、人生のフィルムを早回しするように。
張りのない肌を涙が伝う。その涙もすぐに凍り付いてしまっていたが。
歯も抜け落ちたようで、唾を吐くように雪にそれを吐き捨てる。
「ああ、後の世代に何かを伝えるということは、素晴らしいものですね。導師様。羨ましゅうございます。既に、導師様はこの国に、私たちにずっと『何か』を伝えておられた」
白い波が迫る。
アブラムは、背後のそれを見ない。音もなく迫る、死の壁のことなど気にしていない。
「〈狐砕き〉カラスよ。お前がどう思っているのかは知らないが、最期に止めに来たのがお前で良かった。私と同じく、道を誤りそうなお前で」
アブラムの肩を、白い手が掴む。その頭を抱えるように、その胴にしがみつくように波が絡みついていく。
「その目の迷いが消えたようで何よりだ。先に行く。順番通り、お前は後から来い」
「アブ……」
腕の中のグーゼルが、アブラムの名を呼ぼうとする。
しかし、もう間に合わない。沈んでいくように、アブラムの身体が引き込まれ、飲み込まれていく。
音もなく、歓喜の声を響かせることもなく、白い手が身体を包む。
最期に顔が消えて、それから一瞬の後、波が引いた。
効果音でも付けるのであれば、『サーッ』というのがあっているだろうか。
しかしやはり無音で、波が引く。
アブラムがいたはずの場所。運ばれていったのであればいるであろう場所。砦の周囲、それから、氷獅子があのときいた丘の上まで。
綿菓子が溶けるように、波が削れて消えていく。
迫ってきたときと同じ速さで、地平線の奥まで消えていく。
まるで、何事もなかったかのような静寂。
もしかして、これで解決したのだろうか。
そんな楽観的な思考で、僕が呆けたようにそれを見ていると、やはりまだ終わっていなかった。
再び地平線の奥から、波が迫ってくる。先ほどまでと同じように、同じ勢い、同じ高さで。
「……逃げましょう」
なるほど。アブラム一人と砦の周囲で死に損なっていた少数の魔物たちだけで、地平線の先まで一時的に消退はするのだ。
グーゼルも飲ませれば、山の辺りまで戻っていってもおかしくないほどの反応。だから、アブラムはここにいたのか。
だが、まだ来る。つまり、足りないのだ。飲ませる生け贄が。
しかし、グーゼルでは駄目だ。グーゼルは助ける。『僕はそう決めた』。
ならば、守らなければ。
先ほどのアブラムの実験資料。その中に、有効な手立てがあれば良いけれど。
「…………」
グーゼルを見れば、ぐったりと浅い息を繰り返している。そういえば、混沌湯に侵されていた。吸わなければ自然と排出されるとはいえ、それまでに死んでしまう恐れの方が強い。
外の雪の上にグーゼルを一度下ろし、それから先ほど切り落とされた背嚢を拾い上げる。これも直さなければ。
とりあえず、修理は後だ。僕は、背嚢の中を探る。
探すのは、この前作った薬。
少女に指南するために、自ら作って見せた水薬。肝臓の働きを強め、毒の排出を助ける。
特効薬ではないし働きも緩やかだが、きっと混沌湯にも効くだろう。
飲ませないよりはマシ程度。しかし、飲ませないよりは確実に良い。
どうか、あの少女との出会いが無駄になりませんように。
その水薬を見て、祈った。
「頑張って飲んでください」
瓶の蓋を開け、わずかに開けたグーゼルの唇から注ぎ込む。内容量一口程度の小さな瓶だ。飲み込むのに苦労はしな……いと思ったがそうでもないらしい。
青い顔をして、小刻みにグーゼルが首を振る。
それでも気道に入らないよう頭を持ち上げて少し待てば、ようやく飲み込めたようで喉を鳴らした。
よかった。嚥下する点穴は胸骨上だから女性には使いづらいし。そもそも、魔力使いのグーゼルには点穴効かないし。
とにかく飲めた。
それを確認して、まずは僕の外套でグーゼルを包み、もう一度抱き上げる。
初めて会ったときにテトラを運搬したのと同じ、横抱き。もう、三年くらい前か。あの頃が少しだけ懐かしくなった。
グーゼルは抵抗しない。
もう飲まれるのは諦めたのか、それとも生きる希望を見出したのかはわからないが、抵抗しないのであればそれでいい。
「……すまねえな……」
「いえ。アブラムさんが飲んでいた、魔力を回復させる薬だったらもっとよかったんでしょうけど」
あの銀色の薬は僕も初めて見る。貴族秘伝というからには、製造法は外にはきっと流出していないのだろう。グスタフさんなら知っているだろうか。
まあ、もうその現物を見ることが出来ないのだから考えても仕方がない。残りがあるとは思えないし、アブラムが持っていたとしても、もうどこにいったのかわからない。
それよりも、なにより。
逃げなくては。もう、壁はまた迫りつつある。
「飛ばします」
僕は雪面を蹴る。
踏んでわずかに溶けて水に変わった雪に闘気を通し、強化して足場へと変える。
身体の方も、ある程度セーブしながら疾走を始める。
瞬く間に、砦が遙か後方に飛んでいった。
魔力のない身体は、ここまで闘気が扱いやすいのか。どうやら、邪魔しないように魔力を押さえてもいくらかはやはり損耗してしまうらしい。もしかしたら、この逆もあるのだろうか。調和水を飲めば、魔力が扱いやすくなったり……。
まあ、それもあとだ。
まるで羽の生えたかのような軽い身体。感じる重さは腕の中のグーゼルのみだった。
この分ならば、僕らがスニッグに戻ってから波が到達するまでに、いくらかの猶予は作れるだろう。だんだんと遠ざかっていく波は、そう思えるのに充分だった。
何もない雪原を、僕は走る。
冷たい風は、闘気で体温を保てば大きな障害にならない。風が当たるであろうグーゼルは僕の外套で包んである。毛皮などはついていないが、ないよりはマシだろう。
快調だった。
しばらく黙っていたグーゼルが、突然口を開く。こちらに目を向けないように、合わせないようにしながら。
「……悪かったな。身内の争いに付き合わせちまったみたいで」
「もはやこれは仲間内の争いとかそういうものの規模ではないでしょう。国家の存亡の危機です」
思わず本音が漏れる。何故だか落ち込んでいるグーゼルに追い打ちをかけるようだが、それでもまあ間違ってはいまい。
「本当、傍迷惑な自殺だよ」
僕へでもなく、波に向かってグーゼルは言う。おそらく、波の中にいるアブラムに向けた一言だろう。
しかし、自殺。やはりそんな意図もあったのか。
「……ヴォロディア王の思想に共鳴。銃の効力がわかりやすい魔物という敵を用意し、その活躍を邪魔する紅血隊、主にグーゼル殿を排除する。そんな計画だとは思いました。しかし、続きがあったんですね」
「さっきあいつが自分で言っていたよ。もう、限界だったんだと」
ようやく手に力が入るようになってきたようで、グーゼルの腕がぴくりと動く。しかし、まだ自由には動かせないらしくまた力を抜いてだらりと下げた。
「戦いたくなかったんだってよ。もう、死ぬような場所にはいられないって……」
「……最後の辺りの言葉は、そういう意味でしたか」
いまいち、受け取りきれていなかった。
しかし、その言葉で大体わかった気がする。
アブラムは、自分が死ぬ意味がほしかったのだ。
だから、自殺か。自分も北壁に飲ませて、その死に意味を作りたかった。
死ぬのであれば、一人で死ねばいいのに。その『理由』を作るために、この国を危険に晒した。民主主義への支援のために行った凶行ではない。凶行を行うために、民主主義への支援という理由を作った。順番が逆だったのだ。
なるほど。だから、一言本音を吐けばこんなことは起きなかった。
その原因が、羞恥心。弱音を吐くのが恥ずかしかったから。限界まできた。きてしまった。
「あたしさー、〈淋璃姫〉って呼ばれるの嫌だったんだよ」
「……そんなこと言ってましたね」
唐突に変わった話題。
しかしきっと、グーゼルにとっては変わっていないのだろう。その悲しそうな顔が続いているところからして、そう読み取れた。
僕は次の言葉を待つ。
「あたしは、もう何代も『姫』ってもんを見てきた。それこそ、十何人も」
思わず、『年齢隠すのやめたんですか』と茶化しそうになった。
だがこの雰囲気ではそんなことは言えない。危なかった。
「みんな、弱々しいんだよ。何人もの侍従や侍女、女官に囲まれて悠々と生きてんの。苦労なんて、全く無縁な顔で」
「姫というものにとっては、それも仕事のうちでしょう」
清貧の姫というものがいたとしても、人気は出るかもしれないが本来のものとは違うだろう。
封建社会においては、跡継ぎ以外の子供たちは政略の道具だ。
食べ物を無駄にするのは許せないけれど、それでも、贅沢で安らかな生活も彼らの仕事のうちだろう。
「そうだよ。でも、あいつらは生きていくのに助けが必要な弱い奴らなんだ。雪海豚一匹殺せねえだろ」
「……それは、姫じゃなくても……」
大の大人にも普通は難しいのだ。僕からしても、実感は薄いというのが問題だけど。
「だからよ……」
パタン、とグーゼルは自らの額に手の甲を乗せる。目を隠すように、流れる液体を見せないように。
「〈淋璃姫〉って呼ばれる度に、お前だって守られる側だろって馬鹿にされてる気がしてた。ほんと、馬鹿だな」
声が幾分かしっかりしてきている。腕も動いているし、薬が効いてきたのだろうか。
そんなことを考えながら、グーゼルの次の言葉を待つ。震える声で紡がれる、多分、懺悔を。
「でもよ」
長い息を吐いて、グーゼルは笑顔を作る。作り笑顔、だが、なんとか笑えていた。
「守られるのって、悪かねえんだな」
「今はただ、グーゼル殿を連れて逃げているだけですけどね」
「……でも、温けえし。ありがとな」
恥ずかしそうに、グーゼルはそっぽを向く。
真情の吐露は、恥ずかしい。僕も先ほど感じたばかりだ。
これ以上、何か言うのも変なものだろう。そう思った僕は、無言で応える。
それきり無言で、スニッグに着くまで一言も喋らないつもりで。
……どこまで見通していたんだろうか。
僕の頭の中で、プリシラの言葉が反芻される。
『弱いことは罪じゃないと、みんなが気付けば良いんだけどね』
本当に、その通りだった。
テトラ「そこ私の席ぃぃぃぃ!!」




